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第2章敗戦

王や魏冄の見立てどおり、向寿の率いる部隊は、韓・魏の連合軍に大きく苦戦を強いられた。

魏冄はその苦戦の理由が、向寿の指揮にあると見ていた。

向寿は幼少期より兵法を学び優秀な成績を修めている。


しかし、座学と実践は違う。

向寿は根本的に戦というものを理解していない。

人間は駒とは違うし、兵法など、敵の将軍も熟知している。


それに母国の事情や、人間関係など、将棋の盤上には留まらないような様々な要素が絡むのが戦である。

常に正道を歩いてきた向寿にはそれが分からないのだ。

そして敗戦が濃厚となり、向寿自身の戦死や、処罰も検討される段階に入った頃、王が秘密裏に魏冄を訪ねてきた。


魏冄は不自然な程、丁寧に王を迎えて言った。

「王よ。わざわざお越し頂いてありがとうございます。それでどの様な御用でしょうか?」


王は不機嫌そうに言った。

「挨拶は良い。すぐに準備して白起と共に韓・魏を討て」


魏冄はここが自分の人生の岐路であると感じた。

そして魏冄は勝負に出た。

「お言葉ですが王よ。すでに我が軍は劣勢に立たされています。また、韓・魏軍は数が多く、士気も旺盛です」


王はそれを聞いて言った。

「つまり、お前には無理だというのか」


魏冄は内心では震えを感じながら、堂々とした声で言った。

「いいえ。白起に負けはありません。必ず勝利します。私が求めているのはその時の褒美です。もし勝利したら私を宰相に、白起を大将軍にして頂きたい。」


王は魏冄の傲慢な物言いに強い怒りを覚えた。

しかし、理性で物事を考える王は怒りを押し殺し、至って冷静に言った。

「良いだろう。その代わり、ここまで大きな事を言って敗戦したときは分かっているな。白起ともども、厳罰に処すぞ」


魏冄は言った。

「勿論です」


そして王が去って行くと魏冄は一人呟いた。

「さて。もう後戻りは出来ない。お前に懸けるぞ。白起。負けた時も一緒だ」


しかし、そう言う魏冄の顔には明確な自信が現れていたのだった。



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