第9話「なあなあ、エミリー、パンツを僕にくれないか?」
ちゅんちゅんと鳥のさえずりが聞こえてくる。もう朝なのだろうか、目覚めはなんとなく良かったのを覚えている。ベットから起きて、手を上にあげるとぎゅっと背伸びした。
ベット以外に何もない部屋を見ると、心なしか寂しさを感じなくもない。そろそろ行くか。
「よし、パンツ貰いに、ミネルヴァ持ってるかな」
ノーパンだと通気性はいいのだけど、防御が心許ない。男物の下着ぐらいあるだろう。
階段を降りると、もうすでにみんなは馬車の中にいた。ミネルヴァが何かを口にしようと僕を見ている。
「おーい、ミネルヴァ、おはよう。ところで男性ものの下着持ってないか?」
「は?持ってないわよ。それよりもう出るわよ。あんた出発の時ぐらい早く起きなさい。罰金よ、罰金」
またも理不尽に借金が増えてしまった。しかも男性ものの下着がないだと。これは予想外。コンビニらしく、用意しておけ。
「仕方ないじゃない。だって昨日の爆発で全部無くなったんだし、我慢しなさい、分かった!」
酷い話だぜ、全く。それじゃエミリーならに聞いてみよう。弟のエイリーのパンツを持っているだろうし。
僕は、荷台をノックすると、布を開けて、エミリーに話しかけた。
「なあなあ、エミリー、パンツを僕にくれないか?」
言った瞬間、右手にパンチが入った。凄く痛かった。拳跡が出来た感じがした。
「さ、定春。ば、バカっじゃないの。なんであんたなんかに私のパンツを上げないといけないのかしら。それはそういう関係になってからじゃないの」
顔全体が、真っ赤に染まっていた。確かに、同僚のパンツは恥ずかしいかもしれない。ただ今回は助け合いをだな。
「なーに、やってるの?定春ちゃん?」
コニーの声だ。前側の席から聞こえてきた。ニヤニヤとしている。なにか企んでいるのだろうか?
「あ、コニーさん。はい、パンツを探していてて……、なくて困ってるんです」
「そんなに困ってるんだったらあげるよ」
「なっ!」
コニーの発言にエミリーの方が先に反応していた。だけど、エミリーは顔を赤くして、コニーの顔をずっと見ていた。
「はは、大胆な君にプレゼントだよ。定春君。そんなに滅多にあげられるものじゃないからね。激レア商品だよ」
コニーは僕に笑みを浮かべるやいなや、短パンみたいなスカートから、穿いていた女性もののパンツを脱いだ。そして、頬を真っ赤にしながら僕に差し伸べてきた。
「大事に扱ってね。私のぱ・ん・つ」
「受け取れるか。そんなの。僕が欲しかったのは、そう、男性モノのパンツだよ」
「え、そうなの?」
なんだろう。時折、エミリーが涙目で僕を見つめてくるが、スルーしておこう。僕は何にも悪いことは聞いていない。……はずだ。
「それならそうと言ってよ。じゃ、これをプレゼントしよう。はい、ちゃんと洗濯してあるからさ」
コニーから渡されたのは、白い布一枚のふんどしだった。ニヤニヤ顔がゲス顔に見えてきた。
「中古かよ。それに穿きかた自体、分からないよ」
「簡単だよ、こうやって、こう」
「ほんとだ、すっげー。新たな自分に目覚めそう」
仕方がない。これで我慢しよう。うーん。締め付けれらる感じがなんとも。
すると、ミネルヴァから声が聞こえてきた。
「定春、もう出発するわよ。準備出来てる?なに、準備出来てない。早くしなさい」
……仕方がない、準備をしよう。怒られないうちに。