ダイエット
「今日からダイエットする」
僕のパパはそう言ってニヤリと笑った。
そんなパパを見て僕はため息をつく。
これで何度目のダイエット宣言だろう。今回はどれくらいもつのか。
前回は一時間だったから、今回は二時間はぐらいは言って欲しいものだ。
「おいおい。なんだよ、そのため息は。どうせ一日やそこらで止めると思っているだろ」
「そんな事ないよ」
二時間だから嘘は言ってない。
「まあ心配しなくとも大丈夫!今回はなんと秘密道具があるから!」
秘密道具?
僕の頭の中にお腹につけてぶるぶるさせる機械や、まずそうなドリンクが頭に浮かぶ。
「また通販?次、変な物を頼んだら、今度こそ家を出るってママが言ってたじゃん」
「大丈夫!近所の田中さんから貰った奴さ、通販じゃないから問題ないよ」
その言葉を聞いた時、頭の中を、奇声をあげながら走りまわる田中さんの姿がよぎった。
「…大丈夫なの?」
「大丈夫!心配するな!まあ、見ていなさい!」
不安そうに尋ねる僕をよそに、パパは得意そうに笑いながら、指を鳴らす。
カスッ、という音が空しい鳴った。パパは指を鳴らすと大急ぎで階段をかけのぼっていった。
自分で取りに行くんだ、と一人呟きながら宿題を進める。
たっぷり三十分。宿題を終わらせ、テレビを見ようかと迷っていると、バタバタと音をたてながらパパが戻ってきた。
「お帰り」
「ああ、早かったろ」
そう言ってニッコリ笑うパパ。
僕はそっと視線を外し、別の話題に切り替える。
「秘密道具は?」
「それよりこれを見てくれ!」
そう言って誇らしげに取り出したのは全自動タコ焼き機。
いったい、パパは何がしたいのだろう。
「とりあえず、お腹が減ったからタコ焼きでも食べようか。冷蔵庫にあるタコと小麦粉と卵をあるだけ持ってきてくれ」
「パパ、ダイエットは?」
「そんなのは明日からさ!」
三十分。今回のパパのダイエットは、一時間すらもたなかった。