第3章恵子と魏冄
白起が解任されてしばらく経った頃、私はたまたま近くに来ていた魏冄と話を始めた。
私は魏冄に言った。
「随分と長い付き合いになりましたね。」
魏冄は言った。
「そうだね。あの頃は忙しかったな。今は逆に暇すぎて困っちゃうけど」
私は言った。
「確か、始めて会ったのは趙で白起の家政婦をやっていた頃ですよね」
魏冄は驚いて言った。
「家政婦だったの?てっきり愛人だと思ってた。」
私はそういえば魏冄が誤解している様子で、それを訂正しなかった事を思い出した。
あの後も訂正しなかったばかりか、今は愛人どころか、世間的には妻で通しているため誤解が解消される機会がなかったのだろう。
魏冄はすると笑みを浮かべて言った。
「じゃあ。あの時は、2人はただの主従だったんだ。あまりに2人が愛し合ってるから、てっきり、恋人だと思ってたよ」
私は思った。
たしかに、あの時は白起の事を悪く思っていなかったのは事実だ。
でも恋愛関係になったのはもう少し後だったりする。
あの時は私に恋愛感情までは無かっただろう。
だから私は言った。
「大げさですよ。あの時はまだ、愛し合ってはいませんから。」
すると、魏冄は言った。
「そうかな。白起のために、毎日食事を作ったり、白起と毎日話をして、一緒に寝てたんでしょ。そういう君達の日々が充実したものであったことは君と白起の顔色を見たらすぐ分かったよ。そしてそれは愛し合っていなきゃ出来ない事だよ。」
私は魏冄の言葉を聞いて思った。
もしかしたら私はあの時点で白起の事を愛していたのかもしれない。
でも少なくともあの頃の私に白起に好かれたいとかそういう気持ちは全くなかったのは事実だ。
だから私は言った。
「どうでしょうか。あの頃はただ必死でした。なんとかただ生きる事すら必死でいつ壊れてもおかしくない白起を助けたかったんです」
それを聞くと魏冄は寂しげな表情を浮かべて言った。
「やっぱり君は特別だな。多くの人々は、白起を見ると恐れ、妬み、時に敬うだけで、彼のことを理解しようとしない。俺は白起の事を理解はしているつもりだけど、結局はあいつ自身のことよりもあいつの才能を優先してしまい、あいつを苦しめてしまった。その点、君は違う。君は白起を理解しただけでなく、白起を愛し、彼を救おうとした。そして救ってしまった。」
その言葉を聞いて私は言った。
「いいえ。それは違います。私は白起を救ってはいません。救いたいんですよ。白起は今も、過去の罪に苦しんでいます。許されない事かもしれないけど、私は白起にそういう事は全て忘れて幸せになってもらいたいんです」
私は思った。
きっと、それは無理だろう。
白起は自分を許すことが出来ない。
それに神も白起を許さない。
それならせめて白起ではなく、私が不幸になろう。
神様も、白起もそれで納得してはくれないのかと。
そんな私の様子を見て魏冄は言った。
「あまり難しく考えないことだよ。きっと、君が幸せである事が白起の一番の願いだから」
私は思わず笑ってしまった。
私達は互いに思いあうがあまり回りが見えなくなっていたのかもしれない。
そして決意した。
まずは私が幸せになろう。
白起との日々を思う存分楽しもう。
それはきっと白起の幸福にも繋がるはずだから。




