シュリと描く未来(完)
レイは、二人の前で立ち止まる。
「ありがとう。でも……俺は、俺を好きでいたいんだ」
リオは息を呑み、シュリは静かに目を閉じた。
「……そっか、わかった」
と、リオは短く答えていた。
しかしその目には、深い悲しみと、同時に優しい光が宿っていた。
シュリはゆっくりと微笑み、レイの額にそっと手を置いた。
「君がそう言えるようになったのなら、今はそれでいい。私はこれからも、君のことを見守っているよ」
三人の間に、短い静寂が訪れた。
桜の花びらが舞い散り、柔らかな春の光が校庭を包み込む。
その後、レイは書店の仕事に精を出していた。
しかしシュリが、研究の合間を縫ってはレイの様子を見に来ていた。
シュリは変わらず、レイを優しく見守っていた。
ある日、レイはカフェでシュリと向かい合う。
「私は、変わらず君を思っている。しかし、ここではない場所に移動が決まってしまってね。もう会うことはないと思う」
その言葉に、レイはひどく動揺した。
そしてやっと、自らの思いに気付いていく。
「そんな……、行かないでください」
「……それは、どうして?」
シュリは優しく、レイの身を抱き寄せた。
「シュリさんのことが、好きなんです」
レイもまた、心の奥底でシュリのことを愛おしく思っていたのだ。
***
数年後、レイは学術都市へと招かれていた。
その都市は魔法美学の研究で名高く、古い書物と最新の魔法技術が交錯する場所でもあったのだ。
「ここが、シュリさんの研究所……」
レイは目を丸くしながら、美しい街並みに息をのむ。
空にそびえる塔や、石畳の道、灯る街灯。そのすべてが幻想的で、現実の世界とは思えないほどに美しくもあったのだ。
シュリは隣で、静かに微笑む。
「ここで、一緒に研究をしてくれるかい?君となら、どんな困難も楽しめるような気がするんだ」
「はい」
研究室は静寂と光に満ちていた。
魔法の書物が天井まで積まれ、各種魔法具が棚に整然と並ぶ。
「やはり君の理論は、非常に興味深いね」
シュリが穏やかに微笑み、レイの書いた魔法美学の論文に目を落とす。
レイは肩をすくめ、少し恥ずかしそうにこう言った。
「まだまだ未完成です。でも、これが……俺の考える美なんです」
シュリは優しくレイの肩に手を置き、静かに囁く。
「君が作り上げる美が、私の理想だ」
その言葉に、レイの胸は熱くなる。
目の前にあるのは魔法の理論だけでなく、人が誰かを信頼し、愛することの証でもあったのだ。
研究室には小さな実験台と魔法陣が幾つも置かれ、二人は日々、魔法と美学の融合を試みる。
レイは全てを投げうってでも、シュリの後を追ったのだ。
***
美とは、自己肯定の魔法。
そのようなテーマでレイは研究を進めていた。
それは、かつて整形に依存していた自らの経験から生まれた理論でもあったのだ。
「外見を変える魔法だけではなく、心の中に魔法を流すこと。それが、本当の美だと思います」
レイは魔法陣を描きながら、その目を静かに輝かせた。
シュリ時折手を添えて、その魔法の流れを補助していく。
「君の魔法は、君自身を愛する魔法でもあるんだ」
「シュリさんが見守ってくれているから、俺は怖くないんです……」
二人の視線が交わると、世界はたちまち淡い光を帯びていく。
愛も魔法も、互いの存在によって形を変え、やがては強く美しくなっていくのだとレイは初めて感じていた。
夜、研究室の窓から見える都市の光が、柔らかく揺れていた。
二人は並んで机に座り、星を眺めながら魔法書を閉じていく。
「今日も一日、よく頑張ったね」
「シュリさん、ありがとう」
レイの声は小さく、しかし確かな感謝と愛が宿っていた。
シュリはぐいと、レイのその身を抱き寄せた。
「君がいるだけで、研究も生活も……美しくなる」
レイは小さく微笑み、目を閉じた。
「あなたが見つめる限り、俺は美しくいられる」
レイは静かに、未来を見据えていた。
魔法と愛に包まれた日々は、まだ始まったばかりである。
桜の季節は過ぎても、二人の心には永遠に美しい光が差し込み、
どのような日も、互いを信じ、愛し続ける力となることであろう。
END




