第6話「いや、知らないデスよー。何がなんだか分かりません」
「おい、そこの人間、お前だよ、コニーって女見なかったか?」
銀の王冠を被っているスライムが僕に話しかけてきた。本物だろうか。丸形で固体だけどプルンと青の液体っぽいスライムだった。
某ゲームの雑魚敵っぽい感じはするのだけど、いや、王冠を被ってるから強そうだ。
「いや、知らないデスよー。何がなんだか分かりません」
バレていない。僕の演技は完璧だ。剣がなんとかと言っていたが、聖剣の事だろうか?ただ折れていたとは言え、聖剣だ。魔物が持つものじゃないだろう。あいつらこそ盗んだものに違いない。
僕は目を右往左往とあっちこっち見ながら、唇を斜めに傾けていった。口笛も焦りからか、綺麗にふけない。
「いや、何か知ってるだろ。お前の嘘はバレバレなんだよ。大根役者が」
岩々しいゴーレムが荒げた口調で言った。岩で埋もれて顔が見れないが、怒っている様子だ。
「いや~。折れた聖剣エクスカリバーなんて、このコンビニには売ってないですよ」
「おい……、今なんていった」
銀の王冠を被ったスライムが震えた口調で言った。一部、下回りが水っぽい。だけど湯気が出ている。
次第に液体が溶けていき、水滴状になった。見る見ると青色から緑色に変化させていく。くさい。泥の匂いが室内上に広がった。匂いからか、女神のミネルヴァ鼻を手で掴みながら出てきた。
「くっさー。こら、定春。なに体臭?くさいわよ。漏らしたのだったらさすがに引くわよ」
「僕じゃねーよ。こいつが……」
スライムが白い床だったのを、緑色の床に完全に変色させた。心なしか、棚が溶けている気がする。
「ふん、俺様の毒素を床全体にばらまいてやったぜ。この床に足を踏み込んだ奴はみんな死ぬ。ふふぁぁぁはははは」
「何やってるのよ。バカスライム。何?この私に恨みでもあるの?ねえねえ」
僕の服を揺らしながら、言っている。止めてくれ、そんなに揺らすとお腹の中のパンが出てしまう。
「あんたに恨みなんさねーよ。俺たちは親方の仇をうちに来たんだよ。さっさとコニーを渡しやがれ」
「なによ。八つ当たりなの。あんたらなんかにコニーちゃんをやらないわよ」
ミネルヴァがレジの机に右足を乗り上げて、睨みつけていた。
ちょっと、女神がなにやってるんだよ。短いスカートが見えそうだ。そういえばこの女神も穿いているのだろうか?
今のうちにコニーに一言言って逃げよう。女神はヤル気だけれども、こんなヤクザみたいな相手、いくら命があっても倒せる自信がない。
僕は前にいるミネルヴァの後ろから隣の部屋に行こうとした瞬間、
「あ」
僕の目線は真っ白い天井、蛍光灯の明かりが見えた。背中から落ちた時に『ポチ』と言う音が聞こえ、何かのスイッチを押した気がした。
背中がじわじわと痛い。毒が効いているのだろうか。ああ、後で、ミネルヴァにヒールかけてもらわないと。僕は目線をミネルヴァのスカート……、ゴホン、顔を見ると、目があい、大きな口を開けていた。
天井にあったスピーカーから声が聞こえてくる。
『爆発開始、十五秒前、十、九、八……』
何のことなのかわからない。爆発?なにを言っているんだ。僕の口にたまっていた唾をゴクリと飲んだ。
「何やってくれてるのよ。定春。それは緊急爆発装置よ。うー。もう、死にたくなければ逃げるのよ。早く」
「え?、ちょっと待って……」
「「な、なんだと。こんな所で逝ってたまるか。魔王様」」
ミネル三丁目池近く支店PSが僕が押したボタンによって爆発した。それは黒い煙が出ていて、僕自身何がなんだかわからなかった。
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「派手にやってね。ははは、定春くん、君って面白いよ」
コンビニの残骸、その上にコニーは笑顔で立っていた。なんとか逃げ切った僕を見つめるように。
そんな苦笑いになるような面白さはいらないのだけど。ああ、ミネルヴァがどんな顔をしているのだろうか。正直、怖くて見れない。
それにしてもさっきまでいたスライムとゴーレムはどうしたのだろうか。爆発に巻き込まれて消え去ったのだろうか。
すると、コンビニのがれき近くから、女性の声が聞こえてきた。
「な、なななな、私のコンビニが……」
ミネルヴァの声だった。頭を抱え、涙を流しながらわんわんと叫んでいた。
「く、や、やるじゃねーかよ。防御力最大アップ使わなかったら、この世にはいられなかったぜ。お前ら全員コロス。ん?コニーじゃねーか。ふふふ、腕が鳴るぜ」
「こんなところにいたとはな。コンビニ同様に破壊してやるぜ」
爆発があったのにも関わらず、傷一つ付いてなかった。こいつらやはり魔王軍の幹部なのか?
くそったれ、勝てるわけないじゃないか。誰か神様、女神様、仏様、願うぜ、誰か助けて……。
僕は、目をつぶりながら強く願っていると、『ゴン』と鈍い音が聞こえた。目を開けると、ゴーレムの頭がコニーのパンチによってへこんでいた(凹状になっていた)。
「こんなところで…………」
ゴーレムの身体が粉々に砕けていく。まさに積み上げていた石が崩れていくかのように。僕は口を開けながら唖然とした。石だけに意思を持った強敵がいとも簡単に壊されるものなのかを理解するまで十秒以上かかった。
その間に王冠を被ったスライムがさっきみたいに液体化しだした。
「くそ、キングゴーレムがやられるとはな。だけど、俺様は元は液体だ。地面と一体化したらさすがのお前も勝つことができないだろう」
地面がみるみる、青から緑っぽくなってくる。臭い。まるで一週間生ごみを出し忘れていたゴミ袋のようだ。多分、こいつ周りから嫌われていただろうな。
そう遠い目をしながら、スライムを僕は見つめていると、コニーが粉々になっているコンビニの残骸を台替わりに蹴り飛ばし、大ジャンプした。そして、スライムが溶け込んだ地面にパンチを繰り出した。
「ファイアーエンブレムぱーんち」
パンチが地面に衝突した。その衝撃は僕やミネルヴァを吹き飛ばすだけじゃなくて、コンビニの残骸までも吹き飛ばした。
目を開けた時には、コンビニの残骸はすでになく、地面が割れ、湖の水が街に流れて、ここで戦争、爆撃戦でも起きたようだった。それにスライムの姿もなかった。
まさに大惨事。僕が押したボタンがこんな災害を引き起こしたなんて、……、僕は責められることではないだろう。だってよ。なんであんな身近なところに爆破ボタンなんてあるんだよ。それにとどめを指したのは、この現状を引き起こしたコニーの方だろう。だけど助かった。もう少しでまた死ぬところだった。それだけは僕にとって幸運だったかもしれない。
「くっ、大丈夫か?ミネルヴァ、生きてるか?」
木の茂みから隠れていたのだろうか、ガサガサと森の中から出てきた。涙を流しながら、僕にボソリと言った。
「うぅ、うぅ、もう最悪。定春。みんなを集めて頂戴。話し合いを始めるわよ」
綺麗な金髪が、爆発からかボサボサになっている。整っていた顔には黒いスミみたいなものもついていた。
僕は、元あったコンビニ跡地から舞う黒煙、グレー色の曇り空をずっと見つめていた。