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授業中。涼香は、ふてくされた顔で
ぼーっと窓の外を眺めていた。
「ああ皮肉 なんて皮肉だ ああ皮肉」
「何一句詠んでるの」
涼香の隣の席の亮介は、シャーペンをくるくると
回しながら、涼香に突っ込む。
「ふん。お前には関係ねーよ」
涼香はつまらなそうな顔をして、イスの上で
胡坐を掻いた。
「あのねぇ。女の子が胡坐なんか掻いちゃいけません」
涼香は、鼻をふんっとならした。
「俺の為にやめなさい」
「なんでお前の為に胡坐をやめなきゃいけないんですかー」
涼香は、亮介を横目で睨んだ。
「涼香」
名前を呼ばれる。
「ん?」
「回ってきたよ」
前の席の女子だった。涼香に手紙を渡す。
それは、ご丁寧にも封筒に入っていた。
「うわ。絶対梨津からだ」
顔を顰め、涼香は封筒を開ける。
その中から出てきたのは
「・・・・・・」
封筒だった。
その封筒も開ける。その中身も、封筒。
「なんじゃこりゃ!馬鹿かあいつは!」
どんどん封筒を開けていく。それに従って
次第に封筒のサイズも小さくなっていく。
「うわぁ。めんどくさいことするね、梨津も」
それを見ていた亮介は、笑顔で言う。
一センチ四方の封筒を開けると、そこには二つ折りの
小さな小さな紙が入っていた。
「や・・・やっと終わった」
小さな紙を開く。
そこに書いてある文字に、涼香は冷たい視線を投げ掛ける。
小さな紙に小さな小さな文字で、書いてあったのは
『亮介と結婚しちゃえ!』という言葉だった。
涼香が梨津のほうを向くと、梨津は涼香に笑いかけ
親指を立てた拳を突き出した。
それを見て、涼香は梨津を睨みつける。
「何々?何て書いてあったの?」
興味津々の亮介を尻目に、涼香はその紙を破り捨てた。
「あーあ。見たかったのになぁ・・・」
亮介は残念そうに呟いた。
午前の授業も終わり、午後に突入。
お弁当を食べ終わった涼香は、梨津と一緒に屋上にいた。
屋上には、二人以外は誰もいなかった。
二人は並んで座っていた。
相変わらずの晴天、青空。優雅に飛ぶ鳥の姿が見えた。
「ほんっと梨津ってさぁ、器用っていうか馬鹿っていうか。
面倒くさいこと好きだよねぇ」
涼香は呆れた口調で言う。
「そうそう。涼香なんて亮介の前だと更に口悪くなるもんねぇ」
梨津はうんうんと頷きながら答える。
「人の話聞いてた?」
涼香は、梨津を睨む。梨津はハハハ、と笑った。
「ったく・・・。弁当教室に置いてくるわ。ちょっと待ってて」
「はいよー」
涼香は、弁当を持って立ち上がり屋上から出て行った。
涼香が丁度屋上で立ち上がった時、亮介は誰もいない教室の
窓辺で、黒板消しを両手に持ち掃除をしていた。
「まったく。なんで昼休みになると皆、いつも教室から出て行くんだ」
独り言をぶつぶつと呟きながら、両手に持った黒板消しを互いにぶつける。
亮介は、ふと顔を上げた。空が目に入る。
「あー・・・清々しいほどの青空だ」
高らかに、鳥が飛んでいた。
そのとき、すっと手から黒板消しが落ちた。
「あ」
亮介は驚き、咄嗟に手を伸ばす。
その瞬間、運が悪いことに亮介の体は
窓の外へと消えていった。
沈黙が生まれる。教室の中には、誰もいなくなった。
「・・・あぶねー」
その時、一つの声が聞こえた。
亮介は、ぎりぎりで窓枠を掴んでいたのだ。
身体能力高くてよかった、と亮介は思った。
しかし、教室には誰もいないので
助けを呼ぼうにも、誰も来てくれない。
「うーん・・・どうしよう」
亮介は、危ない状況にも関わらず
落ち着いていた。いや、ぼーっとしていた。
「ああ・・・空が綺麗だ」
鳥は、相変わらず自由に飛んでいた。
そんなとき、涼香は教室へと向かって歩いていた。
亮介の手は、もう限界に達していた。
赤くなり、腕は震えていた。
「うーん。さすがにヤバイかな」
そんなときでも、亮介は落ち着いていた。
ふと、亮介は思い出す。
「そういえば、こんな場面物語にあったなぁ・・・」
しみじみと、亮介は思い出し始めた。
「確か、お姫様が崖でこんな状態になって、王子様助けて、って
叫んだら、王子様が助けに来てくれるんだっけなぁ」
その時、亮介の頭の中にある考えが浮かんだ。
一気に息を吸い込み、大声を出す。
「王子様ー。助けてー」
予想以上に、声は出ていなかった。
「・・・やっぱ駄目か」
亮介が、本気で諦めて落ちようかと思ったその時。
窓から、誰かの顔が現れた。
「う・・・わ!三月亮介、何やってんの」
涼香だった。亮介は驚き、唖然とした。
「ちょっと!と・・・とりあえず、助けてやる!」
涼香は亮介の手を掴み、力を入れると
「んぬー!」
と叫び、亮介を教室へと引きずりこんだ。
「す・・・すごい。本当に助けに来てくれた」
「ったく・・・」
亮介は、少し感動していた。
涼香は、弁当を置きに教室へと向かっていた。
教室に入ったところ、窓枠に手だけが見えていたので
驚いて近づいたところ、亮介がぶらさがっていたという
ことだった。それを聞いた亮介は、また感動していた。
「ていうか、なんであんたは窓にぶらさがってたの?」
聞こえているのか聞こえていないのか、亮介は
ぼーっと涼香を見詰めていた。
「・・・答えろよ!」
涼香は叫び、亮介を睨む。
「まぁいいじゃん。とにかく、ありがと」
亮介は涼香に近づき、額にキスをした。
そんなとき、梨津はあまりにも涼香が遅いので
教室へと向かっているところだった。
教室のドアのところで止まる。
中では、亮介が涼香の額にキスをしているところだった。
「おぉ。いい雰囲気」
言った直後、涼香は立ち上がり亮介を殴っていた。
「・・・ありゃ」
梨津は、ため息をつき廊下の窓から、外を見た。
青空では、二羽の鳥が並んで飛んでいた。