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第9章私はもう後戻りが出来ないところまで来てしまったようだ

その後、秦軍は趙軍との戦に勝利した。

私と白起は一時的に行動を別にし、私は兵站係と共に安全な場所で兵糧の手配をし、白起は前線で戦の後始末をしていた。


そしてしばらくすると白起が戻ってきた。

久し振りに陣営で2人きりである。


一見すると精悍な顔つきだったが私には酷くやつれている事が見て取れた。


私は白起を見ると言った。

「あの噂とは本当なんですか」


噂とは白起が趙軍の捕虜となった兵士を生き埋めにしたという噂である。


「そうだ。」

白起は冷たい目で私に告げた。


「どうしてですか?」

私は白起がこのような事を進んでやるような人間には思えず、彼に詰め寄った。


すると彼は淡々と話し出した。

「俺は先日、楚を壊滅寸前まで追い込んだ。魏と韓も叩いた。後は趙だけだ。そして趙は唯一秦に対抗できる国でもある。だからここで、戦える成人男性を全て殺した。趙にはもはや篭城する力は無い。俺の噂を聞けばどこも援軍を送らない。つまり、趙を滅ぼし乱世を統一するためには必要な事だ。」


私にはどうしても納得がいかなかった。


「だから抵抗しない人間を殺したんですか?」

「もう既に乱世が続いて300年が経つ。その間に戦で死んだ人間はこの比ではない。」


私は気付いたら泣いていた。


「それでも。たとえあなたが本当は正しいとしても。私はあなたの決断は間違っていると思う。あなたのやった事は許される事ではない」


私がそこまで言うと、彼は突然私を抱き寄せ口付けをした。

私は離そうと抵抗したが、白起の力は強く、私には振りほどく事ができなかった。

そして白起は唇を離すと、私を抱きしめたまま言った。


「俺は平和を望む。だがそのための手段を戦しか知らない。だからこういう方法しか取れないし、これからも同じ様なことをやり続けるだろう」

「お前が怒ることは初めから分かっていた。多分お前が正しくて俺が間違っている。お前はたとえ、どんな目に遭おうとも自分の正義は曲げないだろうし、俺はそういうお前が好きだ。」

「俺とお前は相容れないし、俺と居る事はお前の存在を貶める事になるのかもしれない。」

「だが俺はお前を手放さない。お前を失う事は死ぬ事と同じだ。だから俺を認めろ。俺のやり方に従えとは言わない。だが俺のやる事を見逃し、これからも俺と共に生きろ。」


それは私が知る中で最悪の告白だった。

でも私は彼の手を振りほどく事ができなかった。

きっともう後戻りが出来ないところまで来てしまったのだろう。


簡単な話だ。

私はこの男を愛してしまったのである。

だから私は体の力を抜き彼の力強い抱擁に身を任せたのだった。


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