帰省ラジオ
ホラーですので苦手な方は閲覧をお控えください。
少年時代、僕はラジオを聞くのが好きだった。
周波数が弱くて微かに聞こえてくる昭和の歌謡曲とか、学校の誰も知らない、ちょっとマイナーな放送とか。
周波数のツマミを回して、今どんな放送やってるのかな?なんて考えてワクワクしていたら、変な放送を拾ってしまう。
『トントン』とノックの音がしてから、『帰省ラジオのお時間です。』と、僕と同じくらいの子供の声が聞こえてきた。
音質が悪いせいかそれが自分の声に似ている気がして、気味が悪い。
だが、子供がパーソナリティなんてかなり珍しいし、興味を惹かれ僕はその放送を聞くことにした。
少年は『第2話』と言ってから語り始める。
―――――
―――
夏休み、山で遊んでいたら友達が、「あっちに誰かいる」と呟きました。
見ると、確かに山の奥に何かがうごめくのが見えたのです。
友達は「宇宙人だったらどうする!?」なんて鼻息を荒らげていたのです。
今は空前のオカルトブームで皆都市伝説やら宇宙人に夢中だったから、興味を惹かれたのかもしれません。
「やめようよ、危ないだろ!」僕は止めたけど、友達は「大丈夫」と言って、どんどん山に入っていく。
置いていくわけにもいかなかったので、ついて行くことにしました。
この集落にも都市伝説というか言い伝えがありまして、昔から「だれかさん」という、神だか妖怪だかがいるとされていたんです。
人のような「何か」が小さい子を攫うなんていう、ありがちな子供を脅すための作り話の類、そう思って子供たちは誰1人その存在を信じていませんでした。
2人で謎の人影を追っていくと、雨上がりの時や田んぼの前を通った時のような、微かな泥の香りがしたんです。
道中には見たこともない黒い花が咲いていて、その花は人の手の形のように見えました。
地面に目を落とすと比較的新しめの子供の靴の跡があって、友達は「なんだ、人が通った跡あるじゃん!なら平気だよ。」と笑っていました。
何か本能でこれ以上はいけない、と思っていた時――
『トントン』と音がして、音の方向を見たんです。
すると目の前に、人を黒く塗りつぶしたみたいな影が立っていました。
蝉の声と耳鳴りが混じり、逃げないとまずいと思った僕は、友達に逃げようと言いました。でも友達は動かなくて、手を引いても微動だにしない。
どころか、強く引っ張ると力なくぱたりと倒れ、無表情でこちらを見つめてきます。
黒い人影がこちらに手を伸ばすと、泥の匂いはどんどんと強くなり……何かが腐ったみたいな匂いに変わっていきました。
そして、僕はその影に取り込まれてしまったのです。
……
「変なラジオだな。」聞いてからそう吐き捨てる。
2話から始まるのも中途半端なら、無事ではなさそうな語り手がラジオにエピソードを投稿できているのですらおかしい。
これは恐らく作り話の類だ、とすぐに分かった。
今は夏、怖い話の特集でもしていたのかもしれないと楽観して僕は再びツマミを回した。
――数日後、僕は友達の「ゆうと」に誘われ山で遊んでいた。
すると、ゆうとが「ねえ、あっちに誰かいる。」と山の奥の方を指さす。
……急に、嫌な予感がした。以前に聞いた、ラジオの内容に状況が似ていたからだ。
僕は必死に止めたのに、ゆうとはどんどん山奥に入っていく。
そこで思った、あのラジオは予言のラジオで、このままだと僕は黒い影に取り込まれてしまうのだと。
怖くなったが、一人で帰るわけにもいかず。子供の靴の足跡を見つけてしまった。
「あれ、なんかこれさ……お前の靴の跡と似てない?流行ってるんだね。」
呑気に笑いながら、ゆうとは山奥に進み……手の形をした、気味の悪い黒い花を見つける。
「なんだこれ……こんな花見たことない。」ゆうとが花に顔を近づけた時、微かに泥の香りが立ち込めた。
――だめだ、もう少しで来てしまう。
そう思った時、『トントン』と何かを叩く音と共に……目の前に黒い人影が現れた。
ゆうとは恐怖で固まっていて、このままじゃあのラジオのとおりになる、と本気で恐怖した。
「うわあああああぁっ!」
怖くなって、何かに突き動かされるように走る、走る。
僕は、ゆうとを置いて逃げた。
熊なら、イノシシなら、野犬なら、大人の助けを求めただろう。
だけど僕たちを襲ったのは、得体のしれない怪物だ。
しかし、夏休みが終わり学校に行くと、ゆうとが元気そうに登校しているではないか。
「あ!この前はありがとな。」なんて言うので、僕は口元を引き攣らせ「うん」とだけ返事をした。
怖くて、とてもあの時のことを聞こうとは思えない。
夏休み明けのゆうとはなんだか大人びていて、彼は勉強ができなかったはずなのに、急に100点ばかり取るようになった。
あの後不安で何度もラジオを聞こうと思ったが、周波数を覚えておらず……小学生の内に再びあの放送を聞くことは叶わなかった。
時は過ぎ、中学2年の夏休み。
恋に悩み、ため息をついていた。
僕の好きな女の子は「あゆみ」といい、可愛くて明るい子だ。
最初は優しくしてくれていたのに、最近は少し態度が冷たい。
というのも、あゆみはゆうとが好きみたいで、僕に取り入ればゆうとに近付けると思って声をかけてきたようだった。
僕があゆみを好きなのもバレていて、「好きな人を聞いてきてよ」とか「チョコを代わりに渡して」とか頼んでくる。うんざりだ。
でも、僕は僕であゆみに嫌われたくないから言いなりになるしかない。
相変わらずラジオを聞くのは好きで、恋の悩みを聞く「少年少女のお悩み会」という放送を好んで聞いていた。
その日もそれを聞こうとラジオを付けるも、電波が悪いのかザアザアと砂嵐の音だけを発している。
「なんだよ、壊れた?」なんて呟いていた時――
『トントン』
ノックの音と共に、またあの少年の声が聞こえてきた。
『帰省ラジオのお時間です。』と口にする少年の声は、声変わりが始まった僕の声によく似ている。そこで僕は考えた。
「きっとこの放送は未来の自分が僕に発した、SOSなんだ」と。
緊張しながら耳を傾けていると、少年はまた『3話』と口にしてから淡々と語り始めた。
―――
――
中学2年の夏休み、私は男友達二人と妹の3人で海に行きました。
すると、男の子の1人「Aくん」が「海に横穴を見つけた」とはしゃぎ、探検しようという話になったのです。
泳げない妹だけ浜に残し、男の子たちと横穴に入りました。
はじめはワクワクしていたけれど、奥に入るにつれだんだんと、泥と腐臭が混じったようないやな匂いがして、「獣がいるかも、危ないよ。」と言って止めました。
B君は「そうだね、なんもないし引き返す?」と言ったけど、A君は「中学生の癖に何ビビってんだよ!」と煽ってきます。
私は普通の女の子よりも強くて男っぽい、そんな自負があったから、「怖くて肝試しの途中に帰ったか弱い子」だと思われたくなくて、強がりながらも先に進んでしまいました。
泥と腐臭はどんどん強まり、洞窟の最奥には黒い花が1輪咲いていて、その花はまるで地面から誰かが手を伸ばしたような不気味な形をしています。
恐怖で震えていると、「トントン」と何かを叩く音がしたので、振り返りました。
そこには、真っ黒で顔立ちすらわからない人影が、私たちの後ろに立っていたのです。
私は必死に男の子たちの手を引きましたが、Aくんは微動だにせず、Bくんも怯えて動けないようでした。
黒い人影はこちらに手を伸ばし、そのまま私を取り込んだのです。
――――
――
僕はそれを聞いて、冷や汗をかいていた。
今度はあゆみ視点の物語で、恐らく「A君」はゆうとのことだろう。
もし、本当にあゆみやゆうとと出かけることがあれば――あゆみを守ってやれるのは僕しかいないと、そう思った。
程なくして、僕はゆうとに海に行こうと誘われる。
そこには、あゆみとあゆみの妹「まゆみ」もいた。
案の定、ゆうとが僕たちを誘ったのは「泳いでいたら横穴を見つけたから調べたい」という理由だったようだ。
浜には僕ら以外誰もいなくて、閑散としている。
ラジオのとおり、まゆみちゃんは泳げないから浜に残ると言い出したので、僕はゆうとを警戒し「まゆみちゃんを一人にするわけにはいかないじゃん、俺とあゆみ二人で行くからゆうとは待ってて。」と言った。
あゆみと横穴に入り、中を見る。横穴の中は確かに泥臭くて異様な空気だった。
ふと、あゆみが「なんでゆうと君置いてきたの、一緒に行動したかった。」などと不満を垂れる。
「まゆみちゃんが目離した隙にやべえのに狙われたら可哀想だろ。」と言うも、あゆみは頬を膨らませながら
「嘘だ、絶対二人になる為でしょ。まあ、ゆうと君が気になってる以上調べるしかないけどさぁ……ここ、暗いし気持ち悪い。」と返してきた。
こちらは守ってやろうと付いてきてやったのに、口を開けば「ゆうと」、「ゆうと」。
女というのはいつもこうだ、いつの時代も身の安全より感情を優先する。
「ていうかさぁ、ぶっちゃけどう思う?ゆうとって私のこと好きかなぁ?海に誘ってきたし結構脈あり?」
「分かんないよ、ゆうとのことは、ゆうとにしか。」
「でた!そういうノリ悪いとこがダメなんだよ。こういう時は嘘でも『そうかもね』とか言うもんなの。」
あゆみの嫌味に耐えながら「ごめんね」と微笑むも、内心穏やかではない。
さっさと横穴を探索して帰りたい……そう思っていた時だった。
「ゆうととの探索だったら、もっと楽しかったのに。」
あゆみがそう悪態を突く。
我慢ならなくて、僕は「でもゆうとって……人間じゃないけどね。」と呟いてしまった。
同時に、黒い人影が目の前に現れあゆみが悲鳴を上げる。
「助けて!ごめんね、酷いこと言ったの謝るから!」
あゆみがそう助けを乞うも、僕が動揺している間に一瞬で彼女は影に取り込まれる。
――僕は、恐怖からまた逃げ出した。
浜に戻ると、ゆうとが「どうだった?あれ、あゆみは?」と尋ねてきた。僕は「何もなかったけど、あゆみがまだ探索したいっていうから俺だけ戻ってきた。」と答える。
するとあゆみは時間差で浜に戻ってきて「何もなかったし帰ろうか。」と呟く。
僕はもう、あゆみがあゆみじゃないことを何となく悟っていた。
あれから、あゆみにも変化が現れる。
あれだけ夢中だったゆうとに興味を持たなくなり、「私、呉服屋で働くのが夢だったんだ。だから東京のデザイナー学校を目指す!」なんて言っていた。
勿論、そんな話は今まで1度も聞いたことがない。
……
――時は経ち、僕は逃げるように大学進学と共に上京する。
ゆうととあゆみの顔を見たくもなかったし、何よりあの黒い花のことを思い出すと憂鬱だった。
しかし、大学2年の夏に一通のはがきが届く。
あゆみの妹まゆみちゃんから、「姉が変わってしまった真相を知りたい」と連絡が来たのだ。
当時、目撃者は僕だけだった。だからまゆみちゃんは僕に連絡をくれたのだろう。
僕はそれを無視できず――
「分かった!全部話すから、休みの間そっちに帰るよ。」と返事をした。
……
「ごめん!ごめんね……!俺が全部悪いんだ!」
駅の改札を抜けるなり、まゆみちゃんに土下座する。
真夏のコンクリートがまるで熱したフライパンのように熱くて、火傷しそうだ。
「わっ……ちょっと、やめてください!」
言いながら、まゆみちゃんが慌てながら僕を起こしてくれる。
「ここじゃなんだし、場所を変えませんか?」
僕はまゆみちゃんに促されるまま、海に連れ出された。
浜には誰もおらず、昔は子供で溢れかえっていたのに、この村の子供も減ったもんだと寂しくなる。
昔話とか、どこがどう変わったとか、そんな話もしたかったが――僕はまゆみちゃんに「お姉さんのことだけど。」と切り出す。
そして、全ての出来事をまゆみちゃんに話した。
「――そうですか。それって、うちの村でたまに聞く『だれかさん』なのかな。」
僕を責めるでもなく、まゆみちゃんは言いながら難しい顔をしている。
「似てるとは思うけど……何も分からないや。」
「取り込んだ人間になりすましながら生きる。なんだか寄生生物みたいで気持ち悪いですね。」
「俺の話で、何か分かりそう?」
尋ねると、まゆみちゃんは「この村の話なら、お寺の住職さんが詳しいと思うんです!ほら、あのおじいちゃん。えーと……『伊藤さん』だ。」と口にする。
ああ、あの人ご存命だったのか。
僕が村を出た頃には、もう伊藤さんは80過ぎの老人であった。
確かに村のことには詳しそうだ、と、話もそこそこに僕たちは寺へと向かう。
そこでは伊藤さんが元気に掃き掃除をしていて、こちらに気付くと「こんにちは。」と挨拶してくれる。
まゆみちゃんが伊藤さんに事情を説明すると、伊藤さんは少し眉を下げながらも「入りなさい」と寺の脇にある自宅へと招いてくれた。
「『だれかさん』の話が聞きたいんだよね。そうだなぁ、どう説明したらいいんだろう。」
盆に麦茶の入ったグラスを乗せ、伊藤さんはそう呟く。そして、
「『だれかさん』は僕のおばあちゃん世代から受け継がれててね?昔は名前が違ったけど内容は今と変わってなくて、夜遅く出歩いてると、人っぽいものが子供を攫っちゃうって言われてた。」と続けた。
「てことは、えーっと……江戸時代くらい、前からいると……?」
まゆみちゃんが言うと、伊藤さんは「そうだね、そうなるね。」と答える。
「……あの、私ちょっと調べたんです。お姉ちゃん、明らかに横穴に入ってから様子がおかしくて……そこで『だれかさん』に襲われたんじゃないかなって。だから御札とか持って横穴に入ってみたんですけど!」
言い切ってから、まゆみちゃんはインスタントカメラで撮ったであろう写真を机の上に滑らせる。
「奥にこの、真っ黒な花しかなかったんです。見たこともないし……なんか、怪しくないですか?」
伊藤さんは唸りながら写真を見て「御手百合だ。」と言った。
「みてゆり……?」まゆみちゃんが不思議そうに復唱する。
「なんか変な花なんだよね。昔はここも土葬で、木の箱にご遺体を入れて埋葬してたんだけど……たまーに、生えてきちゃうんだって、その上に。」と言う。
「なんか、超常的ですね。『だれかさん』と関係があるのかも!」
まゆみちゃんが言うので、僕は「その花が群生してるとこ、知ってるよ。」と教えてやった。
まゆみちゃんは待ってましたと言わんばかりに食いついてきたので、まだ明るいうちにそこへ向かおうという話になる。
出発前に、伊藤さんはまゆみちゃんに「これ、持って行って。」と言って何かを握らせた。
「鏡?」まゆみちゃんは言いながら自分の顔を覗き込む。
「悪いものには鏡が効くって、昔から言われてるから。」
伊藤さんは言いながら、にっこり笑って送り出してくれた。
「こんなの『だれかさん』に効くのかな?でも、なんかかっこいいかもですね!悪霊退散!みたいな感じで悪い奴に鏡を向けちゃったり!」
まゆみちゃんはそう言ってこちらに鏡を向けてくる。夏の日光を反射して、眩い光が僕を焼いた。
「ちょっと!真夏に鏡で遊ぶと危ないよ!」
そんな、子供みたいなやりとりをしつつ……僕は一旦実家に寄ってから、あの山……ゆうとが影に取り込まれた場所へと向かう。
「ラジオですか?」
僕は自分の部屋から、昔愛用していたラジオを持ってきた。
「信じてもらえないかもしれないけど、予言してくれるラジオ放送があるんだよ。たまーに受信できるからさ、お守りに。」
しかし、ツマミを回しても『帰省ラジオ』は聞こえてこない。
「だめだ……。これ、持ってて。適当にツマミくるくる回して、ノックの音?みたいなのが聞こえたらキープしといて!」
そう言って僕はラジオをまゆみちゃんに預けると、護身用のクワを片手に山へ足を踏み入れた。
――帰ってきたのだ、この場所に。
クワを構えながら前方を警戒する僕と、後ろでくるくるツマミを回すまゆみちゃん。
道の途中でやっと御手百合を見つけ、まゆみちゃんに「あったよ」と知らせた。
その時、ラジオから『トントン』と何かを叩く音がする。
――あの放送だ。
『こんにちは、帰省ラジオのお時間です。』と、僕そっくりの声の男が挨拶した。
「えっ……?この声……って……」
ラジオは山奥だというのに、途切れず受信できている。
これから未来を語り出すと思ったその時、パーソナリティは「にげて。」と無機質に呟く。
「……え?」
いつもとは違う放送内容に、僕もまゆみちゃんも動揺してしまった。
少しだけ時間を置いてから、男は大きな声で「にげて、まゆみちゃん、にげて、まゆみちゃん」と、繰り返す。
マイクのすぐそばで叫んでいるのか、声が割れていた。
まゆみちゃんは、真っ青な顔でゆっくり後ろを向き――何かを確認してから、僕の顔めがけてラジオを投げつける。
「いてっ……!」
その隙に、彼女は僕を置いて逃げてしまった。
……呆然としつつ、ラジオを拾う。
「バン、バン」「ドン、ドン」
後ろでは僕を咎めるかのごとく、何かを叩く音が山に鳴り響いていた。
僕は実家に帰宅すると、自室の鍵を閉めてからラジオの電源を付ける。
すると、またノックの音と共に「帰省ラジオ」が流れ始めた。
そう、このラジオのことです。
長々語ってきましたが、そろそろ最終回みたいですね。
思い出してくれましたか?今まであなたが、何をしてきたのか。
『――まゆみちゃんはゆっくり後ろを向いてから、俺を鏡に映す。鏡の中の俺は、光も入らないくらい真っ黒だった。
クワを振り上げた瞬間、まゆみちゃんは俺の顔にラジオを投げつける。痛みに混乱しているうちに、逃げられた。』
『――怪異に襲われ、あゆみは「助けて」と懇願したが、俺は……それを笑って眺めていた。』
『――「ねえ、もう戻ろうよ!絶対危険だよ!」とゆうとが言っても、俺は足を止めなかった。
仲間たちが待っている、急がなければ。』
そこでザアザアとノイズが走った後……小学生くらいの男の子の声が、「第1話」と口にしてからまた語り出す。
―――
――
――僕は夏休み初日、黒い花を見かけて群生地を辿った。そして、「だれかさん」に出会い、体を乗っ取られた。
僕の魂は木の箱に閉じ込められて、何度蓋を叩いても出れず、元の体に戻ることを諦めていたんだ。
でも君は、間違えた。まゆみちゃんを逃がしてしまったから、もう逃げられない。
まゆみちゃんがもうじき、伊藤さんを連れてここにやってくる。
やっと、帰れるんだね。
僕の体を、返して。この木の箱から……出して。
―――
――
そこでラジオが終わり……誰かが、部屋のドアを叩いた。
「トントン」




