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01

 BraveSpirit・Online――通称BSO。

 レベルが存在しないスキル制のみのVRMMOだ。各種スキルは反復使用によって熟練度が上がるが、ヒットポイントに関してはほとんど成長しない。それだけに熟練のプレイヤーでも初心者の集団に負けてしまうことだってある。

 また戦闘はプレイヤーの運動能力依存し、PKしても構わないというハードさ。グラフィックや動きの精度は現在発売されているVRMMOゲームの中でも最上位なのだが、普通ならばマニアック過ぎて人気は出ないと思うだろう。

 しかし、このゲームは《飛行》することができる。

 これは乗り物を使ったものではなく、自分自身の羽でだ。自由に空を飛び回りたい。そんな風な思いを誰しも幼い頃に一度は考えたことがあるだろう。BSOはそれを実現した故に、プレイヤースキル重視でも人気を博しているというわけだ。


「せあぁ……っ!」


 気合と共に、左手に持った剣を迫り来る凶器目掛けて振る抜く。直撃と同時に高い音が響き、発生した火花が一瞬薄暗い空を照らした。

 弾き(パリング)によって出来た隙を見逃すことなく、右手に持っている剣で鳥人型モンスター《イビルクロウ》の胴体に一撃を入れた。赤いダメージエフェクトの発生と同時に、敵のHPバーがほんのわずかだが減少する。

 現状で減らしたHPは約2割。俺は物理特化のスキル構成をしているため、武器を使った攻撃力は高いのだが、残念なことに眼前にいる敵は物理耐性が高めなのだ。攻撃魔法が得意な魔法使い(メイジ)が居てくれれば楽なのだが、あいにく今日は俺ひとり。

 とはいえ、有効な攻撃手段がないわけではない。

 このゲームには魔法の他に、武器を利用した必殺技《クラフト》がある。

 下位に属するクラフトは純物理属性だが、上位には地水火風闇光のいずれかの属性が付いている。故に、物理耐性のある敵にもダメージが通るのだ。ただ上位クラフトは威力が高いだけに、そのぶん発動後の硬直時間も長い。イビルクロウの攻撃力とソロという状況を考えれば、下手をすれば死んでしまうだろう。


「まあ……分の悪い賭けは嫌いじゃない」


 威嚇するような素振りを見せたイビルクロウに、俺は怯むことなく突っ込んだ。鮮やかな橙色の輝きを放つ右手の剣を全力で叩き込む。

 高速の5連斬りから最上段の振り下ろし。遠心力をフルに使うように下段から斬り上げ、その勢いのまま宙返りし、渾身の一撃を振り下ろす。片手剣8連撃クラフト《バーサク・フレア》、物理6割、火炎4割の大技だ。

 ――ここからが賭けの始まりだ。

 本来ならば技にふさわしいだけの硬直時間がこのあと発生する。しかし、《二刀装備状態》に限り、これを覆せるシステム外スキル《コネクト》が存在するのだ。

 これは簡潔に言ってしまえば、発生するはずの硬直時間をもう片方の剣でクラフトを発動させて消してしまおう、というプレイヤースキル。正式稼動前のテストプレイで二刀流で遊んでいたプレイヤーが偶然発見し、数多くのプレイヤーがこれまでに挑んだと聞く。だがあまりの成功率の低さ故に、今では挑戦しようとする者は少ない。

 俺も数え切れない試行錯誤の末にやっと一度発動させることが出来た。あと数回トライして成功しないならやめよう、と思うほど忍耐力が限界に来ていただけに記憶に残っている。

 右手の技の収束をシステムアシストに任せ、俺は意識を左手に集中する。ふたつのことを並行して考えるような状態に陥るため、かなりの違和感に襲われるのだが、片方だけに集中してしまうと確実に失敗する。


「――ッ!」


 斜め上から振り抜き、勢いを殺さずに回転。最初の一撃に垂直で交わる軌道で剣が跳ね上がる。それと同時に地面を蹴ったことで、さらに空中で1回転し再び斜め上から斬り落とす。すぐさま手首を返して一撃。4連重剣技《ブレイバークロス》。物理4割で光が6割だ。

 2桁以上の斬撃にイビルクロウのHPは激減し、残りは3割程度。上手くいけば、あと一撃で葬ることができる量だ。

 しかし、《コネクト》は非常に難易度の高いプレイヤースキルだ。

 タイミングの誤差は、俺の経験的にコンマの世界でしか許されない。少しでもずれてしまえば、アバターは硬直してしまう。片手直剣スキルをほぼマスターした頃から毎日のように練習に励んでいるが、成功率は2連続で7割。3連続以降は5割も行ってはいないだろう。

 ――まあ、これも練習だ。

 失敗したらそのときはそのときだ、と思いながら意識を右手に向け直す。再び強烈な違和感を覚えるがそれに耐えた結果、俺は3連撃目のクラフトを発動させることが出来た。


「は――あぁッ!」


 大きく開いた左右の足で思い切り地面を蹴り、体を回転させつつ生じたエネルギーを右腕に届ける。鮮血のような禍々しいライトエフェクトを纏った刀身が、消え失せて見えるほどの速度で撃ち出され、敵の腹部を深々と貫く。

 物理4割、火と闇を3割ずつ含む単発重剣技《ブレイジング・ストライク》。高威力かつ射程の長いのクラフトで、俺のお気に入りの技のひとつだ。

 クリティカルヒットしたこともあり、イビルクロウの体力はゼロになり、爆ぜるように霧散した。ほぼ同時に長い硬直時間から解放された俺は大きく一度息を吐いた後、左右の剣を背中にある鞘に納めた。


「……疲れた」


 長時間の単独戦闘とコネクトの練習によって疲労感はかなりのものだ。今は夏休みであるため、寝坊しようと全く問題はないのだが、集中力を欠いた今の状態で続けても効率は悪い。

 そう判断した俺は、近くの村まで飛ぶ始める。

 このゲームは各種族間で領地の奪い合いがあるため、種族の拠点となる都市では、その種族以外はPKされてしまう。俺が今向かっている村のように中立のエリアでは問題はないのだが、こういった場所を拠点に活動しているプレイヤーは領地戦に参加していない者が多いため、都市部を拠点にしているプレイヤーからは毛嫌いされてしまう。

 まあ領地戦に興味がなく、誰とでも仲良くなりたいと思っているわけでもない俺にとってはどうでもいい話なのだが。そもそも、ゲームの楽しみ方は人それぞれのはず。他人のプレイに口を出すのはお門違いというものだろう。

 そんなことを考えているうちに目的の村が見えてきた。到着すると、迷うことなく宿屋へと足を運んでログアウトするのだった。



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