僕は何処で道を間違えたのだろう
君を守る、君に傷ついてほしくない。そんな思いから強くなろうとした僕。
いつしか、君は遠ざかり。
ある日、君は僕の前に敵として立ち塞がった。君は正義を背負って、僕は自らの大義を背負っている。
たとえ、それが正義でなかったとしても、後戻りはできないから。
今までありがとう。そしてさようなら、永遠に。
僕は君にこう言われたことがあります。
「どれだけ苦しくても、間違ったことだけはしたくない」
まだ両方幼くて、あまり理解せずに覚えることだけをした、そうして今、その言葉は私の意味になっています。
「どうして、あなたはそちら側にいるのですか」
少し昔話をしただけで、驚いたような顔をする君。
自分が正しいことをしていると考えていたのか否か。私にはわからない。それでも、確かに驚いている。
まさか、自分が戦ってきた組織のトップが、自分が最もよく知る人間だったなんて。
「なんで...そんなはず...」
「目の前の現実が信じられませんか?貴方の目の前に立っている人間が偽物だと疑いますか?それとも、全て夢の世界で片付けますか?」
君は、すごく哀しくて、すごく愛しくて。だからこそ、私は君の前に立たなくてはならない。彼女の正義が正なる道ではないことをここに証明する。ただそれだけのために、私は立っている。
「不思議に思いませんでしたか?自分の行動や性格が全てバレている、それなのに相手は私を襲ってこようとはしない。それすら気づいていないのなら、もはやここまででしょう。」
彼女は剣を構え、私も魔槍を構える。引き裂かれる運命にあったのか、それとも私の行動ゆえなのか。おそらくは神にも想定できなかったのであろう。全てを終わらせる覚悟をした人間には、もはや引く退路など存在しないのだ。
「ッ....私は...貴方を倒す。全てを...終わらせる。」
「まだ、自分の正義が間違っているとは気づかないのですね。ええ、私も同感です。」
『今日が、あなたの命日です。』
彼女の剣筋はあまりにも鋭く、少しでも油断すれば身体がなくなってしまいそうだ。だが、剣の流れに少しずつ感情がにじみ出ているのもまた事実。迷いを捨てられない剣では、私には届かない。
何度も剣を振る彼女と、全てを流し避ける私との間で、長い時間が経った。
「あなたは...君は僕には勝てない。今までも、これからも。」
「それでも...私には...守るものが...」
やはり彼女は純粋だ。自分の主義を信じ、疑わない。口先ばかりの輩に踊らされ、いつの間にか自分が悪に加担してるとは少しも思っていないようだ。少しぐらいは、痛みを知ってもらう必要がある。そう考え、封じていた魔法を解放し、彼女の剣を防ぎながら縦横無尽に魔力の矢を放つ。彼女は攻撃的な戦闘から一転、防御に切り替える。さすがにこの程度の攻撃では、彼女の剣を超えることはできない。
「くっ...」
「そろそろ、降参したら?このまま戦っていても勝てないことは明白...それは君も理解しているはず。」
「いやだ...今あなたに降参しても...私には...」
僕の中の何かが切れる。あまりにもバカげている。人々を殺し、奴隷を生み、彼女の家族をも殺したあの残虐な王に仕え、守るものだと認識している彼女。本当に苛立つばかりだ。
「なら、もういい。」
魔力の矢とは比べ物にならない、魔槍を放つ。魔力の矢とは違い、炎、氷、風などの複数の魔法を同時に発動でき、その魔槍は防御魔法をも貫くことが可能なほどの威力である。無論、彼女の剣とその聖力によってほとんど無効化されてしまうと言っても過言ではない。しかし、精鋭の騎士一人が無数の魔獣に殺されてしまうように、どれだけ強かろうと全てを防ぐことは出来ない。
「君は、確かに剣の才がある。それは認めよう。だが、一人できたのは君の誤算だ。」
圧倒的物量によって彼女は不利局面へと立たされ、ついに剣が限界を迎える。甲高い金属音とともに、剣の先が弾ける。それまで耐えてきた剣が、ついに壊れ、彼女の希望も潰れる。剣なくして、攻撃を防ぐことは出来ず、理不尽な魔槍の雨が彼女を襲う。魔槍は淡い赤の光を帯びて、彼女を突き刺す。腕、足、腹、胸、首。全てを突き刺し、理不尽に彼女の生命を奪わんとする。
「僕が悪かった。すまない。君を正しく導くことができなかったのは、僕にも責任がある。」
近くの木に彼女をもたれさせて、そのまま去る。すべてを終わらせるために、全てを解放するために。全ては、君と君の家族、そして失われた生命のために。
「出てこい!王城に引きこもっても、王城ごと吹き飛ぶだけだ!」
全ての悪の始祖、この国...ユーロイ王国の王ベーゼ・シュレヒトにそう問う。人間を正とし、獣人や魔族を悪とし、奴隷を産み、人々を死なせ、国民を思想的盲目へと追い込んだ、その王。
王城の扉を突き破り、王城の奥へと侵入すると、国王ベーゼは玉座に座っていた。
「その玉座が本当に大好きなんだな、貴様。自分の権力を象徴しているとでも言いたげだ。」
「むしろ、この玉座は私以外の君等下等市民どもが劣性であることを示すに他ならない...そう思うがね。」
「本当に悪に染まった人間というのは...恐ろしいものだな。だが、躊躇しなくて良くなるのは利点だ。」
魔槍を発動し、玉座へといざなう。刹那、国王ベーゼは闇に包まれ、魔槍もその闇に呑まれる。だが、やった感触どころか、魔槍が何処へ消えたかもわからない。
「いいか。この国は私の所有物に過ぎない。よって、幸福も、怨恨も、すべて私のものだ。そして、その怨恨は悪に変わり、闇の力、呪力へと変換される。呪力は全てにおいて勝る...お前にはもう、勝ち目など有るまい。」
「それはどうかな...こっちには切り札も有るんだぜ?」
一方その頃、姫騎士レインは目を覚ました。おかしい。体中に魔槍が突き刺さっているはずなのに、出血どころか、痛みすら感じてない。そして、なぜ目を覚ますことが出来たのかもわからない。何もかもが理解できず、今の状態を理解するのに時間がかかる。すると、目の前に精霊が現れる。レインよりも少し小さいが、羽が大きく見た目はレインと同じくらいだろう。
「あなた...は...」
「ちょっとまってね。今取るから。」
その精霊は全ての魔槍を取り除く...と言っても、魔槍自体は刺さっているわけではなかったようで、精霊がいとも容易く取れてしまうほどだ。ひとまずお礼を言いながら、精霊になぜ私は生きているのか?と問う。精霊はレインに全てを話し、今の状況では貴方の存在が必要不可欠だとも言った。
「ねぇ...一つだけ聞いても良い...?」
「いいけど、何?」
「ロイは本当に、私の敵なの...?」
ロイとは彼女の小さい頃からの親友で、同時に彼女が愛していた人でもあった。そして、彼女を魔槍で殺したと見せかけ、生かしてくれた優しき敵軍の魔法使いでもある。
「敵ではないと思う。たぶんね。」
「よかっ...た」
少し安心して、また意識を失いそうになる。あの剣が折れてしまったことで、自らの身体の中に溜まっている聖力を排出しきれず、かえって疲労を招いている。聖力は能力増強的な効果を期待できる一方、逆に疲労状態でさらにダメージを悪化させる危険性もある。ゆえに、彼女は聖力の解放が剣が折れたことによってできなくなり、疲労が悪化しているのだ。
「起きて!一大事だから!」
精霊はレインを起こし、すぐさま王都へと向かう。王都は既に闇と七色の魔法に包まれ、激戦を極めていた。一般人は既に王国の郊外へと避難し、王城ごと包みこんだ呪力と膨大な魔力がぶつかり、圧倒的な圧を生んでいる。
「俺はまだまだ、死ねないんだよ!やり遺したことばっかだ!」
魔槍と魔法の矢が同時に放たれ、四方八方から呪力の防御壁を突き刺す。しかし、依然として効果はない。そこに、精霊が連れてきたレインがやってくる。
「ロイ!レイン、連れてきたよ!」
「レイン、大丈夫か?」
「剣が折れた影響で...ダメージが。」
「これを使え。」
ロイが渡したのは剣ではなく槍だった。しかし、その槍がレインの手に触れると、たちまち聖力を吸収してあたりに白い輝きを放った。そう、この槍は剣の代わりとして保管されていた、最大限聖力を引き出す聖槍ハイリガーだったのだ。
「こう唱えろ!『神よ、祝福したまえ。全てを許し、悪と呪を持った邪を祓え。そして我にその力を与えよ。』だ!間違えんなよ...時間がない。」
「神よ、祝福したまえ。すべてを許し、悪と呪を持った邪を祓え。そして我にその力を与えよ。全てを裁く光の力を、すべてを照らす光の力を!」
聖槍の光がさらに増し、その槍を持ってレインは闇の中へと突っ込む。ロイですら貫くことの出来なかった呪の壁が簡単に崩壊し、闇に染まった国王ベーゼが現れる。聖槍から放たれた無數の矢はベーゼを貫き、聖槍を持ったままレインもベーゼへと突撃する。光があたりを包み込む。
次の刹那、闇の黒く染まった気は消滅していた。ロイは全てを守ったのだ。仲間の生命を、家族との仇の約束を。そして、なにより大切な親友を。
「倒した...やっとだ。」
その言葉のあと、ロイは意識を失った。
次に目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。隣では左手をレインがずっと握っていた。とうのレインも、疲れていたのか。私の手を強く握りながら眠っている。身体が痛く、すぐには起き上がれない故に、彼女の寝顔を眺めているしかない。すると彼女は目を覚まし、私が起きていることに気づく。
「ロイ...起きたの...?本当に...本当によかった...」
レインは泣いていた。まるで自らが受けた仕打ちを忘れたかのように。でも、その方がロイにとってはある意味幸運だったのかもしれない。ロイは優しくレインを抱きしめ、レインはずっと泣いていた。ロイは流れそうになる涙を隠し、ただレインを抱きしめていた。
「なんで、あの時本当のこと言ってくれなかったの...」
「どこにスパイがいるだなんてわからない。だから言えなかった。それに、君は純粋だから、ベーゼを守ろうとすると諦められなくなることも予想してた。」
どうやら、ロイは私のことは全てお見通しらしい。本当に裏切られてかもと思っていた自分がバカみたい。ロイは、いつも私の横にいてくれる。これからも、一緒にいてほしい。そんな思いが、つい口に出る。
「ロイ...あの...ロイがもしよかったら何だけど...私と...一緒に住まない...?」
「良いけど、俺みたいなやつと住んでも良いことないぞ?」
「いいの...私はロイのことを愛してるから。」
「...そうか。」
全ての戦いが終わり、再び平和を取り戻した世界。そして二人。
幸せな日々がこれから数十年にわたって続くのか、それとも。
ふむふむ、面白い。
純粋であるが故に騙されてしまうというのはまさに人間の性である。そしてそれを正そうとするのもまた人間である。
「この本は取っておこうか。有りふれた本の中にこのような名作が見つかるとはね。」
大図書館の本が今日もまた、一冊増えた。




