1.要らないの。
いつからか、跳ぶことが好になっていた。
はじめは、速く走ることを求めてた。誰よりも、少しでも、って。
けれど、あの空に浮かんでる雲を掴むような感覚に嵌っていったんだ。
今の私は、幅跳びが好きだって胸を張れる。
音が出るほど大きく息を吸う。
「いきまぁぁぁすっ!」
今まで生きてきた中で一番大きな声を出したと思う。喉が痛い。でも、それ以上に胸が痛い。
私は、この一本に全てを注ぐ。
「「「はぁぁぁぁいっ!」」」
いつもは聞こえてこない声援が聞こえる。恥ずかしいから嫌だって言ったのに。
「でも、嬉しいかも」
呟いて、走り出す。
スパイクがタータンに食い込む音がリズムを刻む。徐々に早くなっていく、そのリズムに心地良さを感じる。
(いける)
自分を信じて、踏み切り板を強く蹴った。そして、空に浮かんでいる雲を掴む。今日はいつもより高く跳べた。
ストンと、砂場に落る。同時に旗が上がる音がした。振り返り、旗を見る。色は、白。
「4m29」
男の人の冷たい声で告げられた。
自己新だ。胸を撫で下ろして、立ち上がる。ユニホームについた砂を払い、選手席に戻った。
「ありがとう、ございました」
そう、呟きながら。
私の最後の公式戦は、こうして幕を閉じた。
私は3年間の思い出に浸った。
色々あったけど、楽しかったな。もう、後輩たちと練習一緒に練習することがないなんて、さみしいな。
気付けば目尻が湿り、ユニホームに水玉模様を作っていた。
すると、幅ピットに私と同じユニホームを着た奴が駆けているのが見えた。陸だ。黒髪で艶のある髪をなびかせて、パタパタと走る姿は、一年の頃から変わらない。だから、直ぐに分かった。
何だか微笑ましくて、私は気付けば笑顔になっていた。
「桜、おつかれっ!」
にこやかに笑う。
不覚にも可愛いと思ってしまったのは、疲れてるから。だと思う、多分。
陸は、私の隣に座った。ここ、幅選手専用なんだけどね。まぁ、いいかな?
「ん、陸も、おつかれさん。見てたよ100の準決。惜しかったね。」
「うー、言うなって。俺悔しかったんだから。」
「ごめんごめん。怒らないで?かっこ良かったよ、陸。誰よりも」
泣きそうに顔を歪ませた陸に、なんて声を掛けたら良いか解らなかった。
慰めてあげようとして言った言葉は、思ったより、恥ずい。
「ありがと。」
呟いた陸は、私に目を合わせてくれない。きっと、凄く悔しかったんだろうな。陸は私と違って、何度か入賞してたし。
「あっ、話変わるけどさ、晴哉と遥歩が付き合い始めたって聞いた?」
「聞いた、聞いた。」
「カップル増えたよね。なんでだろ」
「増えたよなぁ。夏祭り前だからだろ、多分。それに今年で卒業だし」
「そっかぁ。陸は?」
「いないよ。俺も欲しいよ」
そう言って溜息を零した。
「なってあげよーか?」
「ば、ばかっ!お、おまっ!」
目を見開いて、顔を真っ赤にしてあたふたしだした陸に、驚く。
「じょーだんよ?何でそんなに驚いてるの?」
思わず笑ってしまった。
「おまえはなぁっ!!桜は?彼氏欲しいの?」
「どうだろ。要らないかな?
でも、そうね。頼れる存在は欲しいかな。彼氏じゃなくても良いな。私は、隣にいて安心できる人が欲しい。」
「だったら……」
「桜先輩、池田先生からのお呼び出しです」
振り向けば、可愛い後輩の相川 天がいた。天はちっちゃくて可愛いのっ!
言うと怒られちゃうけどね。
「天!伝えに来てくれてありがと〜。
陸、続きは後で話そっ!」
「おー。」
私は池田先生の元へ駆けて行った。
「陸先輩?桜先輩を口説こうとしないでくれます?」
「お前はその桜への独占欲どうにかなんないの?」
二人が険悪なオーラを出していることに気づかずに。
入試まであと、9日となった今日。
急に書きたくなってしまったので書いてしまいました……。
不定期更新でありますが、よろしくお願いします(`_´)ゞ