2.羞恥
「池田先生〜。お呼びでしょうか?」
「ん。これをあっちに持って行って欲しくてな。お前しか、片付る場所が分かる人がいないんだよ。
試合終わったばかりなのに申し訳ないが……」
「大丈夫ですよ!」
「頼んだ!んじゃぁ、俺は次の試合の審判があるから」
そう言って、走り去って行った。
あっ、言い忘れてたけど、池田先生は私たちの顧問。なんか、偉い人らしい。興味ないけど。
「んでっと。どうすっかな。これ。」
池田先生が片付けて欲しいと言ったのは、幅の機具。結構重いんだよね、これ。しかも、いち、に、さん…………げっ、五つもある。
「ここから遠いんだよなぁ、幅の機具庫。」
ここは競技場である。広くないわけがない。
「まぁいっか」
苦笑いを浮かべて、目の前に並ぶ機具を一つ持つ。
「うわっ。これは、結構辛いな」
私は、女子の中でも力持ちな方だ。それでも、重いと感じるのだから、相当だ。
「誰か、手伝って……なんて、みんな試合があるよね」
苦笑いを浮かべて、よろよろと運ぶ。
これでは、運び終わるのはずっと先になりそうだ。
「さーくら?どうして、俺に手伝ってって言わないの?」
「ふぇっ!?」
急に、耳元に話しかけられたものだから、背筋がゾッとした。
振り向けば、黒髪の少年……なんだ、陸か。安心したら腰が抜けていった。
「わっ!大丈夫?」
地面にへたり込んだわたしと、機具を陸は支えてくれた。陸、見た目はひょろひょろしてるけど、力持ちだったのね。
「ありがと、出来れば普通に話しかけて欲しかった」
わたしは頬を膨らませた。
「悪かったってば。あとは俺がやるから。桜は試合終わったばっかりなんだし休んでなよ。」
「いいよ、一人で大丈夫。それに、陸だって終わったばっかじゃん?」
「桜が一人でやったら日が暮れちゃうよ」
陸はくすくす笑ながら、私から機具を取り上げて行ってしまった。
……なんか、ムカつく。
私はしばらく陸の後ろ姿を睨んでいた。
「さーくら。機嫌直してよ」
「だって、陸が可愛くない」
私は完全に不機嫌になっていた。
困った顔して笑ってる陸の顔から逃げるように、顔を伏せる。
結局機具は全部陸が運んでくれた。私が一つ運び終えるよりも早かった。
「可愛くないって……」
「一年生のころの陸は可愛いかったのに。まだ、私より背もちっちゃくてさ。非力で私より筋肉無かったのに」
意味のわからない文句をぶつける私に呆れることもせず、陸は話を聞いてくれる。
「成長したんだよ俺も」
陸の顔がどこか大人びて見えた。何だか、少し寂しかった。置いて行かれたような気がして。
「ずるい」
「桜も成長したよ。」
「してない。みんな変わっていくのに」
「俺は成長したと思うよ」
そう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。何だかあったかい気持ちになってきた。
「桜?……さくらっっ!!!」
陸の声が頭に響いた。
「まじか、これは長期戦になりそうだ」
陸は苦い顔を浮かべていた。
私がそれに気付くのはいつになることやら。
起きたら私はテントにいた。
天によると私はどうやら陸と話してる途中に寝てしまったようで、陸におぶられてテントに来たそうだ。
周りから温かい眼差しを向けられ、私はしばらく羞恥で顔を真っ赤にしていた。
当の本人はしれっとした顔をしていたので、無性に腹が立ったから殴ってやった。
「真っ赤な顔されて殴られても……ねぇ?」
「うっさい!!!!」
「……写メる?」
「やめろ!!!」
「「「桜先輩可愛いです!!」」」」
純粋な後輩たちに私は負けた。