私は火には殺されない、炎の勇者
「大きく育ったもんだ。」
ワシは笑いながらジョッキを傾ける。
「羨ましいもんだ、ウチの娘と違って美人で大きい」
常連客のロイドが言った。
「エロイドのおじさん?」
ワザと怒った声を出し、腕を組んで胸を隠す娘。
「娘を褒めてもらった礼に、このボトルをオマエさんの勘定にする〜ワハハ〜」
机の上にドカンと載せるボトルには、親父の複雑な気持ちも入ってるぜぇ
エロイドは、新しい呼び名も買うことになった、お互い苦笑しか出ねぇ。
お父さんは?って睨んでくるが、ワシは知らん。
なにしろココはオレの飯屋だ。
しかし大きくなったもんだ、今日で14歳になるのか。
初めてこの店に来て、厨房の火を見た時には泣いて震えていたもんだがなぁ
客席の隅まで走り縮こまって泣いていた小さい女の子はもういない。
今や炎を巧みに扱いイイ塩梅の飯を作る。
成長したもんだなぁ。料理で火を扱うだけなら、師匠のワシより見極めができる位だ。
娘は火に恐怖を感じていた。
今でこそ笑顔第一なアイツだが、火を克服するようになるまでは無残なものだった。
遺児・・。
火に両親を焼かれ、自分も危うく火の中で死にかけたアイツ。
今も火事を知らせる鐘の音が聞こえる度、アイツは一瞬震える。
娘は火を克服し過ぎていた。
料理の火が平気になると、魔法の火にまで興味を覚えたようだ。
得意魔法。
魔法の先生共も一目を置いているらしい、火を操ることには。
火事を聞くと娘は走る。火を操って被害を抑える。
心配でたまらねぇワシ、だがなにもできんししない。役に立たんしな。
怪我は勿論許さねぇ・・心配だけだ。
ただ生き方が火に飲まれなきゃいい、いつかオオゴトにならなきゃいい。
**火事を知らせる鐘が鳴る**
「お父さん!言ってくる!」
料理の載ったトレイをテーブルに置いて私は走る。
空を見上げるが火事の現場は見えない。
私は魔法を使う、火を探る・・特化した探知魔法、そして走る。
遠い・・、町の中央から端へ。
コケそうになっても持ち堪え、悲鳴を上げる持久力を、気持ちで進む。
脳裏に火が駆ける。
助けなくっちゃ・・・死なせない。
やっと現場に着く。
「火よ・・はじまりから終わりまで尽きぬ火よ、その一部を我に与えよ」
私の呼び出した火が、火事の火の前に現れる。
「火は火を食らい、燃え上がる様、無限のたぎり」
火が火を喰らう
「我の火よ、我が魂を食らい、精霊となれ」
魔力が火に仮初の命を生む
「生まれよ、我が下僕・・サラマンダー」
私の魔法の火が火事の火を吸収し、凝縮し、空に集い生命体となる。
クラッとする脱力感。
火事場の火は一気に消えた。
私の創りだしたサラマンダー
触れることのできない私のペット。
「火よ・・終わりに向け、また会いましょう」
霧散するサラマンダー。
この流れは今まで何十回とやってきた私のオリジナル。
助かった子供が見える、親子で抱き合っている・・よかった。
・・パパ、ママ
幼い私が見える。
死んで欲しくなかったよ。
私は火を追いかける。
いつか私の中の火が消えてくれる日は来るのでしょうか?
**
その後私は勇者に生まれ変わった。
火は増すばかりだった。
トラウマは忘れた方がイイ時もあるんじゃないかなぁと思います、生きていくんだし。