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強者の苦悩  作者: 林葉
黒き英雄
25/45

三連戦

 コンコン、とノックの音が鳴った。ノックした給仕は返事が聞こえないのもお構いなしに扉を開ける。目の前には給仕の主人であるデュークが椅子にもたれ、手を組んでいる。

 給仕は淡々とした足取りでデュークの前にたどり着くと一枚の紙を差し出した。

 その紙を受け取り、眺めたデュークは席を立つ。

「行ってらっしゃいませ」

 給仕の見送る声が寂しく響いた。


 その頃、黒剣専用の訓練所には三人がいる。

 隊長であるカトラスは冷たい土の上に座り、瞑想をしている。ガンドは一心不乱に吊り下げられた砂袋を叩き続け、シェリルは無表情で二人を眺めている。

 彼らは何時ものように黒の装備に身を包んでいる。砂袋を叩く小気味良い音が沈黙の間を保つ。訓練所は彼らしかいなく、閑散としている。

 

 訓練所の扉が開いた。三人は一瞬肩をびくつかせて入り口を見る。

「来てくれましたか、デュークさん」

 カトラスは口を開く。デュークは挨拶など一切せず、三人に向かって歩いてくる。

 カトラスの心臓の音は大きくなり、二人に聞こえるのでは無いかと思わせた。ガンドもシェリルも同様である。

 この間の酒場の一件で思い知らされた強者の威厳。それを再び目の前にして武人の血が騒ぎ出す。


 デュークを呼んだのはカトラスである。

 例の演説を見た時、ルーカスの後ろにいた人物が酒場の客と一致していたため、ルーカスにそれとなく尋ねたらデュークであると分かったのだ。

 酒場の一件で刃を交えること無く終わってしまった事に納得がいかなく、実力の差というものを明確に知りたいという理由で彼を呼んだ。

 ガンドとシェリルもそれには賛成している。デュークとはきちんとした形で優劣を決めなければ納得がいかなかった。

 ともかく、彼の強さが知りたかったのだ。


 デュークは三人の目の前に立った。そして口を開いた。

「手紙は読んだ。……誰からだ?」

「俺からだ! いいか? 二人とも」

 ガンドが二人に確認する。二人とも頷いた。デュークとガンドは無言で部屋の中央へ向かう。

 中央で互いに向き合った時、ガンドが話す。

「お前は強い! だがこの間のような無様な様は見せねえ! あわよくばお前を……狩る!」

「……いつでも良い」


 部屋の空気がぴんと張り詰める。静寂が辺りを支配し、この場にいる全員が微動だにしない。

 そしてガンドの籠手が赤く光り出し、紅蓮の炎を作り出す。そして深呼吸し、腰を深く落とす。それに対しデュークはただ立っているだけである。

 籠手の炎はだんだんと勢いを増し、まるで竜が激怒したかのようである。この全てを焼き焦がさんとする炎がガンドの目の内に映る。


 少しの間の静止。先に動いたのはガンド!

 気合いと共に前方に拳を突き出すと巨大な炎の塊が発射された。デューク一人を丸呑みするような炎が凄まじい速さで接近。部屋の隅で待機しているシェリルの額に汗が噴き出る。

 そして炎の塊の行く末も見ずに真上に跳躍し、両手で炎の塊を連射。

 巻き上がる砂塵、ほとばしる火柱。炎がデュークに当たる直前までは彼は動いていなかった。

 もしや、仕留めたのかとガンドは思った。だが砂塵でデュークの姿は分からない。ガンドはそれでも炎をぶつける。


 突如、ガンドの背中に強烈な衝撃が走る! その衝撃を感じた時すでに壁が目の前に迫っていた。派手な音を立てて壁が砕け、ガンドの体がめり込む。

 ガンドが起き上がり、体制を整える。目の前のデュークは剣を抜いていない。目には目を、格闘術には格闘術を、というつもりなのだろう。

 ガンドの目ではさっきのデュークの動きは全く見えなかった。もしこれが実戦なら今の一撃でガンドの体は飛散していただろう。


 ガンドはそんな考えは消し去り、構えを取ってデュークに接近する。

 高速でデュークの眼前に接近し、いきなりしゃがむ。不意を突いたと思ったガンドは、そこから強烈な突き上げを放つ。

 デュークの顎を捉えようとした拳。やはり虚空を叩く。

 ガンドは目を凝らす。目の前にデュークの姿は無い。有るとするなら己の背後。

 ガンドは振り向きざまに肘を振り回す。しかしそれも当たらない。肘が空回りした勢いを利用して今度は回し蹴り。


 側頭部を狙った回し蹴りはデュークの腕により防がれる。パシンと音を立ててガンドの脚が止まる。次の瞬間、デュークの脚がガンドの腹を捉えていた。

 吹き飛ばされるガンドの踵が地面を接触し、二本線を作る。そのまま後ろへ倒れ込み、何回か跳ね返って止まった。

 ガンドは苦悶の表情で立ち上がり、口から血を吐いた。内臓が損傷を受けている。視界はぐらぐらと揺れ、脚は震える。


 普通ならここで負けを認めても良い。ガンドは十分すぎると言って良いほど闘った。しかし――。

「ま……、まだ!」

 倒れそうになったところに一歩足を踏み出して留まる。そして前を睨む。

 今度はデュークの方から攻めてきた。


 デュークはゆっくりと確かめるように土を踏み、ガンドに近づく。ガンドは構えを取り、無理矢理にでも足を動かす。

 ふっ、とデュークの姿が消える。ガンドが己の目を疑っていると、デュークが突然目の前に現れる。


 縮地。相手との距離を縮めてしまったかのように高速移動する術。武闘家達が夢見る最高の技術。全身を覆うローブで体捌きはまるで分からないが、生半可な修行では為し得ない技であるというのは十分理解できる。


 今の神業にガンドは目を見張る。しかしそんな間にデュークは攻撃を放とうとしていた。

 一発目は軽く頬に当たった。明らかな手加減。しかし攻撃が当たるまでは拳が視認できなかった。

 ガンドは気を引き締め、目を細める。デュークは構えを見せる。それは殴るための普通の構えであった。

 突然、左肩に衝撃が襲った。だがさっきの手加減の一撃とは違う。肩の骨が鈍い音を立てて歪む。ガンドの顔も苦痛に歪む。


 やはり全く見えなかった。ガンドは悔しさを顔に滲ませる。相手は明らかな強者。絶対的強者。勝てないのは分かっている。しかし、せめて一発くらいは避けて見せたい。


 ガンドは精神を研ぎ澄ませる。攻撃を見るのでは無く、感じるのだ。どこに攻撃が飛んでくるかでは無く、攻撃と攻撃の間を読む。頬を打った時と肩を打った時の間の時間。それを思い出し、次の攻撃が来るまでの時間を予測。ここぞ、と言うところで大きく横に飛ぶ。


 しかしデュークは攻撃しなかった。もう止まっている時間は無い。ガンドはデュークの頭を狙って全力で殴る。

 その瞬間デュークの頭が消える。また後ろを取ったかとガンドは思ったが、違う! しゃがんだだけだと気付いた時には、デュークの拳はガンドの顎を捉えていた。


 ガンドの体は紙切れのように宙を舞う。やがて上昇する力を失った体は下へと向きを変え、ゆっくりだと錯覚させるように落ちていった。

 ドサッと鈍い音が鳴る。それはガンドとの試合が終了した合図であった。仰向けに倒れたまま動かないガンドにカトラスが近づく。無言でガンドを部屋の隅へ運び、そのまま寝かせた。


 そして二人目は――。

「私が行きます。よろしいですね」

 カトラスは首を縦に振る。シェリルは杖を手に持ち、部屋の中央へ向かう。

 シェリルとデュークの距離は随分と開いており、明らかに遠距離攻撃が主体だと言える。デュークは相変わらず立っているだけであった。

 二人の間を冷たい風が吹く。今この部屋は閉め切っており風が吹く要素など無い。その風の発生源は間違いなくシェリルにある。


 火蓋を切ったのはシェリル。杖を前に突き出すと水色の閃光がデュークを襲う。デュークは落ち着いて横へ跳躍すると、さっきまで足下だった場所は氷の塊が鎮座していた。

 シェリルは全く気にせず、再び氷の閃光を撃つ。しかしデュークに当たることは無い。その上、氷の閃光は不発し、地面を水色で光らせるだけであった。

 だが今の何撃かでデュークの避ける方向を予測できるようになった。


 シェリルはあえてデュークの左側に撃つ。けれどもデュークは動かなかったので当たらなかった。

 そのまま左から右に向かって氷の閃光を連射するとデュークは最小限の動きで少しずつ右に避けていった。

 氷の閃光は今まで一度も当たっていない。それどころか掠ってもいない。だがシェリルの表情は暗くは無かった。シェリルはほんの少しだけ口角を上げる。


 さっき閃光が不発して地面を水色に光らせた場所、そこにデュークが到達すると、杖を横に一閃する。

 すると水色の光っていた地面から勢いよく氷がせり上がる。そう、これがシェリルの戦略。

 相手は自分の攻撃を避けて弄んでいる。ならば弄んでいることを利用すれば良い。


 しめた、とシェリルは思った。しかし――。

 さっきのガンドの時と同じようにデュークの姿が消え失せる。その刹那、とんでもない寒気を感じ、全力で目の前に氷の壁を作り出した。


 ガラスが割れるような音がした。シェリルは思わず目を瞑り、再び開ける。そして目を見開いた。

 デュークの拳が己の腹の寸前で止まっている。氷の壁にデュークの腕が貫通しており、少しでも壁を作るのが遅かったら終わっていただろうと感じた。

 だが、これがデュークの本気の一撃とは微塵も思っていない。明らかに気を抜いている。やはり弄んでいるのだ。


 勢いよく後ろに飛び、デュークから距離を取る。デュークは腕を引っ込めると氷の壁は粉々に砕け、破片が宙を舞い、溶けていった。


 駄目。何もかもがデュークに通用しない。ではどうすれば攻撃を当てられるのか。反撃で当てるか。いや、それは愚策。今の自分にデュークの攻撃は見切れない。攻撃の軌道、動作の起こり、速さ、全てがまるで見えない。

 ならば攻撃の手を休めてはいけない。攻撃を絶え間なく続けて、相手の失敗を待つほかに無い。それに攻撃を続けていれば偶然でも当たる時がある。それがシェリルの考え出した答え。


 シェリルは杖を振る。すると目の前に大量の氷の塊、雹だ。林檎ほどの大きさの雹が二百、いや三百ほどある。そして杖をもう一度振るとそれらが一斉にデュークに向かって飛来する。

 シェリルは即座に次の攻撃に入る。杖を前に突き出し、さっきと同じように氷の閃光を放つ。だが今までのデュークを狙ったものとは違い、まるで当てる気の無いような攻撃。


 それで良いとシェリルは思った。攻撃を正確に当てようとするから避けられてしまう。正確な攻撃はそれだけ予測も簡単。逆にどこに飛んでも良いような曖昧な攻撃は予測しづらい。

 正確に放つ攻撃と曖昧に放つ攻撃を使い分け、デュークを錯乱させるつもりだ。だがそれも通用しなかった。


 放たれた雹がデュークの眼前に迫った時、強烈な突風が吹く。その衝撃で雹は吹き飛ばされ、標的をシェリルへと変える。もちろんシェリルも勢いよく吹き飛ばされ、後ろの壁に叩きつけられる。

 シェリルの背中に強い衝撃が加わり、息が詰まる。さらに悪いことに、さっき放った雹がもう己の眼前にまで迫っていた。

 もはや追撃する暇も無かった。己の放った雹が全身を打ち付ける。雹が当たるたびに体が揺れ、避けることもかなわない。


 絶え間なく続く堅い衝撃で瞼の上は切れ、頬には痣が付き、脚は砕ける。瞼の上の血は頬を伝い、顎に溜まって水滴として落ちた。それはまるで血の涙を流す女のようであった。

 ぐらぐらと揺れるシェリルの視界の中でデュークはゆっくりと歩いてくる。息絶え絶えのシェリルは力を振り絞り、口を開いた。

「ま……、負けです……。貴方には……敵いません」


 この試合を見たカトラスの心拍は絶頂を迎えていた。心臓はまるで誰かに握りしめられたかのように力強く鼓動している。全身の血が沸き立ち、筋肉は熱くなる。

 圧倒的な強さ。かすり傷一つ付けられないのか。もはや神の域と言える動作速度、そして筋力、戦術。デュークに小細工は一切通用せず、全ての事象を力で叩き潰すだろう。


 もしかしたらこれが真の闘争かも知れない。闘争とは単純な力比べ。そこに小手先の技術は無く、技の読み合いも無く、高尚な考えも無い。野生の力がどこまで上回っているかと言う事、ただそれだけ。


 カトラスは一歩一歩確かめるように地面の土を踏む。デュークはもうすでに部屋の中央で待機している。それでも歩調を速めることは無く、まるで待たせるかのようにゆっくりと歩く。歩く途中で呼吸を整え、全身の気を循環させる。

 そして両者が対峙した時――。


「なぜ貴方は強いのですか?」

 純粋な疑問。黒剣の隊長でも貴族でも無く、只一人の武人としての素朴な疑問。

 デュークは呟くように答えた。

「……強いからだ」

 カトラスは唾をごくりと飲み、その言葉を反芻する。

 強いから強い。まるで神々の問答のような発言。デュークは“強い”という概念、事象そのものであり、それ以外に無いのだろう。

 強いという自信を持つことでさらに強くなれるというのが、デュークの台詞に対するカトラスの見解であった。


 カトラスは濃密な殺気を放つ。デュークもそれに応えて殺気を放つ。両者の殺気は混ざり合い、渦を巻いてこの部屋を支配する。

 カトラスは腰を低くして抜剣の構えを見せる。剣から真っ黒な霧が漏れ出してカトラスの体を包み込む。その霧は暴風のようにカトラスを取り巻く。

 カトラスとデュークの距離はシェリルの時と同じように離れている。カトラスはそこから抜剣術を放とうとしているのだ。


 そして瞬間的な速さでカトラスが抜剣する。そのとき暴風のように渦巻いていた霧は急に形を変え、巨大な鉈の刃に変形する。

 その鉈の刃はカトラスが距離を詰めなくとも十分デュークに届くほどの長さだ。


 刹那の斬撃がデュークの胴を分断しようとする。だがこの一撃でデュークはやられるはずも無く――。

 キンッと甲高い音が鳴った。デュークの抜きかけの剣に火花が走り、闇の霧は飛散する。


 デュークは再び剣を納めた。そしてカトラスと同じように抜剣の姿勢を取る。

 カトラスの背中にぞくりとした感覚が走る。この間の酒場で体験したような明確な殺気がカトラスを襲った。

 二人の試合ではデュークは剣を抜かなかった。デュークが剣を抜くと言うことは、少なくとも自分にとっては死ぬかも知れないような脅威。


 カトラスはささくれ立った心を静めるために己と向き合う。

 今の自分はどうだ? 緊張している、恐れている、けれども期待もある。否、どれも必要ない。必要なのは無心。

 息を吸う、吐く、吸う、吐く。足を少しだけ動かす、手の位置も少し調整する。心臓が熱くなる、手足がしびれるような感覚。

 ――今。


 カトラスの心は自分でも驚くほどに静まりかえった。あるのは自分の呼吸の音だけ。今見聞きしている全ての事象を如実に捉え、全てを処理する。その過程で雑念というものは、その処理能力を著しく下げる。


「はっ……!」

 一瞬、一瞬だがデュークの動作の起こりが見えた。横薙ぎの一閃、これに間違いない。カトラスは瞬時に避け方と、その次の攻撃方法を組み立てる。そして計算の結果――。


 耳に突き刺さるような高い音が響き渡る。デュークの目の前の敵、カトラスの姿は無い。その延長線上の壁には大きな傷が付いていた。

 カトラスは空中高く飛び上がり、足下の霧を硬化させて思い切り蹴った。前に突き出した剣に沿うように霧が纏い、一つの生き物のようにデュークの胸を突き刺そうとする。

 しかし、その剣の軌道はデュークの一撃で逸らされる。カトラスがデュークの横へ着地した瞬間、デュークの縦一閃が放たれる。

 だがカトラスも強者。すんでの所で、片膝をついてデュークの攻撃を剣で防ぐ。

 剣がギチギチと音を立て、時折火花を散らせながら両者とも鍔迫り合い。両者とも一向に引こうとはせず、ひたすら押し合う。


 カトラスは剣の先に片手を添えて踏ん張る。頑丈な籠手は剣の刃に当てても切れることは無い。

 両手で剣を受けるカトラスに対し、デュークは片手で押していく。

 カトラスの眉間に皺が寄り、腕の血管は浮き出る。つかの間であった力の均衡は崩れ始め、カトラスの手はだんだんと手前へ下がっていった。押し返そうにも全く動かない。まるで剣の上に山でも乗ったかのような幻覚を感じる。


 だがこのまま潰されるカトラスでは無い。カトラスはデュークの力の向きを考え、何とか横へ逸らそうと、剣を斜めにしようとする。

 カトラスの力の向きが変わったことを感じたデュークは一旦後ろへ下がる。カトラスはすかさず立ち上がり体制を整える。


 剣を真っ直ぐに構え、デュークを睨む。そして瞬時に間を詰め、剣を振り上げる。

 デュークの脳天を半分に割るような斬撃。しかし剣の軌道は突然変化し、デュークの脇腹を狙った一撃へ変わった。

 これも弾かれる。しかも只弾いた訳では無い。カトラスの振り下ろしに対しては全く動いていなかったのだ。カトラスの剣が軌道を変えた瞬間すでに脇腹の防御に入っていた。つまりデュークはカトラスの動きを完璧に見切っているのだった。


 何度も、何度もデュークに斬撃を浴びせるがその全てが完璧な位置で弾かれる。デュークの剣にカトラスの剣が当たるたびにカトラスの腕に衝撃が走る。


「く……、なんて……」

 思わず弱音を吐く。自分の全ての攻撃が通用しない相手の対処法をカトラスは知らない。もはや城塞に向かって剣を振り下ろしているのと同じ。どこを斬っても弾かれる。


 カトラスはもう一度距離を取る。そして騎士の礼のような構えを取った。するとカトラスの体が真っ黒に染まる。

 カトラスが少し体を動かすと、直前に体があった場所にカトラスの影が浮き上がる。影による分身だ。


 カトラスは体を大きく揺らし、デュークの周りを囲むように回る。何十にも重なった影は一人二人と増え、だんだんと本物と見分けが付かなくなる。カトラスは全く同じ軌道を回っているため、本体がどの影に該当するかは分からない。

 その瞬間、デュークは後ろを振り向き、頭上の斬撃を防ぐ。一回攻撃したカトラスは再び影の円に戻り、ぐるぐると回り出す。デュークがおもむろに横に剣を突き出すと、カトラスの突きがあらぬ方向に逸れる。カトラスはまた円に戻った。


 その攻撃はだんだんと容赦が無くなり、ついには円に入ったまま飛ぶ斬撃を放つようになる。だがデュークもその全てを正確にたたき落としていった。

 そしてデュークは動き出す。


「ふっ!」

 気合いと共にある方向へ突きを放つ。カトラスはその突きをぎりぎり防いだ。しかし強烈な衝撃波により、後ろに吹き飛び、ごろごろと転げる。カトラスが吹き飛ばされたと同時にデュークの周りにいた影は消え失せた。

 そして立ち上がろうとしたカトラスの喉元にデュークの剣先があった。


 攻撃をするにしても防ぐにしても不適切な姿勢でデュークのとどめを回避することは出来ない。

「ま、負けだ……。未熟だった……」

 カトラスは負けを宣言した。


 座ったまま息を整えるカトラスを放ってデュークは部屋を出ようとする。そんなデュークをカトラスは黙って見送るしか無かった。

 試合には負けた。だがカトラスの心はどこか晴れていた。

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