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モブだって活躍したい!

作者: 卯月 友
掲載日:2018/01/16

若干、差別的な表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。

 不公平だ!


 俺は主要キャラ達を横目で見ながら、教室の隅でチッと舌打ちした。俺が喋った台詞と言えば、すぐにでも暗唱できる。


『それはないだろ。早川に彼女なんて』


 たったこれだけだ。丸を抜いたら15文字しかない。しかも、これだって誰が話したかなんて書いてない。そもそも名前すら使われない。俺には岡部 武って名前があるというのに、本当に腹が立つ。癖毛で細身という特徴だってある。少しくらい表現してくれてもいいじゃないか。何が友人と会話しただ。

 俺だって主人公である早川のクラスメイトだ。普段から早川と会話もしている。なのになんだ。小説の中となると描かれもしない。メインキャラだけで会話している。クラスには40人くらい生徒がいるんだぞ。そいつらのことも考えていいじゃないか。差別だ、差別。訴えるぞ。


「なあ、山崎。お前は正直、モブって役割をどう思う?」


 俺は同じ目にあっている、モブのクラスメイトに愚痴をこぼした。短髪でキリッとした眉毛が特徴だ。すると、山崎は眉に皺をよせたまま振り向いた。


「納得出来るわけねーだろうが! 何なんだよ、この扱いの違いは! 小説だから、漫画みたいに背景に紛れてアピールすることすらできねー。しかも、名前がやっと与えられたと思ったら、友人Aだの村人Aだの。舐めてやがる」

「だよな! これがまだ漫画だったら、後ろで存在をアピールできるのにな」


 俺と山崎がモブの愚痴を言い合っていると、後からまたまたモブである、頭のハゲた担任の先生が話に入ってきた。


「まあ、クラスメイトということでまだましだと考えましょう。これがもし、少年系のバトル漫画とかだと、残酷極まりないですよ」


 先生は50を超えているであろうに、意外と漫画に詳しかったりする。彼は、顔を曇らせながら話を続けた。


「バトル漫画だとモブなんてすぐに殺されますから。下手したら名前も台詞も言わせてもらえず、あたかも実験台のように。主要キャラだったら、少なくとも心配されるし、泣いてもらえる人だっている。これはもう差別としかいいようがないですから」


 俺と山崎は先生の話に深く頷いた。たしかにまだクラスメイトでよかった。殺されることはないから。


「まあ、しかしそれはそうとしても不公平ですよね?」

「マジでそれっすよ! 俺なんて3文しか作中で喋ってねーんだぜ」


 はあ? 3文だと? 俺は山崎を睨みつけた。


「おい、山崎! なんて喋ったんだ?」

「もちろん暗唱できるぜ。『おい早川。昼休みどこ行ってたんだ?』と『お、それって女か?』と『うわ、次物理かよ』だけだ」


 何だと。こいつかなり喋ってやがった。俺は山崎の台詞の文字数を、丁寧に数えた。句読点を抜いて29文字。


「お前、29文字も喋ってるじゃねーか? 俺なんて15文字だぞ、15文字! モブ界から追放すんぞ!」

「あんまり変わんねーじゃねーか! そんなん言ったら、あいつらなんて何文字いや何文喋ってるかも分かんねー。あいつらから見たら14文字の差なんて、米粒にもなってねーんだぞ」

「君たち!」


 俺と山崎が言い合いをしていると、先生が不機嫌そうな顔で割り込んだ。しかも、かなり声が大きい。


「私なんて喋らせても貰えなかったんですよ! 喋れただけいいと思いなさい!」


 あ、お気の毒に······。俺は15文字でも喋ることができたことに感謝した。きっと、先生は頭のハゲを知らないところで、いじられただけで終わったのだ。何とも酷な。


 しかし、取り上げてみるとモブにもいろいろある。喋ることもできないモブ。喋るけど名前すら与えてもらえず、消えていくモブ。都合のいいときだけ使われるモブ。そう考えていると、山崎が思いついたように目を輝かせた。


「そうだ! 俺たちでどうやったらモブが、もっと活躍できるか考えるのはどうだ?」

「そんなこと言ってもどうやるんだよ。小説だから描かれないと、話にもならないんだぞ」

「そうですよ。所詮、モブはモブ。予め決まっていた運命のようなものなんですよ。諦めましょう?」


 俺と先生は口々に言った。そうしたいのは山々だが、そんなことできる訳もない。作者が決めたことには逆らえない。

 しかし、山崎は諦めてはいなかった。右手の人差し指を突き立て、哲学的に語った。


「お前らそれでいいのか。このままだと、俺らは存在してもしなくてもいいような存在。そもそも、俺らと主要キャラで何が違うんって言うんだ。俺らだって登場人物。それぞれ十人十色な人生があるはずだ。それなのに悔しくはないのかよ」

「く、悔しいけどさ······」

「だったらやるだけやったらいいじゃねーか」

「じゃあ山崎は何か具体的に名案でもあるのかよ?」


 俺は山崎の右腕をゆっくりと払い除けた。そんな上手くモブが活躍できるとは思えない。疑いを晴らすことなどできなかった。

 山崎は腕を組んで考え込んでいる。口では言っても中身は空。所詮、そんな方法なんてないと悟らざるを得なかった。

 しかし、しばらく唸った後に、山崎は閃いたように表情を明るくした。


「あったぜ! 最高の方法が!」

「何だよ。その最高の方法ってよ」


 それでも、疑いは晴れていなかった。どうせ、碌でもない方法だ。明らかに俺は暗い表情を見せているだろう。だが、そんなことを気にすることもなく、山崎は溢れんばかりの自信を見せていた。


「名付けて、主人公監禁作戦!」


 一瞬にして辺りが白けた。俺も先生もため息をつく。まあ、そんなことだろうと思ったけど······。


「なんか文句あんのか? ああー?」

「大ありだ! そんなことしたら物語が成り立たねーだろうが!」

「俺らの誰かが主人公に変装して続けたらいい。まあ、3人でするなら残りの部分を3等分する必要があるがな」

「バレねーとでも思ってんのか? 百歩譲って俺らは大丈夫だとする。だが、先生はどう考えてもハゲだから無理だろ!」

「カツラ着用したらいいだろ!」

「そのカツラ代は誰が出すんだ?」

「もちろん、先生が自腹切る!」


 俺と山崎は睨み合っていた。と言っても後半はもう話が逸脱している。俺と山崎はそれでも言い合いを続けていた。しかし、それとは比べ物にならないほど、負のオーラで満ち溢れている第三者に俺は驚愕させられた。


「君たちね······」


 その第三者を見て俺と山崎は黙った。とんでもなく怖い顔をしている。その口元がピクリと動いた。


「私だって好きでハゲたわけじゃないんですよ······。そもそも君たちだって私くらいの年齢になったら······」


 まずい。俺は本能でそう思った。おそらく、山崎も同様だ。


「すみませんでした!」


 俺と山崎は同時に謝った。それが幸いしたのか、先生はいつもの明るい表情に戻った。


「分かればいいんですよ」


 マジで殺されるかと思った。俺と山崎は笑ってごまかした。許されたのか······?


「まあ······お前らみたいな若者にハゲの気持ちなんて、分かるわけないだろうが······」


 うっ······。俺はたしかに先生が小声でそう言ったのを聞いた。この人はいったいいくつもの修羅場を潜り抜けてきたんだろう······。到底、高校生の俺には理解できなかった。


 とにかく話を変えよう。俺は先生の顔色を伺いながら話した。


「変装はいいとしても、俺らがそんなこと勝手にしていいのか?」

「たしかに岡部くんの言う通りですよ。作者が話進めたら、問答無用で物語が進む。それには逆らえませんよ」


 俺はひとまず先生の機嫌が戻っていることに安心した。山崎も安心したのか、ニッと歯を見せた。


「大丈夫! 今作者はバカンスに行って休載しているから、何してもバレねーよ!」

(嘘です by 作者)

「バカンスって、作者は執筆サボって何やってんだよ。まあ、好都合なんだけどよ」

「だから、今なら行ける! やるだけやって見ないか?」


 俺は心の中で笑った。そんなことで上手く行くとは思えない。だが、心のどこかで主人公になってみたいという気持ちがあった。モブではなく主人公。その心が俺を後押しした。


「やってやろうじゃねーか」


 山崎は嬉しそうに頷くと、今度は先生の方を向いた。


「やれやれ、どうなっても知りませんよ」


 先生は右手で頭を押さえながら言った。見たところ完全に賛成というわけではなさそうだが、いいと言ってくれた以上、少なくとも主人公になってみたいと思う気持ちがあるのだろう。


「よし、そうと決まれば早速作戦会議だ」


 山崎は音を立てて机を手のひらで叩いた。その目は本気だ。もうこれは後戻りはできないな。やるからにはやる。そう俺は心に決めた。


 そして、俺たちは協力して作戦を作り上げた。三人集まれば文殊の知恵というやつだ。


「では私は空き教室で待ってます」


 先生は立ち上がり、一足先に決めた部屋に向かった。作戦は俺と山崎が主人公である早川を、空き教室に誘導することから始まる。先生が呼んでいると言えば、怪しまれることはない。後は、早川が先生と会話している隙に、俺と山崎が早川を椅子に縛って終了だ。人通りのない空き教室だから、簡単に見つかるということはないだろう。


「なあ、岡部······?」

「何?」


 俺が作戦を思い返していると、突然山崎が声をかけてきた。


「お前は主人公になったら、どんな主人公になってみたい?」

「決まってるだろ。読者から愛され、応援したいと思われるような主人公だ」


 俺は山崎の突然の質問に驚いたが、最初から答えは出ていたため、迷うことはなかった。自信満々に返事する。すると、山崎は大きな声で爆笑した。


「何がおかしいんだよ!」

「そうじゃねーよ。全く、同じこと考えんだなって嬉しかっただけだ」

「······」

「絶対、作戦成功させようぜ」

「ああ。当たり前だ」


 山崎は作戦を実行に移した。その後ろ姿を見るだけで、嬉しくなった。ありがとうな、山崎。


 俺と山崎は早川を誘導した。作戦はおそらく順調。予定通り例の教室に着いた。早川は何の疑いもしていないのか、あっさりと先生の前の椅子に座った。

 ちょっと順調すぎるような気もする。いや、順調に越したことはない。俺は自分の中にあったもやもやを無理やり押し殺した。


「先生、どうしたんですか? もしかして育毛の相談ですか?」

「えーっとですね······」


 早川まで何言ってるんだよ。お前今から監禁されるんだぞ。というか、また先生の雲行きが怪しくなってる。ちゃんと作戦通りにしてくださいよ。俺は喉の辺りにあるものを、必死に押し戻した。

 先生は顔を引きつらせながらも、左手の指を手前に引いた。合図だ。俺は山崎と顔を見合わせ、行動に移した。


 それは一瞬にして終わった。作戦は成功。俺たちは椅子に縛られている早川の前にいた。ただ、不可解だった。俺や山崎が早川を監禁しようとしているにもかかわらず、早川は抵抗一つ見せなかった。

 本来なら、口を塞ぐのが流れだ。しかし、俺はどうしても理由が知りたかった。


「早川、何で抵抗しなかった?」


 ゆっくりと早川は顔を上げた。何を語るのだろう? 俺は身体の動けない相手に対して、少しばかり恐怖を覚えた。まさか全て見透かされた上での行動······。

 早川が唇を動かすと同時に、俺の鼓動は加速した。山崎と先生も早川を注視している。3人の視線が集まる中、早川は話した。


「縄抜け的なノリのやつじゃないの? 何秒以内で抜けれるか的なやつ」

「······はぁ?」


 一瞬何を言っているのか分からなかった。もしかして、冗談だと思っている? 罪悪感しか残らない。俺は山崎と先生を見るが、彼らもきょとんとしていて、役に立ちそうもない。


「しかし、お前らきつく縛りすぎだろ? 流石に抜けられないって」


 目の前で必死に縄から抜けようとしている早川を見ていると、何とも言えない気持ちになってくる。たしかに、嘘をついておけばチャンス。しかし······。


「おい、これありかよ。なんか申し訳ねーんだけど」

「今さら何を言っているんですか。そもそも作戦考えたのは、あなたじゃないですか?」

「先生だって賛成していたじゃないですか」


 山崎と先生が小声でもめている。これはもう俺が何とかするしかないか。俺は正直に話すことにした。


「早川、俺らはお前が思っているような理由でこうしたわけじゃないんだ」


 早川を含め、もめていた二人も俺の方を見た。


「俺らは主要キャラが羨ましかった。俺らが喋った台詞と言えば、取るに足らないくらい······。いや、喋ることすらできないキャラだっている。だから、お前に変わって主人公になることで、自分たちの存在意義を確かめたかった······」

「だから、俺を閉じ込めて代わりにか······」


 俺は頷いた。山崎と先生も納得してくれているみたいだ。


「だが、お前らはともかく先生はハゲだから無理だろ。絶対、ヒロイン気づくぞ」


 あっ、こいつまで言いやがった。というか空気を読め。そういう雰囲気じゃねーだろ。知らねーぞ。俺と山崎は素知らぬふりをしてその場から距離をとった。


「せっかく許してやろうと思ったのに······」

「えっ、先生、そういうわけじゃ······」


 先生はまたあの鬼のような表情に戻っている。やばい······。知らねーじゃ済まないかも······。このままでは早川が殺される。


「岡部!」

「はい!」

「山崎!」

「はい!」

「聞いてたよな! こいつハゲって言ったよな!」


 先生に名前を呼ばれ、背筋が凍る思いで返事した。まるで軍隊にいるかのような気分だ。


「じょ、冗談です。ほら、そんなこと言うわけないじゃないですか······」


 早川は必死だった。縛られている状態で、目の前であれを目にしたら、恐怖しかないだろう。


「せ、先生、とりあえず落ち着きましょう」


 俺も必死にフォローした。流石に直接言うのはやばいと改めて実感する。

 何とか3人がかりで先生を落ち着けた。10分くらい説得して、ようやくいつもの先生に戻した。もう疲れる。先生の前でハゲは絶対禁句だ。


「話戻しましょうか。ネタは話したんですが、縄どうしますか?」

「うーん、そうですね······」


 とりあえず、機嫌が直っていることに一安心。俺たちは早川を解放するか迷っていた。


「やっぱり俺は主人公してみてーしな。岡部と先生は?」

「うーん、俺もしたいかな······」

「私も······」


 3人ともあやふやな主張だった。その様子を見かねたのか、早川が口を開いた。


「まあ解かなくてもいいけど、3人が主人公するにしても、変装した姿が俺じゃ何も変わらなくないか? だって、人のキャラをしたところで、そんなのは自分じゃないだろ?」


 た、たしかに······。図星だった。俺は何も言い返せなかった。まるで、胸を矢で貫かれたような感覚に陥った。山崎と先生は少し目を大きくしている。


「それにモブだって俺は活躍していると思うけどな。例えば、建築物の土台ってブロック一つでも外れたら、崩れていくだろ。俺はそれと同じで、モブが欠けたらその上に家なんてすぐ崩れるじゃないか」


 早川は笑って言った。その笑顔と言葉に俺は心を打たれた。モブが活躍しているなんて、このままでいいなんて考えたこともなかった。たしかに俺は15文字しか喋っていない。だが、そのキャラが自分であることに変わりはない。もし今から主人公に変装したところで、それは俺じゃない。大切なことは、ありのままの自分で役目を果たすこと。そのことに今気づいた。


 俺は山崎と先生を見た。二人とも図星なのか何も言わないでいた。


 俺の台詞。


『それはないだろ。早川に彼女なんて』


 たったこれだけ。ただ、この言葉が土台のブロックの一つ。そんな風に感じられた。


 俺は早川の縄を解いた。縄を解く際に、山崎と先生も手伝ってくれた。二人にも早川の言葉が響いたのだろう。縄を解くと同時に、自分の心の縄を解けるような気がした。


「悪かったな」


 俺たちは口々に早川に謝った。


「こっちこそ、主人公独占で悪いな」


 早川も謝るが、俺はむしろ感謝していた。早川の後ろ姿はいつもより大きく感じられた。ありがとうな。


「それにさ······」


 早川が振り返って立ち止まった。俺たちもそれに合わせて立ち止まる。


「お前らや先生も今、主要キャラになってるじゃんか」


 早川の表情は笑顔に満ち溢れていた。




 俺は主要キャラ達を真っ直ぐと見ながら、教室の中で感謝した。俺が喋った台詞と言えば、すぐにでも暗唱できる。

『それはないだろ。早川に彼女なんて』

 たったこれだけ。丸を抜いたら15文字しかない。ただ、俺はそれでもいいと思えた。



最後まで読んでいただきありがとうございました。アニメや漫画を見ていて、モブキャラって可哀想だなって思ったのが、執筆のきっかけです。

もし、よろしければ本編の方も読んでいただけると嬉しい限りです。

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