表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あ、くまだ  作者: ペンネグラタン
30/47

 それで、くまくんは一体なんて言おうとしたんでしょうか。これで「sy」と発音したらまた私は蚊を撃ち落とします。

「あー、流されなくてよかった……それで、台本はどうなってるんだ?」

 蝙蝠羽をぱたぱた言わせてくまくんは伸也先輩の方に向かいます。

 思うんですが、くまくんの蝙蝠羽はくまくんの肩幅からはみ出るか出ないかっていうくらいの大きさなんですよね。つまり一つの羽が肩幅の半分くらいしかないことになります。肩甲骨の辺りから生えているので。あれじゃ、飛べないと思うんですよね。科学的に。

 鳥の羽を見るとわかるんですが、大体自分の全身と同じくらいの大きさの翼がないと、鳥でも飛べないんです。その証拠に鵝は飛べないでしょう? それに科学的に人間には全身サイズでは足りず、紋白蝶くらいの対比の体:翼じゃないと飛べないとかなんとか……

 まあ、つまり何が言いたいのかというと、いくらショータくんサイズとはいえ、くまくんがあんなちっちゃい蝙蝠羽で飛んでいるのはおかしいということです。

 なんで飛べているんだろう? 私、気になります。

「いや、日常系部活小説にするなよ……俺がこの姿で飛べるのは仕様だ」

 あ、全然気づきませんでした。悪魔的な力ですね。

「そうじゃないが、まあそうとも言える」

 どっちですか。

「そんなことより」

 あ、今あからさまに話を逸らしましたね!

「全然話が進まないからだろ! ……それより見ろよ。こいつすごいぞ」

 くまくんが覗いているのは伸也先輩の手元。私もよく見ると、あり得ない光景を目にしました。

 一分も経たないうちにぺら、と捲られるページ。滑らかに走る鉛筆。速い。すごい。この二言に尽きます。

 よく見ると鉛筆に使用感があります。毎日丁寧に削っているのでしょう。落としたりもしたのでしょう。所々に小さな疵が見られます。シャープペンシルが席巻するこの時代には珍しい、鉛筆使用人。小学校の頃からスタイルを変えていないんでしょうか。"慣れ"があるからこそ成せるこの流麗な筆遣い。

 簡単に言うと、書いている伸也先輩は"綺麗"の一言に尽きました。

 なるほど、ラノベの主人公になれそうですね。

「相変わらず速いですね」

「スランプ中の身としては羨ましい限りだわ」

「ほら、両手の花がこう言ってますけど、先輩」

「五月蝿い」

 見事一言で斬られました。悲しい。

「余計なこと言うからだろ」

 くまくんからも辛辣な一言。泣いちゃいますよ?

「お前が泣いても痛くも痒くもねぇ」

 召喚主の扱いがひどいです。悪魔にクレーム入れる事務所はないでしょうか。

 なんて下らないことを考えているうちに、伸也先輩がころん、と鉛筆を置きました。

「できた」

「はっや」

「下書きだけですよー、だ」

 え……充分速くありません? たぶんそんなに時間経ってませんよ?

「どれどれ」

 赤根先輩が覗きます。なんか、伸也先輩はもうどうにでもなれ状態なのか、「勝手に見てくださいー」と元のゆるキャラに戻っていました。

「いや、緩い感じのキャラだろ。変に略すな」

 てへぺろ☆

「はあ、そうふざけていられるのも今のうちだぞ? あいつが書いた内容はヤバい」

 ツッコミにやや疲れの影が見えるくまくんがそう言います。ヤバい? 現代語の中でもかなり広義な言葉ですが、すごいという意味なのでしょうか?

「ある意味、すごい。だが、色々とヤバい」

 書いている最中に内容を見たくまくんが言い直しました。すごいしヤバいって、くまくんにJK化疑惑が浮上するんですが。

「なんでもいいから見せてもらえ。意味がわかる」

「ふむ」

「日隈さんも読んでみますか?」

 ちょうどよいところで呉服副部長が振ってくれました。有難く大学ノートを受け取ります。

 ぺらりと該当ページを開くと。


*

「ぼく? 君、迷子なの?」

 少女は一人歩く小学生くらいの男の子に声をかけた。男の子は困ったようにはにかんで、癖毛の合間から覗く目で少女に答えた。

「うん、道に迷っちゃった」

「お母さんは?」

「一人で秘密基地に行くの」

「そっかぁ、秘密基地」

 男の子の返答を微笑ましく思いながら、少女は更に問いかけた。

「秘密基地って、どんなところ?」

「森の大きい樹なの。とっても静かなんだけど、光がちらちらして退屈しないんだ」

「この辺で大きい樹だと……」

 少女は思い当たったところに男の子を案内した。そこに着くと男の子は嬉しそうに笑って「ここだぁっ」と大きい樹に抱きついた。

「じゃあ、お姉さんはこれで行くね」

「あ、ちょっと待って!」

「ん?」

 引き留める男の子の意図がわからず、少女は首を傾げて振り向く。すると、男の子はぴょん、と跳ね上がって、少女の鼻先にちょん、と口付けをした。

「案内してくれて、ありがと」

 声は聞こえたが、少女が瞬きする間に、男の子はふっつりと姿を消してしまった。

 それから、少女は男の子に鼻先とはいえ口付けされたことを恥じらい、頬を赤くするのだった。

*

 ん、んん?

「ね? 変でしょー」

 変、というか。

 ついでのように走り描きされた男の子のキャラデザインも見ました。

 黒い癖毛の男の子。ショートパンツを履いている……これって……

「な? ヤバいだろ?」

 ですね、これ……




 完全にくまくんじゃないですか!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ