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強者の苦悩  作者: 林葉
白の国
3/45

飢えた果実

 ――キョオオオォ、ケキョケキョケキョケキョ。

 ――ウオオオオオォン……。


 ……。

 …………。

 ………………。


 ついてないな……。

 境界線すら越えることが出来なかったとは……。


 もう少しで境界線だ、と思った程の位置で竜の群れに襲撃された。

 今まで自在に操れたのに、こう言うときに限ってあの馬鹿ワイバーンは言うことを聞かなかった。

 その結果、竜の吐いた炎弾に直撃。ワイバーンが焼け死ぬ中、私は下へ飛び降りたという訳だ。


 正直、境界線だけは越えたかった。

 この広大な森の中は凶悪な魔物達で溢れかえっている。少なくとも人間が居て良い場所ではない。

 この森では何が起こってもおかしくはない。三百六十度どこでも魔物が……うおっと!


 ――カシャッ! グワアキイィン!

 ――グオオオオオオオオォ!


 ……といった具合に襲いかかってくる。今のは斬り応えがあったな……。


 木々の僅かな隙間から太陽の光が漏れているが、「暗い」という言葉を変える程ではない。

 様々な生物の音、鳴き声が聞こえる。それはまるで私が入るのを拒むかのようであった。

 果たして森はこの部外者をどう始末するか。見物だな……。


 ……そろそろ休むか。

 指輪から荷物を呼び出す。


(……水)


 そのまま黒い球に入れた手を抜くと水が……。あれ?

 ん? いや、待て。そんな……。


 ……。


 買うのを忘れた。何てことだ。最悪だ。

 いや別に水がないからと言って、死ぬ訳ではないが……。

 浄化されていない、淀んだ汚い水を飲むと思うと気が滅入る。


 しかも水が無いと分かった時に限って喉が渇いてくる。

 もう休んでも仕方がない。前進しつつ水分を探すか。


 前進しながら左右に首を振る。


(果実無し、果実無し、果実有り……ああ、これは食えない奴だ。水……あっ、泥水か)


 果物を探しながら歩いていると、地面にパイナップルが埋もれているのが見えた。

 おお、丁度良いな。幾らか持って行くか。


 パイナップルの葉を掴んで引き抜く。

 うむ……、中々良い色だ。これは旨そ……。


 ――キシャアアアアアアアァ!


 うわっ!

 私は驚いてパイナップルを手放してしまった。


 ……何だこれ。パイナップルが噛みついて来るとは……。境界線恐るべし。

 だが私はそんなことで諦めたりはしない。


 剣を抜き、パイナップルもどきを刺す!


 ――キシャアアアアァァ……。


 ふっ、この私に刃向かうからだ。さて食べるか。


 ……。

 …………。


 苦い! 食えるか!

 パイナップルもどきを投げ捨てた。


 その投げ捨てたパイナップルを何者かが掠め取った。


 猿だ。


 その猿はパイナップルの皮を剥がす。馬鹿め、そのパイナップルは苦い。

 なに? 皮を食うだと……?


 旨そうに食っているな……。そうか、分かったぞ。あのパイナップルもどきの食べ方が。


 私は急いで二匹目を引っこ抜いた。

 それを地面に転がし、剣で突いてから皮を剥く。


 そうか、この猿は境界線に住んでいる。従ってそこの食べ物についても詳しい訳だ。

 食事は野生動物から学ぶべき、か。


 どれ、食ってみよう。


 ……。

 …………。


 苦い! 食えるか!

 パイナップルもどきの皮を投げ捨てた。


 もう信用しないぞ! 実に巫山戯ている! あの糞猿め! 殺してやる。


(――雷よ)


 紫電が猿を貫く!

 猿は木から落ちて動かなくなった。制裁は下された。


 この森のパイナップルは信用出来ないと言うことがよく分かった。勉強になった。


 ――ピーヒョロロロロ……。


 ん? 鳥か?

 鳥が目の前のパイナップルに着地した。

 コイツもパイナップルを食べるつもりか。馬鹿め、そのパイナップルは皮も苦い。


 何だ……? ああっ! そうか! 葉だ!。

 葉を食っているぞ。なるほど……。

 このパイナップルをよく見れば、普通のパイナップルと比べて葉が厚い。そして軟らかく、水分を含んでいる。


 答えはそこにあったのか。やはり野生動物に学ぶべきだな。

 どれ、食べてみよう


 ……。


 ……おお! なるほど!


 実に苦い! 食えるかこんな物!

 パイナップルもどきの葉を投げ捨てた。


 もう何もかもが苦い! もう絶対に食わん!


 だが少し喉が潤った。先を急ぐか。


 湿った土を踏んで歩く。

 状況によって土の匂いから受ける印象は違ってくる。


 農場の土なら、旨そうな野菜達の恵みの匂い。

 だがここは私にとっては戦場だ。血の臭いに近い。


 一切人の手が加わっていない、色の濃い野生。

 食うか食われるか……。弱肉強食!


 ん? 何か踏んだ……。

 私が地面の盛り上がっている部分を踏んだ瞬間、轟音が鳴り響く!


 ――ボコオオオオッ!


 でかい! 巨大ミミズか!


 ミミズの挨拶代わりの一撃を横に飛んで躱す。

 地面の土が跳ね上がる!

 

 ミミズは頭を上げ、後ろに引いた!


 ……酸か!


(――守りを固めよ!)


 私の周りを魔力のドームが覆う。

 少し遅れてミミズが酸をはき出す。


 だがっ! 効かないっ!

 ガード! 完全ガード!


 障壁を維持したままミミズに接近。

 ミミズの胴体を切断……。


 できない!

 弾力がありすぎる!


 ならば……。

(――氷よ)


 凍らして斬る!


 ミミズの攻撃!

 身体をぶん回し、私の脇を狙う!


 それを待っていた!

 即座に反応!


 氷の蹴りを放つッ!


 ――キイイインッ! ギチギチギチ……。


 ミミズの頭の少し下が凍っていく。

 そしてひるんだ隙に叩き斬る!


 ……。

 終わった。つまらない戦いだった……。



 境界線……、大陸の北南を分ける一つの線……。

 弱き者は超えることの出来ない、大自然の掟。


 何人もの冒険者がこの境界線を越えようとしたが帰ってきた者は一人もいなかった。

 森の向こうのユートピアに魅せられ、帰ることを拒んだのか。それとも環境の過酷さに耐えきれず土に還ったか……。

 その真相を確かめるのはこの私のみ……。


 この森を越えれば何があるのか。この先の砂漠に……いや、さらにその砂漠の向こうかも知れない。時間、運命、命を賭けたギャンブル……。


 むっ……。行き止まりか。

 目の前には巨大な岩が立ちはだかっている。

 上れないこともないが、面倒だし服が汚れる。迂回するか。


 歩いている内に様々な考えが私の脳裏をよぎった

 

 この未開の地を歩く感覚……。数々の罠、強敵。

 そうだ、この感覚……。これが冒険者というものだ。


 漠然とギルドの依頼を消化し、職員が勝手に定めたランクを上げるだけの凡人共とは違う。

 冒険者とは自由でなければいけない。

 そう! 冒険とは、死を恐れぬ者達の道楽ッ……!


 ……岩の角か。

 前は木々で塞がっているな。曲がるか……。


 ……ぬっ!


 ――ゴシャッ。

 ――ギョオオオオオオオォ……。


 キマイラか……。大した敵ではない。


 ギルドの中では、このキマイラを倒せるようになって一流パーティと言われる。私としては、一流を語るならキマイラくらい一人で倒して欲しいものだが。


 キマイラなど……、只のちょっと強い大型犬ではないか。


 ……泉か。

 やっと水にありつけるな。

 一応匂いを嗅いで異常がないか確かめる。

 

 ……ふむ。苦くない、旨い水だ。

 一休みしよう。


 泉の水で顔を洗った後出発した。


 狭い木々の通路を抜けると、そこには川が。

 ……やはり境界線は一筋縄ではいかないか。泳いで渡るのは嫌だ。迂回しよう。

 私は左を向いて進んだ。


 川に沿って歩くこと十分。

 何て高さの崖だ! 首が痛い。落ちたら痛そ……。


 ――クギャアアアアアアア!


「ふんっ!」


 ――カシャッ! ザンッ!

 ――クギャアアア……。


 右手には川。前に崖。

 こんな崖を登るつもりはない。登っても仕方がない。迂回だ……。


 この陰惨な森を早く抜けたい。

 指輪から取り出したパンをかじりながら進んでいく。


 うむ……不味い訳ではないが……。甘い物が食べたいな。


 おっ、あんな所にパイナッ……、もう騙されんぞ!

 しかも何者かが食べた形跡がある。この森の動物の味覚は狂っている。よく食えるな、あんな物が。


 放っておいて進むことにした。


「……行き止まりか」


 こんな狭い木の隙間を行けるはずがない。別の道を探そう。

 私は左に曲がることにした。


 ……。 

「でかい岩だ……」


 こんな岩がいくらでもある訳か……。これは登れない。違う所へ行こう。


 ふむ……、もう夕暮れか。

 おや、また泉だ。一旦休憩だ。


 この私が苦戦するとは……。この森、恐るべし。


 休憩を終え、出発して少しすると川があるのが見えた。

 服が濡れるのは嫌だな。


 川沿いにしばらく歩いて行くと高い崖があった。


「すごい崖だ……」

 

 登りたくもない。


 小腹が空いたな。おおっ、パイナップル……、食えないんだったな……。

 誰かが食っていたよう……、はっ!


 なんと言うことだ!

 これはさっき私が食べたパイナップルではないか!

 あの猿の死骸もある!


 ああ……。

 私はさっきから同じ場所をグルグルと……。しまった……。

 

 一旦泉に戻ろう!


 ……。

 …………。


 調べた結果、泉はパイナップル畑から南にある。つまり方角は合っている。


「木が邪魔だな」


 やはり狭い隙間を行かないと駄目か……。

 面倒だ。


 仕方がない。木に登って、木から木へ飛び移るか。


 ……それにしても長い木だな。

 登り続けて三分、やっと頂上にたどり着いた。


 おお……、樹海だな。

 見渡す限りの木々が広がっている。


 日は沈み、東から月が昇っている。

 私は南を目指し、ひたすら跳び続けた。最初からこうしていれば良かったのだ。


 途中、迫り来る鳥共を切り捨てながら南へ進んだ。

 ふむ、この調子ならすぐに砂漠に……。


 ――ガッサアァ!


 ぬうっ!

 何かに足が絡まり、私はそのまま下へ落ちていった。


 落下中に足に絡まった何かを剣で払う。

 

(――風よ)


 ゆっくりと地面に着地する。一体何事か?


 何か殺気を感じた! その場から飛び退く!


 ――シュッ……、ザクッ!


 槍が地面に突き刺さった?

 いや、どう見てもただの枝……。はっ!


 見上げると、目の前の木々が動き出しているではないか。

 ……夜行性か。


 ――ザワザワザワザワ、ズゾゾゾゾゾゾ……。


 森が一気に喧しくなった。


(――光よ!)


 私の身体の周りに光を発生させる。相手にするのは面倒だ。ひたすら走る!


 ――シュルシュル……。


 風切り音を頼りに躱す! 躱す!

 くそ……、木め……、燃やしてやろ……危ない!


 ――シュパッ!


 木の枝をひたすら払いながら走り続けた。


○○○○○○○○○○


 ――コンコン!


 扉をノックする音が木霊する。


「入れ」


 老人の声が重々しく響き渡る。

 ドアが開くと、そこには一人の男が立っている。


 部屋は薄暗く、蝋燭の光でようやく床が見える程だ。

 

 男は部屋に入り、中程まで歩くと跪いた。


 男の前には幾つもの椅子が横に並んでいる。

 そこに何人もの人が並んで座っている。


 その真ん中の椅子は一際大きく、そこに座っている老人は杖を持ち、跪いた男を見下している。


「この部屋に御座します幹部の皆様に報告いたします」

「……申せ」


「デュークの抹殺の命を受け三ヶ月前から……」

「結論を先に話すのだ」


「大変申し訳ございません……。結論は、奴を殺せませんでした」

「なぜだ……?」


 老人は静かに問うた。だがその顔は怒りに満ちあふれている。

 男は青ざめ、額から大粒の汗を流す。


 男にとって此程の恐怖は未体験であった。


 目の前の老人……いや、法王は自分たち国民にとっては神と同じ存在。本来、同じ部屋の空気を吸うことなど許されるはずもない。


 その存在を今怒らせてしまっている。

 恐怖で口が動かなくなる。だが喋らなければいけない。法王は理由を求めている。いや、理由を喋ることを許されているのだ。法王の許しには必ず応えなければいけない。


「や、やや奴の……、強さを……あああ甘く見ていました」


 男の額の汗が絨毯に落ちる。落ちた汗は染みを作り、そこだけ僅かに変色した。

 法王は杖を一度床に打ち付けた。


 ――トオオオン……。


 男が体を大きく震わせた。

 法王はその姿を見ても表情を変えない。ただ一直線に男を見ている。


「こちらを見よ」


 男は法王に従い、その顔を見た。


 無表情。

 その目は男の目を見ている。


 法王は左手をゆっくりと男の方へ向けた。


「もう良い。貴様は疲れているのだ。許そう……。全てを捨て、ジタ様の元に還ることを……、許そう……。還ることにより全ての罪、穢れが無くなり、さらなる高みを目指すことが出来るのだ」


 幹部の男達が口々に言う。


「心配する必要はない。我々にはこの世を浄化し、神に選ばれた種族達の楽園を作る使命が残っている。おやすみ……」


「おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみ」


 その言葉は流れるように、確かに響いた。

 法王の指先から黒い煙が出る。


 その煙は男の口の中に入った。


「おおお、おお許し……、ぐあぁ! がああああががが。ああ……あああああぁぁ……」


 男の身体が痙攣する。

 仰向けに倒れ、全身を滅茶苦茶に動かす。


 身体の内側を、胃を、腸を、心臓を、喉を、身体の全てを内側からえぐり取られる痛さ。

 男は床を転がり回った


「法王様……、ああああ! おおお、……おすおす、お救い……」


「おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみ」


 男はしきりに身体を動かしていたが、やがて動かなくなった。


「……床が汚れてしまった。ジタ様が見ている……。汚い物を見せてはならぬ。早く片付けよ……」


「はっ、直ちに」


 白装束に白い三角頭巾を被った者達が、男だった物に黒い布をかぶせて運び出す。

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