追われるのはなぜかって?そりゃ・・・なんでだろう?
「探せ!絶対この辺りにいるはずだ!」
白い鎧を着た騎士たちがスラム街の路地を走り抜けていく。
騎士たちは大通りに出ると二手に別れ、鬼のような表情を浮かべながら周囲を睥睨した。
通りの端で座り込んでいた浮浪者たちは彼らの姿を見た途端慌てて目を逸らす。
白い鎧に刻まれた太陽と2本の剣が交差した紋章を見て彼らが神殿の聖騎士だと気づいたからだ。
頭を垂れる浮浪者をゴミでも見るような目で一瞥すると指示を出していた隊長の騎士がフードの付いた外套を目深に被った浮浪者に近づいていった。
「おい、そこのお前!」
「は、はい、なんでしょう聖騎士様」
浮浪者は震える声で返事をし、顔を引き吊らせながらも媚びるように笑顔を浮かべる。
「黒髪の男を探している。もし見たなら隠さずに教えろ」
「黒髪の男ですか。・・・申し訳ありませんが見覚えがないですねぇ」
隊長はチッと舌打ちをするとフードに隠された浮浪者の顔を見つめた。
「お前、なぜ顔を隠している?顔を見せてみろ」
しかし浮浪者は顔を俯かせるだけで晒そうとはしなかった。
「貴様・・・」
隊長の手が腰の剣へと伸びる。
「お、お待ちください聖騎士様!逆らおうとかそういうつもりじゃないんです」
隊長の行動を見て浮浪者は慌てて弁解をし始めた。
「私はだいぶ長い間、水浴びをしてませんのでとんでもなく臭いんですよ。それで聖騎士様のお気に触ったらいけないと思いまして」
浮浪者が一歩近づくと漂ってくるひどい悪臭に隊長は顔を歪ませた。
「うっ・・・もういいからそれ以上近づくな」
「あ、あの、聖騎士様」
不愉快そうにその場を後にしようとした隊長を浮浪者が呼び止めた。
「なぜその黒髪の男を追っているのですか?」
「チッ・・・黒い髪を持つなど神に祝福されし者にはありえない。その身に邪悪を宿してる証だ」
隊長はめんどくさそうにしながらも言葉に嫌悪を滲ませ、はっきりと言い放つ。
「つまり異端者だ」
浮浪者が下がるのを見ると隊長は先に行った部下たちの後を追って走り去っていった。
緊張と恐怖から開放され周囲の浮浪者たちがほっと一息つく中、隊長に話しかけられていた浮浪者だけが隊長の姿が見えなくなるまでその背中をじっと見つめていた。