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空は、雲ひとつない青空。
その下に広がるのは、大きな高等学校。
そこに通う高校三年生、立花涼香は
ちょうど靴箱に靴を入れるところだった。
短い髪が、風に揺れる。
涼香は髪をかき分けながら、靴を脱いだ。
靴片手に、靴箱を開ける。
するとそこには、白い手紙が置いてあった。
それも何枚も。靴箱が、埋まるくらいに。
涼香は怪訝そうな顔をして、手紙を一枚手に取る。
靴を置いて、二つ折りにしてある手紙を開いた。
そして、涼香は顔を顰める。
そこに書いてあった言葉は
「好きです(笑)」
だった。
「・・・」
しばらく黙る。
次々と紙を手に取り、開いていくが
それらには全て同じことが書いてあった。
再度黙る。
涼香はいきなりその紙を破り、大声で叫んだ。
「・・・笑うなー!」
朝の学校に大きな声が響き渡った。
涼香は、勢いよく教室のドアを開ける。
色んな人から掛けられる「おはよう」を無視し
真っ直ぐに目標に向かって歩く。
髪を二つに分けて縛っている、少女の後ろに立つと
肩を掴み、無理矢理こちらを向かせた。
「うわっ!」
少女は驚き、そのまま後ろを向かせられる。
「・・・あ」
そこにあった顔を指さす。
「おお、涼香。おっはよー」
少女は笑顔で、朝のあいさつを述べる。
「おっはよー、じゃないわよ梨津!」
涼香は憤怒の形相で、少女に詰め寄る。
梨津と呼ばれた少女は、
「何?朝から殺気立っちゃって」
「靴箱に手紙入れたでしょ」
梨津は少し考えてから、ああ、と思い出したように言った。
「あれね。どう?おもしろかったでしょ?」
「ぜんっぜん!ていうか、あんな手の込んだことわざわざ
やらないでくれる!?」
涼香は怒鳴る。
「え?だって涼香面白いし」
梨津は笑いながら言った。
その瞬間、涼香の中で何かがプチっと切れた。
梨津の肩から、すっと手を離す。
そして、腕を上に上げて思い切り振りかぶる。
その握り締めた拳は、真っ直ぐに梨津の頭の上に
向かって、勢いよく下がっていく。
梨津はそれを見て、ひょいと横に体をずらした。
その所為で、涼香の拳はイスの背もたれの
上のほうに、思い切り当たる。
「うっ!!」
呻き声があがる。
「あはは。馬鹿じゃん涼香」
梨津は声を出して笑った。
「くっ・・・くそっ!」
涼香は、赤くなった手の側面を擦りながら言った。
「朝から騒がしいね、涼香」
後ろから声がした。涼香は、もしやと思い
眉間に皺を寄せながら、後ろを向く。
「や、おはよう」
そこにいたのは、笑顔で笑っている少年だった。
「げぇ・・・。出たな、三月亮介」
「やだな、そんな怪物が出たみたいな言い方して」
亮介は、笑顔のまま涼香に近づいた。
「近寄るな、三月亮介」
涼香は後ろに一歩下がった。
亮介も、一歩前に出る。
「ていうかさ、なんでフルネーム?」
また一歩下がる涼香。
「どうでもいいだろ、三月亮介」
亮介も、また一歩前に出る。
「疲れない?フルネームって」
涼香と亮介は、ろくでもない会話を繰り返しながら
どんどん動いていく。
それを見た梨津は、亮介が前に出た瞬間に
涼香の背中を、思い切り押した。
「ぐわっ!」
変な声をあげ、涼香は前に倒れていく。
亮介は驚きながらも、腕を広げ涼香を
受け止めようとする。
涼香が亮介の胸に飛び込む―――
その前に、足を踏ん張り亮介の目の前で止まった。
「・・・・・・」
亮介は、無表情で黙る。
「チッ」
梨津は悔しそうに、舌打ちをした。
「り、梨津この野郎!危なかったじゃん!」
涼香は梨津を睨んだ。
「素直じゃないなぁ。そのまま、亮介の胸に
飛び込んでいけばよかったのに」
「そうそう。素直じゃないなー」
梨津に便乗して、亮介も涼香に抗議した。
「バカ!・・・とにかく、近づくな。三月亮介」
涼香は鋭い目付きで、亮介を睨んだ。
亮介は、やれやれというように肩をすくめた。
「ま、別にいいけど。嫌でも近くにいなきゃいけないんだし」
亮介はにっと笑うと、自分の席へと戻っていった。
涼香は亮介の背中を、眉間に皺を寄せ睨んだ。
その時、授業の始めを告げるチャイムが鳴った。
「ほら、戻んなよ」
そして梨津はにぃと笑う。
「亮介の隣に」
その瞬間、涼香は撃沈した。
教室に先生が入ってきて、席に着かざるを
えなくなった。
亮介の、隣の席に。