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強者の苦悩  作者: 林葉
栄光の幻影
9/45

制圧作戦

 あれから数日が経った。相変わらず町を歩いていると静蝶会のチンピラ共に絡まれる。うざくて仕方がない。

 深海魚を何回か殴ったような顔をしたチンピラはもう見たくない。

 毎日毎日、あの頭の悪そうな、品性の欠片もない顔を見ると思うと気が滅入る。


 私は今日もギルドの建物で時間を潰すことにした。


「最近なんかやべえわ」

「ああ、それ分かる」

「こないだも何か変なチンピラに絡まれたし」

「変にいきり立ってるよな、最近」


 私はギルドの食堂に向かった。

 この時間帯は人が少なく、並ぶ必要がない。元から並ぶつもりはないが。


「コーヒー……薄めで」

「はい。少々お待ち下さい」


 椅子に座ってコーヒーを飲む。

 ふと左を見ると、隅でカマが朝食を食べている。何でここにいるのだ? こいつは。

 少しすると緑の顔布の男、ヨーガスが食堂に入ってきた。


 ヨーガスはお盆を持って店員に何かを頼んだ。

 カマはさり気なく前の席に移った。


 カマは朝食を持ったヨーガスの歩く先に鞭を放った。

 足を引っかける、という悪戯をするつもりだろう。


 ヨーガスは転びそうになったがうまく立ち直った。


「あっ、失礼。この鞭、勝手に動くんですよ。躾けておきますので」

「……」

「やだなぁ、わざとじゃあ無いんですよ。あるでしょ? こういう事」


 無いと思うぞ……、そういう事。


 ギルドの食堂でコーヒーを飲んでいるとチンピラみたいな奴に話しかけられた。


「……なんだ?」

「お疲れッス。自分、紅竜会のもんッス。本部までちょっとお願いしやッス」

「……理由を話せ」


 机を軽く蹴るとチンピラは一本の棒の様に姿勢を正した。


「すんまへん! 会長が依頼したいと言ってますんで……」

「……案内しろ」


 チンピラの声が変に大きかったので周りの注目を集めてしまった。

 朝から機嫌が悪かったので、馬車に乗る時チンピラの背中を蹴った。しかしすっきりしない。


 紅竜会の本部に着くと会長室に案内された。

 散らかっているロビーとは違って会長室は片付いており、高価な美術品が飾られている。

 幹部達が緊張した面持ちで座っている。


「お忙しい中お越し頂いてありがとうご……」

「要件は……?」


「貴方にもう一度力を貸して頂きたい……」


 紅竜会と静蝶会の抗争が激化し、紅竜会も多大な被害を負っている。このまま抗争が長期化すると、仮に静蝶会を倒せたとしても紅竜会の存続は保証出来ない。

 数で押して無理矢理潰すという手もあるが、静蝶会も精鋭揃いである。

 戦闘員の質は紅竜会より高く、元騎士団や高位の魔術師などを雇っているようだ。


 そこで紅竜会は高い依頼料を払ってでも一流の戦闘員を使いたいらしい。


「で、私にどうしろと……」

「三つの柱を倒して欲しいのです」


 一つ目は港町ポロットにある支部。

 静蝶会は他の島から商品を輸入している。ポロット支部は貿易、輸送関係を担っており、そこを叩く事で多くの被害を与えることが出来る。


 二つ目はルクレシア首都。

 以前は首都では薬物の販売関係では紅竜会の独擅場であったが、価格破壊を行った静蝶会に少しずつ浸食されている。これを潰せば紅竜会の収益と独占率は回復する。


 そしてサンセットにある本部を叩けば、静蝶会は潰れる。


「という算段です……」


 さて、幾ら貰おうか……。


「ちなみに、貴方以外にも話を付けています」


 ……何だそれは。


「二十人程雇っているのですが……。貴方には一時的に指揮官になって頂きたいのです」

「そんなふざけたこと出来るか……」


 何が指揮官だ……。


「軍隊を率いるつもりは無い……」

「いや……しかし……。貴方が率いて頂ければ此程心強いものはありません」


「各々がすべき事をすれば、指揮官など必要ない……。それを必要とするのは烏合の衆だけだ……」

「……そうですか。では別の人に代わって貰いましょう……」


 私は他の人間とは組みたくないのだが……。断ろうか。


「それで報酬は……、一件につき四千万でどうでしょうか」


 四千万か……、悪くないな。だがもう少し取れる。


「……それは成功報酬か?」

「はい、勿論です」


「相談料と着手金込みで一件六千万だな……」

「なっ……」


 幹部達が息をのむ。どうやら想定していなかったらしい。それでは困るな。

 私は一押しした。


「お前にはこの計画を確実に成功させようという気構えはないのか……!?」

「いや……、ふむ……。しかし……」


 三代目は眉間に指を当てて考え込む。

 やがて口を開いた。


「分かりました……。その金額で良いでしょう。明日には振り込んでおきます」

「サンセット特別信用金庫に振り込んでおけ……。私の名前を出せば分かる」


 私が部屋を去ろうとすると声を掛けられた。


「あっ、食事、どうですか? せっかく用意してありますので……」


 ふむ……。そう言えば朝食を食べ損ねたな。せっかくだから食べていこうか。


 二階の食事場に案内された。

 大きな円の机がある。料理の皿はもう既に広げられている。

 給仕の女が椅子を引く。


 ――ガタッ……。


 二十人程の男達が座り始めた。ん?


 何か気になったので幹部に視線を送る。

 それを察した幹部は説明した。


「一応、同士討ちがあったらいけないので顔合わせを、と思いまして……」


 同業者か……。

 無駄に筋肉のついた男達二十人が座った。

 立ち振る舞いからして、戦い慣れている様子だな。大したことは無いが。


 ん?

 今、妙な視線を感じたな。

 ふと右を向くと見たことがある顔があった。


 ヨーガス……。


 同じく紅竜会に雇われているというのに、友好的な視線ではないな。

 まるで品定めしているような、見下しているような視線だ。気に入らん……。

 他の男達は私に目も合わせない。


 やっぱり来るのではなかった……。今更遅いか。

 さっさと食べて帰ることにした私は料理に手を付けた。


「もしかして、あんたヨーガスか?」

「ああ」

「あんた凄いらしな……」

「ワイバーンの群れを一人で殺ったらしいぜ」

「頼もしいな!」


 皆ヨーガスの話題で持ちきりだ。

 幹部が口を開く。


「本当はそちらのデューク様にリーダーになって頂こうと思ったのですが辞退されましたので、ヨーガス様に一任したいと思います」


 皆、一瞬私の方を見たが何も言わずに視線をヨーガスに戻した。

 ヨーガスを中心に賑わっているようだ。


「ヨーガス! 頼むぜ!」


 酒の勢いもあって、皆ヨーガスを信用したようだ。

 実に気に入らない。


「では決行日時は明後日で……」


 具体的な段取りを聞いた後、私は本部を出た。


 そして約束の日……。


 仕事帰りの農夫が酒を飲んで家に帰った頃、私は港町ポロットの静蝶会の支部前にいた。

 数は二十人程度。ヨーガスも居る。


 ヨーガスが喋り出した。


「じゃあ手筈通り、部屋に煙り玉を投げて突入。魔術師の人は広範囲の魔法を。出来るだけ固まって行動する。一人で集団に突っ込まないように。無謀だから」


 どうやら私が居ない間に打ち合わせをしたらしい。私には関係ないが。


 男の一人がドアを蹴り破る。間髪入れずに煙り玉が投げ入れられた。


 ――ボンッ! シュウウウウゥ……。


「敵襲うううううううう!」

「てめえら、どこのもんじゃいッ!」

「ぶっ殺がすぞ、こるぅらぁ!」

「魔術持ちおるんけええ!? はよ来いやぁ!」


 二十人程は部屋になだれ込み、戦闘員を叩き伏せていく。

 紅竜会はそこそこの奴を雇っていたらしく、手間取る様子はない。


 私も歩いて部屋に入ることにした。

 入り口に立って戦闘の成り行きを見学することにした。


 私が動かなくても勝手に事が進むので、楽だな。集団戦に参加するのも良いものだな。


 ヨーガスは三人の斬撃を後ろに引いて躱す。

 一人目を突き刺し、抜いた勢いで二人目を突き刺した。三人目の剣を弾き飛ばして首を斬り飛ばす。


 ふむ……、三人倒すのに時間が掛かりすぎだな。もっと一息にやって貰わないと。あれじゃあその内死ぬな。


 私が突っ立っていると、それに気付いた一人のチンピラが向かってきた。


「お前も死ねえええ!」


 ――カシャ……。


「グハッ!」


 斬ろうかと思ったが、誰かが斬ったらしく、私の手前でチンピラは崩れ落ちた。

 ああ、ヨーガスか。


 あろう事かヨーガスは私を睨んで吐き捨てるように言った。


「何ボッとしてるんですか!?」

「ん? どうした?」


「ん? じゃないですよ! 貴方みたいにボッとしてる人がいると迷惑なんです!」

「ああ、俺のことは構わなくて良い……」


「ふざけないで下さい! 貴方報酬貰ってるんでしょ? それとも報酬泥棒するつもりなんですか!?」


 何か、この間と打って変わって、よく喋るな。

 ヨーガスは私を人睨みした後、部屋を制圧した。


 ちなみに、さっきの斬撃はタイミングが早すぎだな。相手が素人だから良かったが……。

 強いように見えて所々ボロが出ているな……。


 おっといけない。人の攻撃を一々評価する癖が出てしまった……。


 私が動くまでもなく、一階は制圧された。

 今の騒ぎで上階からチンピラが駆けつけたお陰で半数を片付けることが出来たようだ。


 残りは上階で待ち構える作戦らしい。

 

 階段を上って二階に行くと広い廊下に出た。

 左右を見ると三十人程の戦闘員が待機していた。挟み撃ちか……。


 ヨーガスが叫ぶ。


「右と左で魔術師は半分に別れて! 背中を預けて!」


 私は面倒だったので一階の椅子に座ることにした。

 近くに紅茶の入った水差しがあったので、飲むことにした。


 まずいな! 鉄の味がする……。


 ――カキイィン! ガキイン!

 ――グガッハァ……。

 ――ドサッ、ドサッ。


 十分すると静かになったので二階に上がることにした。


「……何やってたんですか? デュークさん」


 ヨーガスが睨んでくる。

 私は死体を踏みつけながら答えた。


「一階の監視だ。まだ人が隠れているかも知れないからな……」

「ちっ……」


「うぐぐ……、ううぅ」


 私が踏んだ人間はまだ息があったようだ。

 その頭を思い切り蹴りつけてとどめを刺した。


「それより……殺し方が甘いぞ……。高い金を貰ってるのだから、しっかりやれ」

「貴方に言われる筋合いはありませんから」


 三階は特に苦戦することもなく制圧完了。

 そして四階……。


 四階は殆ど人がいなかった。だが戦闘員の質は高く、思いの外苦戦を強いられているようだ。


「無理しないで二人、三人がかりでやれ!」


 ポロット支部は中々良い隠し球を持っていたようだ。

 四階に上がってから五人欠けた。ああ、また一人欠けたな。


「デュークさん!」


 ヨーガスがこっちを見る。

 だが、まだ動かなくて良いだろう。これ位なら十五人程でも何とかなりそうだ。


 ヨーガスと一人の戦闘員が対峙する。


 戦闘員の攻撃は激しく、ヨーガスは防戦一方か。経験の差だな……。

 中々老獪な相手だ。


 長剣を巧みに使い、ヨーガスの目を欺く。

 度重なる複雑な攻撃でヨーガスの負傷が増える。


「くっ……」


 他の者は手が一杯でヨーガスを支援出来ないようだ。所詮は若造か。


 戦闘員がヨーガスを蹴り飛ばす!

 蹴りが来るとは思わなかったようだ。ヨーガスは無様に吹き飛ばされる。


 転がるようにして立ち上がったヨーガスに追撃!

 間一髪で防ぐ!

 

 ――ズシュッ!


 戦闘員の長剣がヨーガスの肩を刺す!

 だがヨーガスはそれを気にせずに、相手の心臓を貫いた。


「はぁ……はぁ……」


 ……なるほど。剣術はそれなりだが、体術は駄目らしい。

 剣術に固執して、相手に虚を突かれるパターンか。


 ということは何処かの貴族育ちだな。

 貴族は、剣士は剣だけで戦うのが良いと思っている。手や足で攻撃するのは野蛮人だと思っている節があるので、貴族の剣士はヨーガスのようなタイプが多い。


 戦うこと自体野蛮であるのに……。


 ――ドッゴオオオオオオ!


 何だ?


 男五人が同時に吹き飛んだ! む? 危ないっ!

 私が後ろへ飛ぶと、何者かが地面を殴りつけた。


 何者かは素早くヨーガスに肉薄する!

 ヨーガスはそれが見えていない!


 ――フッ、フッ、シュッ……、ドッゴゥ!


 無様に吹き飛ばされたヨーガスは物置の扉を突き抜けた。

 箒やら塵取りにまみれるヨーガス。

 まるで何が起こったか分かっていないようだ。お前、殴られたのだぞ……。


 上半身裸の襲撃者の姿が薄くなる。高速移動!

 私の前に立っている男を一瞬で殴り飛ばす!


 他の男が反撃しようとするが、まるで当たらない。

 襲撃者は嫌らしく顎を前へ突き出して挑発する。


 男はメイスで殴ろうとするが、しゃがんで避けられ、鳩尾を殴られる。


 魔術師が火球を作る。

 それに気付いた襲撃者は、馬鹿にしたような、踊るようなステップを繰り出す!

 まるで、「当ててみろよ、ほら」と言いたげに。


 火球が放たれる!

 だが襲撃者の手前で落ちる。

 その火球の炎は辺り一面に広がる。拡散型か。


 襲撃者は高く飛ぶ!

 それを狙った魔術師はもう一度火球を放つ!


 ――ボウウウウゥン!


 火球が襲撃者の目前まで迫る!

 だが、当たらないッ!


 襲撃者は何かに弾かれたように空中移動する!

 今の技……、魔力が感じられない……。空気を踏んだか!


 襲撃者は空中で突然勢いを増して、魔術師に飛び蹴りを放つ!

 

 ――ゴギャアッ!


 首がおかしな方向に曲がった魔術師は後ろへ吹き飛んだ。


 男達は怖じ気づいて私の後ろに下がった。

 こういう時だけ頼られても困る。


 襲撃者と私が対峙する……。


 小手調べに風の刃を出してみる。ただの風の刃ではない。

 複数の風の刃を出し、廊下の左右上下の幅一杯に繰り出す!

 その刃の壁を襲撃者に放つ!


 空間の広さが限られる廊下では有効な攻撃手段!

 前後左右に飛んでも、上に登っても斬られる! 死角無し!


 これを防ぐか防げないかで素人か玄人か分かる。


 風の刃を確認すると襲撃者はにやけた。

 その瞬間襲撃者が消える!


 ――ドッガアッ、パラパラ……。


 風の刃が通り過ぎた後、襲撃者は再び現れた。横の壁の中から。

 己の身体を壁にめり込ませたか……。


「お前……。名前を聞こうか」

「死人に言う名前無いねぇ。お前死ぬのでえぇす」


 ――フッ……。


 攻撃を直感で予測! だが、ギリギリまで引きつける!


 ――ズオオアアアアアァ……。


 襲撃者の動きが、老婆が歩く程ゆっくりに見える。


 襲撃者が飛び上がる! そのまま飛び蹴り!

 と見せかけて、空中で急に動きを変える!


 風に飛ばされるように私の横に回り込む!


 だが……、私の見切りを舐めないで欲しい……!


 左手の突きを身体を捻って避ける。それを狙ったように突きから肘打ちへ変化!

 だがそれも避ける! 無駄だ!


 肘を両手でもって、捻る! 

 襲撃者の手を捻って、そのまま肘を押す!


 ――ドアアアァン……。


 派手な音を立てて廊下の床が粉砕される。

 床に沈んだ襲撃者は動かなくなった。死んでは居ないだろうが、しばらくは動けないだろう。


 今の襲撃者が一番の隠し球だったらしい……。

 

 一番奥の隅で縮こまっている支部長を殺して制圧は完了した。


 傷まみれになったヨーガスに一言申す。


「……無様だ」


 ヨーガスは相変わらずこちらを睨むが何も言わない。

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