第6章魏冄の決意
白起は軍を率いると破竹の快進撃を続け、楚を徹底的に攻め立てた。
そして1月が経った頃には楚の首都を落とし、秦に従う事を誓わせて秦に凱旋した。
魏冄は満面の笑みで、白起を出迎えた。
「やっぱりお前は天才だ。驚いたよ。本当に楚を倒してしまったんだな」
「ああ。」
白起は静かに頷いた。
よく見ると白起は少しやせ、顔もやつれていた。
魏冄は心配になって問いかけた。
「どうしたんだ?随分疲れているじゃないか」
白起は言った。
「別にどうという事は無い。ただ俺は戦が怖いんだ。ましてや今回は多くの命を預かっている。休む余裕などなかったさ」
魏冄はそれを聞いて、白起をなんとか助けたいと思った。
しかし、途中で思い直した。
(もしかして、戦の度にぼろぼろになることこそが、白起の才能の証なんじゃないのか)
それはある種、非情である。
白起は戦を好まないからこそ、戦が強い。
しかし、その結果、白起は戦に駆り出されるのである。
魏冄は白起に言った。
「悪いな。俺はお前の友である以前に、秦国を預かる政治家だ。俺はお前が壊れるまで戦で使い続けるぞ」
それを聞くと白起は笑みを浮かべた。
「そうすると良い。どうせ、生きる目的など無いんだ。子供達の未来のためにこの命をすり減らせるならそれ以上の幸福はない」
魏冄は白起がその様に自分を納得させる事によって、多くの敵を殺したという事実から目を背け、精神を正常に保とうとしていると感じた。
しかし、それは間違いだと思ったため魏冄は言った。
「子供達の未来か。その結果が、多くの人間の死体なんだがな。そろそろ、白起に殺される人間は100万を超えるんじゃないのか」
それを聞くと白起は悲しげに言った。
「それは一生背負って生きていくさ。そして俺みたいな人間を二度と生み出さない。」
魏冄は白起の寂しげな様子を見て、思わず励ましたくなった。
しかし、必死にそれを堪えて冷たい目で言った。
「白起。次は趙だ。準備をしておけ」
「分かった。」
白起は虚ろな目でだがしっかりと頷いたのだった。
白起も魏冄もこの時はまだ知らなかった。
趙の国での戦で白起は運命の出会いをし、この戦が白起と魏冄の最後の戦となることを。




