第二話 「んははは!俺式!メリーゴーランド!」
季節は冬
俺の名前は榊原 薫どこにでも居る不良高校生17歳
俺はいつものように夜の町でボランティアの大掃除に精を出していた
「おら!もう終わりか!どんどん来いよ!どんどん!」
目の前のモヒカン頭の男を右ストレートで数mほどぶっ飛ばし
周りを囲んでいる輩どもに向けて言い放つ
哀れモヒカンは壁にぶつかり気絶してしまったようだ
その光景を見た真夜中に大人数でバイクに乗って
夜の街をおちゃめに暴走しちゃうお兄さん達は怯んだように数歩後ずさる
「ふっ・・ふざけやがって!おい!お前ら人数はこっちの方が上なんだ!囲んでやっちまえ!」
おーどうやら物量に物を言わせて来るようだ
まぁ関係ないがな
「んはははは!とうっ!!」
先頭で突っ込んできたバットっぽいものをもった男の顔面に
バッタライダーよろしくとび蹴りをくらわせる
「ぐへぇ!」
吹き飛ばされた男は後ろの男達の何人かをボーリングのようになぎ倒す
そして俺は倒れた男の足を脇に抱え込むようにして持ちその場で勢いよく振り回す
「んははははははははははは!」
「ひぃぃぃいいぃぃ!!」
「あがっ!」
「ぶほっ!」
その名も「俺式!メリーゴーランド!」
またの名をジャイアントスイングという
効果は俺が楽しい、そして回される方も楽しいきっと楽しい・・多分
「んははは!とーりゃ!」
周りに居た十人程度の男達をなぎ倒し
最後に楽しそうな悲鳴を上げてメリーゴーランドを楽しんでいた
男をリーダーっぽい男めがけて投げ飛ばす
「ごふっ!!」
見事投げ飛ばされた男の頭がリーダーっぽいやつに命中
そのまま気絶してしまったようだ
「頭がやられた!!」
「頭大丈夫ですか!!」
どうやらリーダーっぽいやつはリーダーで正解だったらしい
頭って言うらしい変わった名前だなぁ
「ちっちくしょう!覚えてろよ!」
いかにも小物っぽい捨て台詞を残し
頭さん(仮名)をつれて去っていくお兄さんたち
「なんだよ、もう終わりかよ。折角暖まって来たってのに」
不完全燃焼もいいとこだ
「俺式!メリーゴーランド!」のほかにもまだまだアトラクションがあったってのにな
「俺式!観覧車!」とか
「俺式!ジェットコースター!」とか
「俺式!お化け屋敷!」とかなどなど
まぁそれはまた披露する機会があるだろう
「ふぅ~・・・つまんねぇな・・」
俺は路地の隙間から空に浮かぶ満月を見上げる
吐いたため息は白い息と共に星も僅かにしか見えない空に消えて行く
曰く、俺は「生まれる時代を間違えた」らしい
小学校からの親友が俺に言った言葉
「お前はきっと戦国時代とか三国志時代はたまた
剣と魔法と魔物蔓延る異世界とか、そういう世界で輝ける人間だな。」
親友の弁である。
「前ふたつはわかるが、異世界?なんじゃそら?」
と聞いたら
「ほう。興味あるか。俺のおすすめのラノベを貸してやろう」
と頼んでないのに数冊、貸してもらった。
読んでみてなるほどと思った。
確かにこういう世界でなら本当に楽しいと思えるだろうなと
本の中の主人公は実に生き生きしていた
魔物との戦い、ライバルとの勝負、大軍勢を率いての戦争
美しいヒロインたちとの出会い、結婚
そしてハーレム・・・そしてハーレム!重要なことだから二回言ったぞ?
本当に楽しそうだった。そして羨ましかった。
俺もその異世界にいければとも思った。
ふと暇なときに異世界に行く妄想もした・・遅れてきた厨二病である。
17年間生きてきて楽しいと思えること本気でやろうと思ったことなんて
数えるほどしかなかった。
部活もした、格闘技も習った、親友に借りて面白いと評判のゲームもやった。
どれもすぐに飽きてしまった。
結果、一番長続きしているのは町のお掃除のボランティア(喧嘩ともいう)だった。
殴り合っているときが一番・・間違えた。お掃除しているときが一番
“生きている”実感がした。
わかっている。こんなこと良くない、不健全だ。
きっと真面目に勉強していい大学に進学して就職し結婚して子供を作り
孫に囲まれ最後は老衰で死ぬ
きっとこれが世間一般の“いい人生”なのだろう
でも俺は共感なんかできない。
それならばどっかの国の軍隊に入って
最後はどっかの紛争地域で仲間をかばって死ぬとかのほうがよっぽどいい
むしろ最近ホントに将来の進路として考え始めている。
幸い、両親とは死別してるし、悲しんでくれる人も居ないだろう。
親友はきっと「ふっ・・お前らしいな。」気障に眼鏡を上げながら言うだろう
「ふぅ・・異世界・・・本当に行ければなぁなんて・・さっ!帰って寝るか」
何度目かのため息
大丈夫だ。わかってる。異世界なんてない。
そう自分に言い聞かせ家に帰ろうとさっきのお兄さん達が去っていった
ほうとは逆へ向け振り返ったとき
それはあった
「あ?・・・扉?さっきまでこんなのなかったよな?」
目の前に両開きの扉が存在していた
全体的に金色に輝き、両扉には美しい天使がこちらに向け手を差し伸べるように細工されていた
それはまるで俺をやさしく誘っているようだった
「・・・」
俺は誘われるまま、両手で扉の取っ手を掴んだ
その扉がなんなのかわかったわけじゃない
でも一つだけわかった
「・・・お楽しみの始まりだな」
思い切り両扉を開く
「ぐっ!・・・」
中から目を開けられないほどの光があふれ
俺は意識を失った・・・