表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/41

25.天音と学習室とすき

【主な登場人物】


僕 / 本名・志月 緒人。主人公。やや内向的で、妄想的。いたって普通の高校生男子。


篠上純夏 / 黒髪ロング。容姿端麗頭脳明晰。無表情・敬語・論理的な思考を持つが、ある日失われた時代の「恋愛と性に関する古い人間の本」に出会い、性的なことに異様な興味を抱く。


天乃天音 / ピンクのボブカット。明るく小悪魔っぽい性格で、主人公をよくからかってくるムードメーカー。その無邪気さと素直さが、逆に破壊力抜群。


花野ちとせ / ミルクティブラウンのふわふわウェーブ。何を言っても怒らず、ほんわか返してくれるその優しさに、気づけば心が溶かされていく。無自覚エロスで主人公を追い詰める。


御堂みこと / 金髪ハーフアップ。風紀委員として、制服の着こなしや問題行動を正す。と言っても、第六学園には風紀の乱れは無く、過剰に暴走気味。


白鷺ノナメ / 肩で揃えたネイビーブルーの片目隠し髪。緒人の隣の部屋の住人。学校では物静かで、話しても反応が薄い。自室から何やら声がするのだが……。



『キミたちは管理されてる』


 その文字を目にした時、一瞬、刻が止まる感覚になった。


 理解が出来ないし、頭が痛い。


 夜の帳が下りる。


 世界が回り始めたような、そんな。


 気がした。





 数時間前。


 僕はまだ、学校にいた。


「……ねぇ……また……さ。手、つないじゃう?」


 夕暮れの学習室。


 西日が差し込む窓際で、天音が僕の制服の袖を軽く引っ張る。


 いつものように明るく笑ってる。


 でも、その笑顔の奥に、普段は見せない何かが隠れているのを、僕は感じ取っていた。


「また、って……」


「この前さ。純夏ちゃんと、だったよね? 手、つないでたの」


 僕の胸がざわっとした。


 視聴覚室で……。


「……見てたんだ」


「うん、見ちゃったー♡」


 天音は相変わらず軽い調子で言う。


 でも、その声に混じる微かな震えを、僕は聞き逃さなかった。


「ちょっと、ずるいって思った」


 その一言が、妙にリアルで、胸の奥が重くなる。


「からかってるだけだよね?」


「……うん。そうかも。……違うかも」


返事になってない言葉。でも、それが天音らしいと思った。


「課題、手伝って〜。っていうのは、建前」


「やっぱりな」


 夕暮れの学習室に、僕と天音だけ。


 オレンジ色の夕日が差し込んで、机の影が長く伸びていた。


 天音は僕の隣の席に座って、机に肘をついて、斜めに僕を見つめる。


 ピンクベージュの髪が夕日に透けて、普段より大人っぽく見えた。


「今日はね、ふたりで喋りたかったの。理由とか、いらないでしょ?」


 彼女がそう言うとき、いつものからかうような口調が、どこかしっとりとした響きを帯びていた。


「ねえ、“すき”って、どんな感じだと思う?」


 突然の質問に、僕は言葉に詰まった。


「……急に?」


「うん、急に。……でもさ、考えたことない? 心臓がドキドキして、相手のことばっかり考えちゃうやつ」


 僕は思わず目を逸らした。


 視聴覚室での純夏との時間が頭をよぎる。


 あのときの、胸の高鳴りが。


「ふふっ、やっぱり困るんだ。そういう顔するんだね、キミって」


 天音がふわりと笑う。


 でも、その笑顔は普段より少しだけ、儚く見えた。


「わたしさ。からかってばっかだけど……本当は、自分のことも全然わかってないんだ」


 そっと僕の手に自分の指を重ねてくる天音。


 暖かかった。


「ね、これって、なんなのかな。ドキドキって。わたし、さっきから心臓、うるさくて……」


「……それは、僕も」


 ぽつりと返した僕の言葉に、天音はきょとんとして、次の瞬間、ちょっとだけ笑った。


「ふたりして、うるさいんだ……へんなの」


 その笑顔は、いつもの茶化したものとは違っていた。


 もっと素直で、もっと脆くて、もっと本当だった。


「最近さ、変なんだ」


 天音が机に頬杖をついて、窓の外を見つめながら言った。


「変って?」


「キミのこと、よく考えちゃう。授業中とか、ご飯食べてるときとか、お風呂入ってるときとか」


 最後の部分で、僕の顔が赤くなるのを感じた。


 天音はそれに気づいて、くすっと笑う。


「あはは、また困った顔してる。かわいい」


「からかうなよー」


「からかってないもん。本当にかわいいって思ったんだから」


 その言葉に、僕の心臓がまたドキンと跳ねた。


「でもね」天音は続ける。


「これって、やっぱり……禁書に書いてあった”すき”っていう感情なのかな?」


 禁書。


 純夏が見つけた、恋愛について書かれた古い文献。


 僕たちの知らない感情について記された書物。


「……わからない」


「わたしも、わからない。だから、確かめたいんだ」


 天音がゆっくりと僕の方を向く。


 オレンジ色の瞳が、真っ直ぐに僕を見つめていた。


「ねえ、ちょっとだけ、触れていい?」


「え?」


「手。……たぶん、確かめたいだけ」


 言われるがままに頷くと、天音の両手が僕の右手を包み込んだ。


 小さくて、暖かくて、少しだけ震えている。


「……キミの手、大きいんだね」


「そう?」


「うん。わたしの手、こんなに小さいんだ」


 天音は僕の手のひらに自分の手のひらを合わせる。


 確かに、彼女の手は僕より一回り小さかった。


「なんか、安心する」


 小さく呟いた天音の声が、妙に胸に響いた。


「ねえ、禁書に書いてあったこと、覚えてる?」


 天音がふいに聞いた。


 僕たちの手は、まだ繋がったままだった。


「これは……好き同士の人がすること、だったっけ」


「そう。恋愛関係にある人が、お互いを大切に思って、触れ合うこと」


 僕は言葉を続ける。


「恋人っていうんだって、恋愛関係にある人って」


 天音の頬が、ほんのり赤くなる。


「そうなんだ」


 わずかな沈黙。


「あたし、それって素敵だなって思った。誰かを大切に思って、その人も自分を大切に思ってくれるなんて」


 その言葉を聞いていると、胸の奥がじんわりと暖かくなった。


「でも、それが本当に”すき”なのかって、わからなくなっちゃう」


「どうして?」


「あたしは……」


 天音の声が、少しだけ沈んだ。


「でも」


 遮るように僕は口を開く。


「今、僕たちが感じてること、嘘じゃないよね?」


 天音がびっくりしたような顔で僕を見た。


「……そうだね。嘘じゃない」


「なら、それでいいんじゃないかな」


 天音がゆっくりと微笑む。


 今度は、本当に安心したような笑顔だった。


「……これって、すきなのかも」



体調を崩しました……夏が……じゃない……熱が……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ