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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

守り手の日

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 耐用年数。

 ものを扱う上で、どうしても気になる要素のひとつだ。諸行無常が世の中のきまりとはいえ、その手入れに当たるのが自分の代だったりすると、なんとも貧乏くじを引かされたような気分がする。

 将来のために、自分が苦労する。長く大きい視野で見たならば、めちゃくちゃ重要な役目なのだろうけど、ミクロ視点で見ればしわ寄せを喰らって余計な労力をおっかぶることになる。

 それを苦労と思わないような、幼いうちからの洗脳……ああ、いやいや、教育。教育ね。教えの場ってのはいろいろと設けられてきたことだろう。

 大勢で手分けできるものならば、まだマシな部類。でも限られた一人に託されるものとなれば、否が応でも責任を感じざるを得ないものだな。

 私の昔の話なのだけど、耳に入れてみないか?


「僕はね。この学校を守らないといけないんだ」


 中学校にあがってから、最初のクラスで隣の席になった男の子が、そういった。

 話を聞いたのは夏休みに入る直前あたりだったな。最初はよくある、思春期特有の「はしか」のようなものが発症してしまったんだと思った。

 特別な何かでありたい、とは自己の確立期に芽生えがちなもの。まあ、気持ちは分かるけどねと適当に話を合わせていると、「おそらく、この年末ぐらいに声がかかるはずだ」とも。

 期限まで区切るとは、と私はちょっと驚いた顔をしてみせる。たいてい、このような熱病は具体的な明言を避けることが、私のまわりでは常だったからだ。自分を追い詰めることに直結し、十中八九は妄言なのだから恥なり醜態なりをさらす羽目になりかねない。

 なのに、こうも真っ向から話してくるとは。


 ――これは、ひょっとするかもしれないぞ?


 私は頭の隅にこの言葉をとどめておき、やがて終業式も近くなった12月の半ばを迎える。


 授業中、ふと教室のドアが開いた。

 それが保健室の先生だったものだから、私以外の数人も「ん?」と思った顔をしたよ。

 こちらから保健室へ出向くことはあっても、先生のほうからこちらへ来るなんてレアケースだったからだ。

「ちょっと」と声をかけて、いったん授業を止めた保健の先生は、例の男の子を名指しする。

 彼自身はちっとも動じる様子を見せずに席を立つと、保健の先生に連れられて教室を出て行ってしまう。


 ――もしかして、あのとき言っていたことを実行に移すときが来たのか? 本当に?


 覚えていたとはいえ、目の当たりにするまでは信じがたかった。

 となると、これから彼は前に話していた「学校を守る」任務へつくということだろうか……。


 そうして、彼が去ってから数分して。

 教室がわずかに揺れた気がした。それはごく小さな揺れだったが、じっとしているとはっきり感じることはできる。

 先生は気にせず授業を続けるも、揺れはそれからも間を起きながら、散発的に続いていく。

 もしこれが、彼のいう役目に関係があるとしたら……。

 なんだかんだ、私も「はしか」を捨てきれなかったらしい。先生にトイレを申し出て席を外すと、校舎内にいるであろう彼を探しに行ってしまったんだ。


 まずは保健室へ向かうが、もぬけの殻だった。保健の先生もいない。

 となると、先生も彼について回っているのか……と思っているときに、天井からぱらぱらと埃が降ってきた。どうも天井が揺れたらしい。

 そういえば教室でも何度か揺れがあったが、今回は少し妙だ。もし地震だったなら、この保健室のある1階もろとも揺れそうなもの。

 それが今は2階かさらにその上が揺れたらしいが、ここはなんともなかったのだ。


 ――となると、用があるのは各階を支えている柱、とかだろうか?


 私は来たときとは反対方向の階段から、今度は足音をできる限り忍ばせながら、そっと上がっていく。

 防火扉の影からそっと廊下の奥を見やると、ここから5本ほど先の柱の根元にかがむ彼と、その後ろに立つ保健の先生。先生の手には軟膏のそれと思しきクリームの容器が握られていたよ。


 そこから先、遠目に見ていたこともあって、何が起きたか確証は持てていない。

 が、見たままをいうならば、彼が柱の根元に触れると、その柱と、そこに接していた廊下部分と天井部分が、いっぺんに消えてしまったんだ。

 柱一本程度なら、他の柱たちがあれば急にどうにかはならなそうなもの。それがフロアそのものがぶるぶると震え出す気配がしたんだ。

 そして彼は柱の根元に手を差し入れる。すると、あの消えていた柱と廊下、天井の一部がたちまちもとに戻ってしまったんだ。揺れもおさまり、先ほどまでのことがまるで幻のようだ。

 彼の手首より先が、なくなっていることをのぞけば。制服のワイシャツの先に、本来出ているべき手首から続く手のひらが見えなくなっていたのさ。


 ――袖の中に隠していたんじゃないか?


 そう思いたかったけれどね。

 彼が振り返ると、すでに保健の先生はクリームのふたを開けて、中身を指につけていた。

 やや黄土色じみたそれが、彼の袖先へ触れたかと思うと、これまた一瞬で彼の手は元へ戻ってしまったんだ。

 彼が手を握って様子を確かめたあと、二人はまた一本奥の柱へ向かい、同じことを繰り返していく。


 いやあ、もうあとは夢中で教室へ戻ったね。

 それから何度か校舎も揺れて、彼が帰ってきたのは1時間ほど経ってからだったけど、詳しいことをきく度胸はなかったよ。

 でも、あの一連の動きを見る限り、彼は何かしらの形で校舎の耐用年数を伸ばしているんだと思ったんだ。

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― 新着の感想 ―
まさに校舎の「手入れ」をしていたのでしょうかね。 それが当人にとってどれくらいの事だったのか知りたかったです。 面白かったです。
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