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強者の苦悩  作者: 林葉
砂の王
36/45

喰われた覇王樹

 アルセール大陸を南北に分断する深い森。境界線だ。人々はどうやってもこの森を越える事は出来ない。なぜなら空中には竜の大群が、森には凶悪な魔物達がいるからだ。その昔、冒険者達は挙って境界線を越えようとしたが誰一人として帰ってこなかった。森に入ったら生きて帰る事が出来ない、というのはもはや常識で、無謀にも森に入るような輩はほとんどいなくなった。いや、もしかすれば森を越えた人物がいるかも知れない。しかし、少なくとも歴史上では数えられていないだろう。故に南半分の地図は存在しない。その未開の地の地形を見る事が出来るのは森を越えた人間だけだ。

 それは南側の住人も同じ事だ。彼らもまた、北側の住人を得体の知れない者達だと思っている。とにかく、北と南は遙か昔から関わる事無く、今日まで続いているのであった。


 そして森を越えてすぐ広がる砂漠。その一帯は日光を遮る物は何も無く、昼間は灼熱地獄と化す。この過酷な砂漠では、生半可な生物は天敵に襲われずとも、灼熱と乾きによって即座に砂屑と化すだろう。

 だがそんな砂漠にも毎日を生きる民がいた。何も無い砂漠に申し訳程度に広がる緑地帯。オアシスを越えた先に国はあった。砂にまみれたこの場所で子を産み、育て、死んでいく民を包むこの国は言わば、“砂のゆりかご”であった。


 その国は一つの大きな都市から成る。

 四角いような石造りの建物が巨大な王城を取り囲むように並び、王城は古めかしい色合いの木で出来ている。その王城は国のシンボル、“ご神木”を囲むように建てられ、ありとあらゆる種類の実を毎日尽きる事無く落とし続けている。遥か昔、国の始祖と言われる神、フルーティアが迷える民のために生やした木であると言われている。ご神木は、夜であると言うのにうっすらと光り輝き、都市全体を暖かく包み込んでいた。

 それが砂漠の国、サンマドだ。


 城の中を慌ただしく歩く複数の足音があった。少しも軋む事のない堅い床を踏み、手には武器を持っている。

「兵士長! どういう事だ?」

「はっ! 分かりません! ただ、大きな音がしたと思って外を見たら、城の最上階付近に大きな穴が……」

「……元老院の円卓の部屋ではないか! ええい! 兵を集めろ! 何者かは分からぬが、私でも撃退出来るかは怪しい。もしものために“アレ”の起動準備を」


 砂漠の王、タールクムは焦った。

 この城、木で出来ているがちょっとやそっとでは罅一つ、焦げ目一つ入らない。なぜなら国の守り神フルーティアが直々に作った木であるからだ。その堅さたるや絶大で、国で最強でもあるタールクムが明日の事を考えずに全力で武器を振ってやっと先っぽが少し入るほどだ。下手な金属など論外と吐き捨てるほどの木、その木に派手に穴を開ける存在がいるとすれば、国の存亡に関わる驚異だ。

 国の中核を担うこの王城が無くては、過酷な環境を生きる民を守れない。もし城に穴を開けたのが第三者ならば即刻に処理せねばならない。

 だからタールクムは急いだ。


「生半可な人数では駄目だ。それでは私一人とさして変わらん! 精鋭だけを最上階によこせ。後は城を包囲させておくのだ」

「御意! しかし国王、あなたが倒されてはこの国は終わりです! せめて精鋭が来るまでの間いましば――」

「いけん! 事態は一刻を争うのだ。元老院が潰されればこの国の政治力はがた落ちだ。私一人では立て直すのに時間が掛かる。あんな奴らでも国にとっては必要なのだ!」


 元老院。それは国王に一番近い権力を持つ機関。故に“第二の王”と呼ばれる。生活基盤、国家予算、司法、整備、あらゆる分野に精通した老獪な人々が国の行く先を考え、適切な処理を施す。場合によっては国王より強い発言力を持つ事もある。また国王に相応しくないと判断すれば、審査会を開き国王を代える事も可能とする。

 そんな元老院が潰れる事などあってはならない。致命的な打撃となるだろう。


 そもそも予想外だったのだ。フルーティアの木が破られる事など。刃も火も、全てをはね除けた木が。不敗神話を掲げる木に穴が開く事が。


 タールクムは最後の階段を上がった。目の前には国の象徴であるご神木が掘られた扉がある。この扉を隔てた先には円卓の机があり、何時も何かといがみ合っている生意気な老人どもが鎮座しているはずなのだ。だが守らねばならない。

 タールクムは取っ手に手をかけた。右手に巨大なハルバードを持って。そして一気に開く。


 部屋の中は青い月明かりが差し込んで、円卓の机に淡い切れ込みを入れていた。何のことは無い。やはり老人どもは何時ものように椅子に座っていた。


「ほほほほほ……。来ると思ってたよ、王様」

 違っていた。これは何時もの景色では無い!

 目の前には元老院の長を務める老人がいるはずだが、その代わりに得体の知れない少女がふんぞり返っている。

「何者だ……貴様!」

 王は歯をむき出しにした。肉切り裂く獣のような歯だ。喋った勢いで口の中を噛んだらしく、前歯が血に染まっている。だがそんな事は微塵も気にならない。気になるのは目の前の少女。いや、侵入者だ。


 そもそもこんな奴が円卓の部屋にいるはずが無い。王は辺りを見渡した。

 何時もの小生意気な老人達は大人しく椅子に座っている。違う! そうではない。一人は首に大きな切り傷を作り、一人は腹部に大穴が空き、一人は顔すら無く、一人は椅子に座ってもいない。ちゃんと正しく椅子に座っているのは目の前の少女だけ。


「ふふふ、教えてあげよう。私は全てを手に入れる者、エリシア・ロス・シュバイツ。以後お見知りおきを」

 エリシアはそう言って立ち上がった。そしてあろう事か、土足で円卓の机の上に飛び上がった。月明かりに照らされたエリシアの顔が浮かぶ。

 王の呼吸が一瞬だけ止まった。それほどまでに美しい姿であった。乾いた国に降り立った一輪の花のように、その足下に花が咲き、舞い乱れ、散っていく。そんな幻想すら浮かべる愛らしさ。あまりの美しさに部屋の中の空気の色すら桃色に染まったように見えた。


「たった今からこの国はあたしの物になるけどね」

 老人どもは何も言わない。いや、言う口など無かった。そう、元老院はこの少女の手に落ちたのだ。残るは、王。

 王はハルバードを両手で持ってゆっくりと少女に近づいていく。息を吸って吐き、頭の先から足のつま先まで神経を張り巡らせ、あらゆる筋肉を武器を振るためだけに調整する。そして一瞬だけ身を低くすると、残像だけを残してその場から消えた。

 ――かと思えば、もうすでにハルバードは振られており、それはエリシアの額の少し上に接近していた。


 全ての罪人を粉砕するハルバードがエリシアの頭を抉り取り、赤い花を咲かせた。そう王は、当たる直前で確信した。しかし――


「王様に手を出すなんて、いけない子だねぇ」

 ぞわり、と空気が変わった。怒気、殺気、威圧感が暴風のように押し寄せ、この部屋を駆け回り、本棚や窓ガラスや椅子をことごとく粉砕する。

 飛び散ったガラスが空中を舞い、月明かりに照らされる。王はその中の一つに映るエリシアの顔を見た。にんまりとした顔であったが、その仮面の裏には今にもそれを破ろうとしている凶暴な念が渦巻いていた。

 この女、ただ者では無い。と王は確信した。

 事実、振り下ろしたはずのハルバードはエリシアの細い細い親指と人差し指で摘ままれていた。その時、王の脳裏に数年前の出来事が浮かび上がる。


 それは罪人同士で戦わせる競技を行っていたときのことだ。何時もと変わりないように、月並みな試合を見て取るに足らない罪人をハルバードの錆に変えるかのように思えた。その時、国の宝玉を盗んだという罪人の存在が知らされた。その罪人はなんと、北の森を越えてやってきたという。

 その罪人は強かった。いや、強いなどと言うちんけな言葉では無礼に値するほどだ。姿が消えたかと思いきや目の前の相手が真っ二つになり、それは試合開始の合図と同時に行われた。そしてその罪人は当然のように決勝まで勝ち上がり、優勝した。


 この国では優勝した罪人は王と戦う権利が与えられる。そして見事勝つ事が出来れば罪が帳消しにされるのだ。

 もちろん参加者は自信満々に王の前に立った。しかし、王は強かった。どんな強力な一撃も、素早い攻撃も、頑丈な防御も王の持つ力の前では赤子に等しかった。最後の最後で罪人は王によって裁かれるのだ。


 だが例外があった。例の罪人だ。その罪人は王の初手を防いで見せた。大体の罪人であればこの一撃で真っ二つになる。しかしその罪人は防いだ。この時点で王の中に何時もと違う感覚がわき上がってきた。強者を見た時の焦げ付くような感覚だ。

 次に罪人は攻撃を仕掛けてきた。王はそれを避ける事が出来なかった。もはや視認する事すら出来ない動きで、勘で動いてみたがやはり駄目であった。

 この罪人の前では己の力もまた赤子同然だったのだ。戦いが終わった後、罪人は再会を誓うこと無く去って行ったのだ。

 その罪人の名はデューク。王はその名を胸に刻み込んだ。


 目の前にいる少女はその見た目とは裏腹に明らかな強者であった。己の初撃を防がれたのは二度目だ。もう誰にも負けはしないと息巻いたが、もしかすれば負けるかも知れないという考えもあった。王は己に悪態をつくかのようにエリシアに言った。

「お前ごときに……、お前ごときクソガキに……、国が取れるはずが無い!」

 エリシアはころころと笑った。

「ほほほほほほ……! 分からせてあげる。“砕けなさい”」

 ハルバードを摘まんだ指先が発光する。その瞬間、大きな音もせずにハルバードの先が砕け散った。だが王にとっては気にしている暇は無かった。すかさず右足を前に出す。皮、肉、骨の全てを潰すつもりで放った蹴りだ。


 風が吹いた。王の目の前にいたエリシアが煙のように消え失せた。だが王にはどこにいるか分かっている。エリシアの持つ圧倒的な圧力が嫌でも場所を認知させるのだ。王は後ろを振り向いた瞬間、高速でエリシアに飛びかかろうとした。だがまたしてもエリシアの姿が消えた。そして元の、円卓の机に上に舞い戻った。


「この国を取ってどうするつもりだ?」

 王は一旦攻撃を止めてエリシアに問うた。

「物にするのよ。あたしのね。この国だけじゃ無いよぉ……。ほほほほほ……、全部! 全部! 全部あたしの物にするの!」

 世迷い言、戯れ言、妄言、狂言! 何という現実離れした台詞。だがエリシアは言った。全てを物にすると。馬鹿馬鹿しかった。もう王には突っ込む気力さえ湧かなかった。湧いてきたのは殺意。早くこいつをどうにかしなければと言う考えだ。

 王は拳を握った。ハルバードなど無くても充分人は殺せる。もしエリシアが普通の少女なら指一本でも事足りるほどだ。


 王はエリシアの首を捉えるべく、足に力を込めて全力で床を蹴った。空気、音、景色の何もかもを置いてけぼりにするような速さだ。

 ――がしかし! 吹き飛んだのは王の方だ。王は横の壁に激突した。普通の壁ならまだしも、フルーティア特製の頑丈な壁では衝撃を逃がせず、その全てが王に牙を剥いた。

 そのままずるずると壁にもたれ掛かり、咳と同時に血を吐く。


 そして目の前にエリシアがたった。エリシアはあろう事か、王の額に足のつま先を置き、顔を王の顔に近づけて喋った。

「勝てまっしぇえええん! ほほほほほほほ! あたしはあなたより強いの! あなたがこれ位だとしたら――」

 エリシアは親指と人差し指で見えるか見えないかと言うほどの隙間を作った。そして次には両腕を明一杯広げて叫んだ。

「これっ……、っくらい強いの!」

「……ぺっ」

 王はエリシアの顔に向かって唾を吐いた。その瞬間、エリシアが腕を横に振るうと、暴風が吹いて王の姿がぶれた。王はまたしても違う方の壁に激突。エリシアはそこまで悠々とした足取りで歩いた。


「めっ! 中途半端に強い人は嫌い! 無駄にしぶといんだから!」

 エリシアは伏す王の髪の毛を引っ掴んで、顔を自分の方に向かせた。

「分からせてあげないと……。時間が掛かってでもね! あなたもあたしの物にしなきゃ、気が済まないのよ。ほほほほほほほほ!」

 エリシアはその小さい口をひん曲げて狂った笑みを浮かべた。誰も返事をしない部屋で一人、少女は高らかに笑った。


 その頃、城内の廊下を少女が少年の手をつないで走っていた。少年は十三か十四ほどの年で色は少し黒く、あどけないが凜とした顔をしている。少女は草や花で作ったであろう物を見に纏っており、南国に行ったことの無い人間が南国の少女を思い浮かべたような姿だ。

 少女は意外にも走るのが速く、手を引かれる少年は時々転びそうになりながらも少女に付いていった。少女は走りながら喋った。

「たぶんあなたのお父さんは勝てない。だから少しの間、この国を離れるの!」

「待ってよ! なんだよ! いきなり。逃げるたって……。こんな砂漠で護衛も無しにどうしろって言うのさぁ!?」

 少年は叫んだ。


 夜、いきなり大きな音がして目が覚めると、突然少女がやってきたのだ。そして自分を連れ出すと、「国から出ろ」と言った。少年にとっては訳が分からなかった。

「護衛なら一人いるわ」

「一人だけって……。無理だよ! 絶対! 付いてきてよ……、フルーティア。ねえ!」

 少年は目に涙を溜め、必死の形相でそう叫んだ。とにかく欲しかった。何でも良かった。頼る者がいなければならないのだ。飢えと渇き、凶暴な魔物が闊歩するこの砂漠を子供が歩けるはずが無い。だが国の守り神、フルーティアは少年に護衛一人で砂漠を歩けと言った。


 それが何を意味するのか。国家の存亡だ。砂漠全ての気を感じることができるフルーティアは侵入者の力を簡単に予測していた。元老院が潰れた時点でこの国の政力は著しく落ちる。そして王は侵入者の元へ急いだが、この様子では勝てる見込みが無い。即ち、王が替わる可能性が高い。この国でフルーティアと“もう一つ”以外で王に勝てる者はいない。つまり王が倒れてしまうとこの国は即座に乗っ取られるだろう。だから少年を国外へやろうとしているのだ。


「ごめんね……。あたしは“木”から遠い場所には行けないの。それに国を守らなきゃいけないし」

「――んなよ……。ふざけんなよ! 父さんなんかより弱い僕が……。行けるわけ無いじゃないか……」

 フルーティアは立ち止まった。振り向いて少年の両肩を掴むと、揺さぶった。

「いいえ、あなたは強い……。心配しないで」

 単純な台詞であった。しかし王より偉い神の台詞だ。例え簡単な言葉でも十分すぎるほど少年に効いた。根拠はないが、確かに効いたのだ。


 二人は走り出した。長い廊下を走って、駆け足で階段を降りる。長い螺旋状の階段を降りると、錆び付いた、開くかどうかも怪しいような扉の前にたどり着いた。

「この扉って……」

「そう。安置室よ」

 安置室。それは建国当初から存在する区間。事情を知るものも知らぬ者も扉に近づきもしない。王の許可なくここに立ち入ってはいけないのだ。それは王の息子すら例外ではない。近づこうとすれば、例え王の息子でも容赦なく兵は怒鳴るのだ。少年の記憶が蘇る。


「――坊、なりません! お父様から許可は得ましたか? でなければ立ち去って下さい! ささ、丁度昼食の時間でございます。あなた様は食べるのも勤めのうちでございます! お引き取りを!」

 やけに声の大きい兵であった。強面で言動の荒い兵だが第一に少年のことを思っていた。その兵に驚くくらい大きな声で怒鳴られたのだ。それほどまでに大事な部屋であった。


 その部屋の前に少年と少女は立っている。目の前に兵はいなく、気味の悪い赤錆の模様がそびえ立っていた。

 少女はお構いなしにその扉を開ける。砂埃が立ちこめ、少年は手を払う。程なくしてカビ臭さと妙な圧迫感で少年は気分を悪くした。

 目の前の暗闇の中に何かがいる。それは城塞のような、巨竜のような、兵の大軍のようなものに思えた。まるで重力が何倍にも増して己の体にのし掛かってくるような圧迫感。少年の背中に汗が垂れる。手足は震え、目は焦点が定まっていない。だがフルーティアは何でもないかのように無理矢理少年の手を引く。


「来て」

「ちょっ……、ちょちょちょちょ……!」

 少年の本能が拒否した。この部屋に入ることを。だが嫌でも足は進んでいく。左足が敷居の一歩前にきた。そして右足が敷居を跨いだ。

 フルーティアの少年を掴む手の力は強く、どうにもならない。少年はフルーティアに連れられるままに暗闇の部屋の中に立つしかなかった。


「ふぅ……、しかし暗いねぇ。それ!」

 フルーティアはおもむろに地面に手を付けた。そして気合いの一言と主に、あるはずの無い木をどこからともなく引っこ抜いた。

 少年は思わず目を覆った。突然現れた光に目が眩んだのだ。

 フルーティアは光る実の成った木を地面に突き刺した。

 実に荒唐無稽な光景だ。だがフルーティアはそれを日常茶飯事のように行う。それはもはや国の中では常識であった。それが“果実の神”たる所以だ。


 目が慣れた少年は手をどけた。目の前に何かがいた。


 それは座っていた。両手両足を投げ出して。分厚い鎧のような形をしているが中身は人間ではないと確信が持てる。その鎧の目の辺りの部分が赤く光った。

 それを見たフルーティアは鎧に向かって喋る。

「起動。保護対象はセト・サンマド。常時、保護対象に接近すること。今を持って命令権をセトに移行」

 鎧はいきなり立ち上がったかと思うと王の息子、セトに向かって歩いてくる。


「え、ちょ……。なななな……」

「もう一つの守り神、アラマン。これがあなたの側にいるわ」

 守り神、アラマンが一歩セトに近づくと、セトは一歩下がった。それを何回か繰り返すと、ついにセトは壁際まで下がりきってしまった。


「お父さんより強いよ! でも……これでも勝てっこなさそぉ……。だからこれと一緒に国を離れて! 北の森を越えるの」

「……そんな。誰一人、森に入って帰って来れなかったのに……」

「だから、これを持ってて!」

 フルーティアは首元の赤い宝石のネックレスを取るとセトに渡した。燃えるような赤の宝石だ。

「森はあなたに何もしないよ」

「……」


 ネックレスを受け取ったセトはそれを懐にしまった。フルーティアは続ける。

「ここに国があるように、北にも国があるの。たくさんね。そこであなたは“デューク”という人を探して。あの人ならきっと倒せるから……」

 伝説の人物、デューク。数年前に国王を負かして以来、国民の記憶にこびりついている人物だ。あの日、フルーティアもまた王が負ける瞬間を見たのであった。


 ――ほほほほほほほほほ……!


 フルーティアは顔色を変えた。そしてどこからともなく七色に輝く果実を取り出したかと思うと、少年に押しつけた。

「私の力! ちょっとだけだけど……。さっ、早く行って! アラマン! セトを連れて町を出て!」

 隣にいたアラマンがセトを担いだ。セトは悲鳴を上げて抵抗したが、腕ががっちりと締まっており抜け出せる見込みがない。アラマンはそのまま違う方の階段を上って、轟音を立てて何かを吹き飛ばした。

 それを見送ったフルーティアは後ろを振り返った。


 砂漠の国サンマド。風は強く、今は砂塵が舞っている。

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