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あ、くまだ  作者: ペンネグラタン
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 呉服副部長があんまりにも気軽にオッケーを出すもんですから、私は演劇部の台本読みに参加することになりました。仮とはいえ、ヒロイン役とは畏れ多いです。

 伸也先輩が予備の台本を渡してきます。

「すみません、初心者が、と思うでしょうが、一時的によろしくお願いいたします」

「腰の低い一年生だねぇ。さっきのでびびらせちゃったかな? そんなに構えなくていいよー。俺は初心者にはあんな風に言わないから」

「では、赤根先輩は以前から演劇を?」

「うん、中学のときも。小学校の頃も、劇ではよく主役に抜擢されてたかな。あんなののどこがいいか、さっぱりだねぇ」

 伸也先輩は肩を竦めます。当時から大根なのはお変わりないようで。

 とりあえず、ぽっと出の私が口を出すのはここまでにして、台本に目を落とします。

「じゃ、最初っから始めるよー」

 先刻の怒りはどこへやら。のんびりした口調で先輩は言いました。

 ですが、台本を開いた途端に、びしりと空気が変わりました。なんでしょう、自分の得意分野で頭角を表す領域? みたいな。こういうのをゾーンっていうんでしょうか。

 って、台詞は私からです。

「僕、迷子?」

「うん、ちょっと道に迷っちゃった」

 えっ、ちょっと待ってください先輩声違いません? 完全に小学生の声になってますよね?

「お母さんは?」

「一人で来たのこれから秘密基地で遊ぶんだ!」

 座っているため身長が気にならないのと、童顔が手伝って本物のショタがそこにいるみたいです。読み合わせをちゃんと聞いていなかったため、こんなにクオリティが高いとは知りませんでした。

 つい、"秘密基地"という子どもらしいワードにくすりと笑みをこぼしてしまいます。

「秘密基地ってどんなところ?」

「秘密基地なんだから、秘密だよぅ。……でも、お姉さんには教えてあげる」

「何々?」

 すごい、リードが素晴らしいというか。こちらを世界に引き込む演技力。さすが演劇部副部長の名は伊達ではありません。

 声を少しひそめるように身を縮こめて、先輩は役を演じます。

「おっきな木があるところなんだ。これ以上は秘密」

「おっきな木って、どれくらい?」

「こーんくらい」

 ジェスチャーで示す姿は、もう某アニメの化け物の説明をするロリくらいに子どもらしくて微笑ましいです。

 そっかー、こーんくらいかー、とつい台本にないことを言ってしまいました。それでも止められることはなく、読み合わせは続いていきます。

「もしかして、あの森かな?」

「お姉さん、わかるの!?」

 侮れないなぁ、さては秘密結社か、なんて、伸也先輩もアドリブを入れます。

「ふふっ、じゃあ、案内してあげる」

「……はい、カット」

 ぱたん、と台本を閉じると、伸也先輩は元ののんびりした雰囲気を取り戻しました。

 にこっと私を見て笑います。他の部員さんたちも、私に目を向けてきました。

 一点集中とばかりに視線を集めた私はあたふたとして、謝りました。

「す、すみません、台本にないことまで言って!」

 そう言ってへこへこと謝っていると、優しい手がぽん、と頭に乗ってきました。顔を上げると、柔らかな表情の伸也先輩。怖いところはありません。

「いや、素晴らしい演技だったよ。物怖じしてなくていいね。

 ねぇ、渚ー、しばらくこの子、借りていいー?」

「いいですよ」

 副部長、即答すぎます!

 しかしまあ、私が暇になってしまったのは確かなので、お手伝いをするのも一つの手でしょう。

 ……なんだか、赤根先輩の居場所を奪っているようで落ち着きませんが。

「部長のときより雰囲気よかったよ」

「あのアドリブめっちゃ好き!」

「笑い方も自然だったし」

 演劇部の方々からは好評で、複雑な心境です。

 でも、ちゃんと伸也先輩はこう言いました。

「雪子さんが戻ってくるまで、よろしくねー」

 ちゃんと、この人は赤根先輩のことを考えているのです。ただ蔑ろにするのではなく。

「あれで、伸也も面倒見がいいですからね。赤根先輩のことを安易に追い出したわけではないと思いますよ」

 呉服副部長がそう言っていたので、なんだか安心しました。



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