さかなの骨
ご飯と焼き魚と味噌汁が晩ご飯だった。
「いただきます」
焼き魚を食べた。細かい骨が僕の喉に引っ掛かり回転した。喉仏を突き破って、骨が出てきた。
「やあ、はじめまして。ボクは魚の骨って言う名前の魚の骨だよ」
陽気な声で自己紹介を始める魚の骨。
(そんなことはどうでもいいので、救急車を呼んでほしい。どんどん、血が無くなる)
僕の体は蒼白なのに、床は一面赤色に染まっていた。座していた姿勢を維持できずに寝ころぶと、血が身体にまとわりついた。温かくて、寝風呂に浸かっている気分になった。だんだん眠たくなってきたので、目をつぶろうとしたが、魚の骨が邪魔をした。
「あれ?ボクの話し聞いてくれていないの?ここからが面白いのに…………って床一面真っ赤じゃないか!!」
驚愕の声をあげた魚の骨は、血を失い肌が蒼白になっている僕に近寄った。
「な、なんで君の身体が冷たくなってるの」挙動不審になりながら、魚の骨は僕の首に勢いよく手をいれた。
(!?いっ……たいっ……)
鋭い痛みに僕は顔を歪めて魚の骨を見た。
「血液が無くなってるから冷たいんだね!!だったら、ボクが血液の代わりを流し込んであげるよ」
身体が冷たい原因を理解した魚の骨は御膳に置かれていた味噌汁を手に持ち、僕の血管に流し込んだ。
(痛いっ!!時おり具材が血管の壁に刺さって、さらに痛いっ!!)
魚の骨は僕の血管に味噌汁を流し終えると傷口を塞ぐためにご飯をすりつぶした。
「このすりつぶしたご飯で傷口を塞げば……おお、治った」
魚の骨は感心したように両手をパチパチと鳴らした。
僕は起き上がって魚の骨が抉り出てきた首に手を伸ばし、さすった。かすれた声で驚いた。
「治ってる……」
「魚の骨ならこのくらいはできるのさっ!!」
誇らしげに身体を弓なりに反らしながら魚の骨は言った。
「……ありがとう」
そもそもの原因は魚の骨にあるのだけど、と不満に思いながらも命を救って貰ったのでお礼を言った。
「礼にはおよばないよ!!」
それにしてもさっきから異臭がする。何処からだろう……。
「ねぇ、魚の骨さん。さっきから異臭がするのだけど、何処からするのか分かる?」
「えっ?君からだけど」
さも当然のように魚の骨は言った。それを聞いた僕は顔面を蒼白にして腕を見た。すると、腕の一部が変色して柔らかくなっていた。つまむと粘着性のある液体が糸をひいた。酸の臭いが鼻につんと響いた。
「こ、これ、どうなってるんだよ」
「なまものは痛みやすいからねえ。腐ったんじゃない?」
煎餅をかじりながらテレビを見ている魚の骨が背越しに答えた。僕は呆れと恐怖で沈黙した。テレビの笑い声と魚の骨が煎餅を食べる音が響いた。
「どうすれば……いいの?」
「冷蔵庫に入れば腐敗の進行を遅くできるよ」
僕は足早に冷蔵庫へと向かった。そして、冷蔵庫の扉を開けて中に入った。
「腐る前に早く、食べて」
人間で無くなった事に恐怖と悲しみが涙となってこぼれた。