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第2章恵子の話

魏冄は趙に着くとすぐに白起に会いに行った。


白起は魏冄を見ると言った。

「なんの用だ?なにか有ったのか?」


魏冄は苦笑いを浮かべて言った。

「兵糧が苦しいんだ。なんとか工面するけど、万が一は覚悟しておいてくれ」


白起は言った。

「分かった。極力早く、決着をつけよう」


その後、2人にはしばらくの沈黙が訪れた。

腹の探り合いである。

魏冄は必死に白起の様子に変化が無いかを考えた。

白起は、魏冄が兵糧程度の話でわざわざ戦場に来る事は無いことを知っていた。

そのため真の目的を考えていた。


そして意を決し、魏冄が言った。

「単刀直入に言う。最近、女を囲っているらしいね」


それを聞くと白起は少し怒った様子で言った。

「それは真実だ。だが誰から聞いた。俺はその件は秘密にしているんだが」


魏冄は言った。

「お前は秦国で有名人だ。お前の行動全てに秦国民は注目している。秘密にするなんて無理な話さ」


白起はそれを聞いてため息をついた。

「そうか。覚えておく」


そして白起は魏冄に言った。

「成る程。つまりは女が出来て俺が府抜けたのでは無いかが心配になって来たというわけだね」


魏冄は言った。

「まあ。そうだよ。それでどうなんだい?心境の変化はあった?」


白起は言った。

「どうだろうな。正直、最近は生きるのが少しだけ楽しくなった。恵子は俺の生活にいろどりを与えてくれているらしい。だがそのせいで死ぬことはもっと怖くなった。」


それから白起は恵子の性格や、行動、最近の出来事を魏冄に話した。

もっとも照れくさかったのか出会いだけはぼかして伝えた。

魏冄はその言葉を聞いて、白起の愛人という桃井恵子という女性は本気で白起に惚れているのかも知れないと思った。


そして魏冄は真剣な顔で問いかけた。

「友として問いたい。君が彼女を愛している事は分かった。彼女との生活に喜びを感じている事も。そしてこれから俺達のやろうとしていることは、大殺戮だ。大罪だし、真っ直ぐな彼女は認められず、君の生活は奪われるかも知れない。それでも良いのかい?」


それを聞くと白起は自嘲して言った。

「さすがの俺も自分の本分はわきまえているさ。俺の本質は人を殺す道具だ。迷いはない。やるさ」


魏冄はその言葉を聞いて安心した。

もっとも白起を深く理解している魏冄には白起がそう答えることは分かっていた。

それと同時に、政治家とは別の白起の友としての、魏冄は密かに願っていた。

恵子がもし白起を、普通の人間に戻してくれるなら。

それは政治家としては大失態だが、友としては最も歓迎すべき自体であると。


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