始動
シャドウは私が認める数少ない実力者だ。
何せ情報が早い。大陸の各地に優秀な部下を潜り込ませているからだ。各国の上層部、騎士団、一般市民の中に彼の部下は居る。その情報網は強力で、ちょっと名が知れただけで部下にマークされる。彼さえ味方に付けておけば怖い物は無いだろう。
それにただ情報を話すだけと言う訳ではない。彼の膨大な知識を使って、問題に対して予測を立て、依頼者にアドバイスする。裏稼業の人間としては珍しく、サービス精神がある。
特に私に関する情報は瞬時に伝わるように手配しているだろう。つまり彼はいつでも私の居場所を把握していると言うことになる。
だが私は心配しない。彼との一定の信頼関係があるからだ。
定期的に情報守秘料として多額の金を彼に渡している。そのため、幾ら金を積まれても私のことは喋らない。隠し味程度に脅してはいるが。
勿論、強いのは情報だけではない。魔法に関してもかなり詳しく、情報の伝達も特殊な魔法を使っているという。情報が早いのはそのためだろう。
さて、私の方でも情報収集をするためにギルドへ向かうとするか。
大通りを少しあること噴水広場にたどり着く。
広場にある一際大きい建物、田舎者が王城と勘違いしそうな建物が冒険者ギルドである。
大陸の冒険者ギルドの本部と言って良いだろう。
ルクレシアが今まで安泰に過ごしてこられたのは本部があるからだ。
一応条約では「冒険者ギルドは戦争に関与しない」と言う文があるが、実際に戦争になれば守られるはずがない。
剣と盾が描かれた扉を開けると喧騒が私を迎えた。
だが私が一歩、中に入ると一気に静まりかえった。
いつものことだ。名を知られすぎた者の宿命か。
――ヒソヒソ、ヒソヒソヒソ。
「見ろよ、阿修羅の化身だ」
「おい! 目を合わせるんじゃねぇ。殺されるぞ」
「ああ……戦ってみたい戦ってみたい戦ってみたい戦って……」
「ちょっ! やめとけ! お前でも無理だ」
……とりあえず今日張り出された依頼を確認する。
薬草採取や近隣のゴブリンの討伐、隣町までの護衛など、特に珍しくもない依頼ばかりだった。
そういえばグルトでの依頼は名指しだったな。あのときはここにいたから……。
「ああ、君」
「は、はい。なな何でしょうか?」
「ギルド長は居るか?」
「はい、いらっしゃいます!」
あの爺は今日は居るらしい。
階段で三階まで上がる。
長い廊下を歩いて、大きな扉を開ける。脇にいる警備員は何も言わない。
扉を開けると髭まで白い、白髪の爺が執務机の席に座っている。
黒檀で作られた、なかなかの机だ。趣味が良いな。私も欲しい。
爺は私に目で挨拶したが、まだ喋らない。
私は手前のソファーに座る。
ほんのりと牛革の匂いが漂う。
私が座ったのに合わせて秘書が茶を入れる。
「デュークさん、元気そうですな」
「……お前こそな」
全く、今更何を言うか。
まだ私が駆け出しだった頃は偉そうに喋っていた癖に今ではすっかり縮こまってしまったようだ。
年月は人を変える、か。
「いやはや、毎回貴方が来るときは禄でもないことが起こるものです。今度はどんな厄介ごとを?」
「文句を言われる筋合いはない。文句を言いたいのは私の方だ……」
茶を一口飲む。口がすっきりした。
「あの依頼、何故私に来た?」
「あの依頼とは?」
「フィレットの鉱山で魔物が出ただろ」
「ああ! ありましたねぇ、そう言うの」
一度頭を叩いてやろうか。
「依頼者の事前報告では岩竜は三匹だったそうだな。あの程度なら二級の冒険者を集めればなんとかなる」
「それがどうしたのですか?」
「わざわざルクレシアにいる私に依頼が来ただろ。しかも指名で」
「こほん。君、ちょっと席を……」
爺が秘書に声を掛けると秘書は部屋から出て行った。
「私もねぇ、おかしいと思ったのですよ。不自然ですからねぇ。確かにあの程度なら貴方が行かなくとも何とかなったと思います。それにコストも掛かりますからね」
……最後の一言は余計だ。
「ですからこう言ったんですよ」
「彼は要求する報酬が少々高いですよ? それにギルドの支部はグルトにもありますし、上級の冒険者だって何人かそちらに滞在しています。どうして?」
「それでは駄目なのだ。これ以上、鉱山に入れないという状況が続けば、今後の経営に影響が出る。早急に確実に排除しないと行けないのだ」
「ですから……、岩竜三匹程度でしょう? 彼を動かすには勿体なさ過ぎです。彼を使うとなれば、それこそ今後の経営に影響が出るのでは?」
「とにかく! 彼でないと駄目だ! 君は黙ってこの指名依頼を受理すればよかろうが!」
「と、まあこんな次第でして……。色々とおかしいと思って私も受理しなかったのですがね。これは一ヶ月前の話です。」
人の依頼を勝手に握りつぶすとは……。この糞爺。まぁ普通ならこんな依頼は蹴るのだが、報酬が高かったからな。
「そう言うことはキチンと私に報告してくれないと困る」
「その時、貴方ルクレシアに居なかったじゃないですか」
「あのときは……、例の邪神討伐の件でゾークへ報告へ行ってたのだ」
「ああ! そうでしたねぇ。で、あれ結局どうなったのですか」
「……首だけにしたから当分は活動出来ないだろう」
「完全には?」
「……逃げ足だけは一人前だったのだよ」
一々うるさい爺だ。
結局有力な情報は何一つ得られなかった。だいぶ耄碌しているな、アイツは。
まぁ焦る必要はないか。まだ敵が本格的に動いてないと見た。わざわざ敵陣に飛び込まなくとも待っていれば自然と向こうから正体を見せてくれるだろう。
まずはシャドウの情報を待つか。話はそれからだ。
とりあえず行きつけの店で一杯やる事にした。
○○○○○○○○○○
日が沈み、辺りは暗くなる。店員は外へ出て入り口の松明に火を付ける。
大通りは仕事帰りの農夫、騎士団、冒険者で賑わい始めた。
窓から漏れる明かりが町を幻想的にした。
そして夕食も終わり、することが無くなった民は明日へ向けて睡眠をするのであった。
噴水広場のルクレシア美術館はまだ改装したばかりで床に輝きがあった。
夜間警備員達が広い美術館を交代で巡回する。
古今東西のあらゆる美術品を集めたこの場所は盗賊達にとって、とても“熱い”場所である。
だからこそ国は警備兵を増員し、騎士団員もそれに加えたのだ。
各部屋に何人もの警備兵が配置され、一分の隙もない。
まだ改装したばかりで皆気が立っているのだ。盗賊達はしばらく静観することにしたのだった。
ちなみにまだ改装は完全に終わった訳ではない。老朽化の激しい部分が残されている区域がある。
真っ暗な美術館の庭に何人もの人影が。
黒い三角頭巾を被り、武器を手にしている。
皆一様に頷きあっている。
その内の一人が外壁の木造の部分に近づく。
――チュインッ!
少しだけ火花が飛び散り、人が通れる程の四角い穴が空く。
その穴から続々と頭巾達が入ってくる。
その足取りに迷いはない。
それぞれがあらかじめ決められた区間を探索するようだ。
頭巾の一人が廊下を走る。
だが突然止まる。
徐に天井まで飛び上がる。脅威の身体能力だ。
天井付近で手足を伸ばし、四方の壁で己の身体を支えた。
話し声が聞こえる。
「――でさぁ、あいつがなぁ」
「はっはっはっは! まじかよ。そりゃ大目玉だぜ」
「結局、一人で始末書書いてた」
「ざまぁ、はっはっはっは」
警備兵だ。
その話し声は頭巾の下を通り過ぎた。
頭巾の口が少し動いた。何かを詠唱したようだ。
だがそれに気付く者は居ない。
頭巾は静かに飛び降りて警備兵の背後に接近!
――スッ。
――ヒュンッ。
そのまま警備兵に背を向けて走り出した。
「ん? なんだいまの」
「さぁ、気のせい、ががが、あがががが、あああああ」
「おい! どうしちま……あああががががががああ!」
――ブッシュウンッ!
白い床に奇妙な赤色の模様が描かれた。
ある部屋は図書室である。
警備兵だった物が床に転がっているのを全く気にせずに部屋を調べ回る頭巾が居る。
頭巾は本の表紙を見ては床に投げ捨てている。
無造作に放り投げているにもかかわらず、不自然な程に音がしない。
頭巾は奥の扉に目を向ける。錆びた錠前が付けられた扉だ。
その錠前を掴み、一気に引きちぎる。
扉を蹴り破ると、そこにはまた本が。
いや、タダの本ではない。
本自体から魔力が感じられる。つまり魔導書だ。
頭巾は袋を広げ、魔導書を無造作に詰め込んでいった。
○○○○○○○○○○
あれから二日経った。もうそろそろ頃合いかと思いシャドウの元へ向かう。
「待ってたぜ、旦那」
シャドウは何やら怪しげな猫を撫でながら私を迎えた。
「それ……」
「グイールだよ」
「……まだ生きていたのか」
「まだ十五年しか生きてねぇ」
「……」
「……間違いない。ベトルはジタ教国の者だぜ」
「……続きを」
「ベトルの召使いとして張り込ませてる奴から聞いた。ジタ教国の司祭と密かに接触していたそうだ。その時の会話から『デューク』という単語を確実に聞いたらしい」
今年は運が悪いらしい。
「それと、この間強盗事件があっただろ? 思い当たる所に張り込ませたんだが、ゾーク王国の関所を、魔導書を積んだ馬車が通過したようだ。部下がそれとなく探った所、魔導書にしてはやけに魔力が多いとのことだ」
動き出しているな。
「これは俺の予想だけどな。あの魔導書、恐らく召喚に使うぜ。これ見ろよ」
シャドウは懐から水晶玉を取り出した。それをテーブルの上に転がす。
それを受け取って観察した。
ひびが入っているな。
「等級は?」
「二級だ。だが普通の魔導書ならひびが入るなんてまずありえねえ。こいつぁ相当なモンだぜ。此程の物なら召喚に使うと考えるのが普通ってもんだろ」
一体何を召喚するつもりなのだ?
「しかもそこらにいるような精霊じゃねえぞ。もっと上位の、それこそ神話に出てくるような奴らを召喚する気だぜ」
「……正気じゃないな」
「ああ! 正気じゃねえさ! ジタ教国だぞ。それくらいのこと笑いながらやるさ。ジタ様ばんざあああいって言いながらな」
だが魔導書だけでそんな存在を召喚出来るのか? 魔力がどれだけ必要だ?
「なぁ……旦那も薄々気付いてるんじゃねえのか? 召喚に生け贄が必要だって事をよう……。もう読めただろ」
ジタ教国のトップを“殺る”しかないな。いや、国ごとか。
「降りかかる火の粉は全力で振るうまでさ。やり過ぎなくらいな……」
「面白くなってきたじゃねえか。どうやるのさ」
「……国ごと葬る」
「手筈は整ってるのかい?」
「今から考えるさ」
「言っておくが、生半可なやり方じゃあ潰されるぞ。敵はいくらでも沸いて出てくるだろうよ。向こうの人口は百万人程だと聞いて居るぞ。仮に法王を始末したとしても、第二第三の法王が出てくるだろう」
百万……。仮に四分の一が兵だったとして、二十五万か。
軍をけしかけるか? いや難しい。
フィレットやルクレシアをその気にさせたとして、必ず反発するのがゾークだ。
さらにジタはフィレットの北西に位置している。ゾークとジタが圧力を掛ける場合、真っ先に人質になるのがフィレット。
フィレットは大陸に出回る食料の多くを産出している。フィレットを取られると兵の力、士気に大きく影響する。
殺した男の件もあって、ジタのフィレットに対する浸食は既に始まっていると予想出来るな。
フィレットが取られると拙い。ルクレシアが孤立する。その周りの小国も吸収されるとさらに拙い。
どう手を打つべきか……。
「旦那、ジタの兵を知ってるかい?」
「……なんだ?」
「奴らは皆、神術を使える。宗教国家だからな、そこらの国の兵とは比べものにならないぞ」
確かに。数こそ少ないが、死を恐れぬ兵は何よりも手強い。おまけに神術。信仰力を使い、神の力を借りる術は普通の魔法と比べて強力だ。これに対抗するのは難しい。
ゾークの目もあるからおおっぴらには動けない……。小国の協力も期待出来ないしな。
ああ……、他所へ行ってしまいたい。皆が知らないような他所へ……。
ん? 他所?
……ッ!
「ん? どうしたんだい? 旦那ぁ。いきなり立ち上がって」
「そうだ! 未開拓地域へ行く!」
「なんだってえええ!」
未開拓地域……。アルセール大陸の南半分の地域。
普段我々が住んでいるのは北半分。
南は凶暴なモンスター、異種族達で溢れかえっているという……。
そして両者は今日まで関わることなく過ごしてきた。
だが文明的な生活をしている生物も居るはず!
数は分からないが、この大陸は広大だ。成功すればそれなりの数は確保出来るだろう。
「やめとけやめとけ! 自殺行為だぜ! 幾らアンタでも……」
「……じゃあそれ以外に思いつく手はあるのか?」
「いや……、それは……。まあそうだけど」
「私が居ない間、お前に何らかの危機が迫ったら『狂蛇のカマ』に連絡しろ。私の名前を出せばすぐに協力してくれる」
「えええ……、アイツ変態じゃん……」
「……強さは保証する」
「……分かったよ」
シャドウと別れた後、早速準備に取りかかった。
一番最初に直面するのは……言葉だ。
私は本屋へ向かった。
本屋の奥の一角、主に絵本が売られている場所だ。
勇者、神話、悪魔に関係する絵本を買いそろえた。
原住民に説明しやすいだろう。
次に中央金庫へ向かう。
「……私の金庫の確認を」
「かしこまりました」
明かりの付いた受付とは違って、地下の金庫迷路は薄暗い。
数ある金庫の中でも最も信頼の出来る金庫だ。特別な料金を支払って、私だけの担当者を用意して管理させている。ちょっとした遊びで資産運用もやっている。
次の角を曲がった扉を開けると少し違う場所に出た。
石造りの床と違う。大理石だ。
ここから先は全て私専用の区間だ。
シャドウに自慢したら、「俺の仮眠室にしてやるよ」と言われた。
幾つもの財産が、複数の金庫に小分けにされている。勿論それぞれ鍵が違う。
職員から分厚い鍵束を受け取ったので金庫を開けることにした。
これもタダの金庫ではない。もう大きさからして違う。
掘っ立て小屋ほどの大きさがある。
さて、一つ目は中身全てが十万ルピー札だ。とりあえず半分程外に出しておく。数えるのは面倒だからしない。
札束を無造作に引っ掴んで外に置いておく。
二つ目は道具が入った金庫だ。
指輪を二つ取り出した。大粒の紫色の宝石を使った指輪だ。
一つは自分の右手薬指にはめる。
そして指輪の宝石を左手で突くと真っ黒な球が目の前に現れた。
私は置いた札束を掴み、その手を球に突っ込む。
球から手を出したときには札束はなくなっている。
収納したのだ。
何を隠そう、この指輪、高位の悪魔を召喚して作らせた物だ。服従させるには随分と苦労したが……。
三つ目の金庫はありとあらゆる美術品が入っている。
金色の王冠、真珠のネックレスは勿論、百年に一度しかできないと言われている虹色の真珠まで持って行くつもりだ。原住民の取り込みにはやはり贈り物が重要だろう。
○○○○○○○○○○
「相変わらず、クレイジーな奴だぜえええ! ぎゃははははは」
ルクレシアの影の王『シャドウ』は部下が見ているにも関わらず手を叩いて笑い転げている。
「ボス、本当に大丈夫ですかい?」
「心配すんじゃねえ、あいつは最強の冒険者だぞ。寧ろ、これくらいのこと言ってくれねえとこっちの調子が狂うってもんさ」
さっきまで呆れていた癖に、と思う部下であった。
シャドウは徐に壺のような物を取り出し、それに話しかけた。
部下は別に驚くようなそぶりを見せない。いつものことだからだ。
「聞こえるか? レイラ。……今すぐ来い」
話を終えたシャドウは満便の笑みでワインを飲み始めた。
○○○○○○○○○○
「ちょっと話しておきたいことがある」
「どうしたのですか? デュークさん」
「少しの間活動は休止する。指名依頼があるのなら全部キャンセルだ」
「ほほう、これまた……、貴方の言う、“少しの間”が私にはまだ分かりませんねぇ。この前は三ヶ月で、またその前は一年でしたよ?」
「……私が良いと言うまでだ」
ええい、いちいち煩わしい……。
「いいですか? 貴方が何をするかは私には関係ありませんが、死なれては困るんですよ?」
「……年寄りは皆、どうでもいいことを言う癖があるのだな」
もうギルド辞めようかな……。
ギルド長と別れた後、一階で地図を確認した。
ふむ……、『境界線』超えてすぐ砂漠地帯か。水を買っておくか。
もし未開拓地域に良い町があればそこに住もう。その時はジタなんとかは忘れよう。
そこで一国の王になるのも悪くはないな。
私は一旦サンセット町にある拠点に戻り、使用人達に休暇を与えた。
「訳あって、しばらく空ける。まとまった給料をやるから実家にでも帰るんだな」
「いいのですか? ありがとうございます!」
庶民が持つには明らかに多い金額を渡す。
王族の召使いの経験もある優秀な者達だ。そのお陰で私の拠点は常に新居と同じ状態。余り帰ることはないのだが……。
実際、私の拠点が召使いの共同住宅と化している節がある。まあいいが。
ああそうだ、竜を買わないと。歩いて行くのは辛い。
もう一度首都へ戻った。
王都に着いた頃にはもう日が沈みかけていた。
急ぎ足で竜の飼育所へ向かった。
――ギャアアス! グギャアァ、ギャギャ!
――ケキョオオオ、ケキョオオ、グエエエ!
「竜を買いたい。今すぐだ」
「い、今すぐですか? はぁ……」
スーツを着た商人が驚いたように言う。
「よ、よろしいのですか?」
「貧乏人には買えないぞ」という意味だろう。だが私は貧乏人ではない。
商人に案内され、一つの檻の前に立つ。
一匹の赤い竜……、ワイバーン。大きさも値段も手頃か。
恐らく未開拓地域は過酷だ。耐えきれるとも限らない。使い捨て覚悟で。
となれば余り良い物は買えないな。金の無駄だ。そこそこの物を買うのが得策だな。
商人が値段を告げると、すかさず札束を渡してやった。その驚いた顔は中々滑稽だ。
「かか、数えますので、少々お待ちをぉ……」
手綱や、竜の体調などの加減があり、引き渡しは明日の早朝になった。
今日はもう遅い。寝るか。
翌日、日が昇るより早く竜を引き取って出発した。
若干夜の寒さが残る中、暖かい竜の背にまたがる。
見よう見まねで鞭を叩いてみたが、案外どうにかなる物だ。
竜の走る速度はだんだんと早くなり、ついに飛んだ。
風が大きな音を立てて通りすぎる。首都の建物は少しずつ小さくなった。
操縦は思ってたより簡単だった。手綱を右に引けば右に旋回する。たったそれだけのことだ。
境界線はまだ見えない。
左を向くとカラスの群れが見える。
しばらく景色を楽しむとするか……。