13.恥じらいと本当と接近
【主な登場人物】
僕 / 本名・志月 緒人。主人公。やや内向的で、妄想的。いたって普通の高校生男子。
篠上純夏 / 黒髪ロング。容姿端麗頭脳明晰。無表情・敬語・論理的な思考を持つが、ある日失われた時代の「恋愛と性に関する古い人間の本」に出会い、性的なことに異様な興味を抱く。
天乃天音 / ピンクのボブカット。明るく小悪魔っぽい性格で、主人公をよくからかってくるムードメーカー。その無邪気さと素直さが、逆に破壊力抜群。
花野ちとせ / ミルクティブラウンのふわふわウェーブ。何を言っても怒らず、ほんわか返してくれるその優しさに、気づけば心が溶かされていく。無自覚エロスで主人公を追い詰める。
御堂みこと / 金髪ハーフアップ。風紀委員として、制服の着こなしや問題行動を正す。と言っても、第六学園には風紀の乱れは無く、過剰に暴走気味。
放課後。
自習室の奥。
静かな窓際。
そこに黒髪の少女──篠上純夏がいた。
いつものように本を開いている。
その表情は無機質で、まるで彫刻のよう。
でも彼女の存在は、なぜか奇妙な熱を帯びて見える。
僕は図書室で借りた本を自習室で読んでから帰ろうと思い、純夏に目をやってから気付かれないように座った。
「あ……」
すると、そこに、御堂みことが現れた。
「……篠上さん」
声をかけると、純夏は首を傾けてみことを見る。
「……御堂さん。どうかしましたか?」
「その……彼に悪影響を与えてるって……言ったこと! 謝りたくて!」
あれ? みことが謝ってる……?
僕は少し離れた席から、ふたりのやり取りを見ていた。
「いえ。事実です。私が勉強の集中力を奪っているのは確かです。御堂さんの指摘は正しいと思います」
「っ……そう。なら、いいのよ。いいけど? でも、べ、べつに謝ってほしくて言ったんじゃないからっ!」
みこと、完全に自分でもよくわからない状態じゃないか。
一方、純夏は相変わらず冷静で、みことだけが空回りしてる。
なんか、見てて微笑ましいな。
みことは咳払いをして、視線を泳がせた。そして純夏の机の上に置かれた本に目をやる。
──それは装丁のない古い文書。
あの禁書だった。
彼女は自然な動作でその本を手に取る。
そうせずにはいられなかったように。
「せ、性交とは、感情の極致において行われる生物的行為である……?」
その一節が目に入った瞬間、みことの思考が完全に停止した。
「────なっ……」
僕は思わず声を出す。
「なっ、なななな……なによこれ!? え、え、えっちなこと……?」
そういえば御堂みこともかなり頭が良いはずだ。
蓮ヶ崎でトップの第一学園に入学を希望してたらしいから。
突然の声に、純夏が不敵に笑った。
気がした。
「静かに。他の人にバレてはいけません」
「なっ、こっ、こんな……」
「禁書です。旧人類の学術文書で、ある場所から見つかりました。内容の大部分は”感情”と”愛”について」
「……い、いけません! いけませんったらいけませんっ!! そんなの、完全に──」
「でも、私は……読みました」
その言葉に、みことの表情が変わった。何かに動揺しているみたいに。
(みことも、何か感じてたのかな……)
「私は、まだ理解できていません。でも……読んだあとは、変でした。身体が熱くなって、心拍が上がって……理由もないのに、ある人の顔が頭に浮かんで……」
「……!」
純夏の言葉に、僕の胸がドキンと跳ねた。
(ある人の顔……?)
そんなことを考えてしまう自分に驚く。
「き、きっとそれはっ! 読んだからよ! だから、へんな気持ちになったんだわっ!」
「そうでしょうか? 読む前から、私は少し……おかしかった気がします」
静かに言う純夏。
その言葉が、なぜかみことの心に深く刺さったみたいだった。
みことも、最近何かおかしいって思ってるのかな……。
息を吸うのが苦しそうで、頬が赤くなっている。
「……もう、わかんないわよ……ぜんぶ……」
呟いた声は小さく震えていた。
「私も……勉強に集中出来なくなりそう……そんな……こんなことがこの世にあるなんて……」
そのみことの姿を見ていると、僕も胸の奥がざわついてしまう。
「ある人と話すと、何か胸が締め付けられるような……苦しくて……でも、どうにもできなくて……」
「それについては私にも経験があります。つまりそれが……」
「性交したいってこと……?」
「おおむね、そう考えて良いと思います」
よく聞こえない。
声をひそめて話している。
断片的に聞き取るので精一杯だ。
「えっちなこと……信じられない……。生物同士で子どもを作るなんて……」
「古代では人間外の生物でもできたそうですよ」
「そんな……私……! ちょ、ちょっともう、行くわ」
「他言無用です」
「当たり前よ!」
何か言って御堂みことは去っていった。
でもどうやら、彼女も禁書に……僕たちの秘密に触れたようだった。
その日の放課後。
僕は校舎裏手の花壇で、一人で手入れをしていた。
クラス花壇は草だらけで、緑化委員は誰だったか……。
天音?
そんな気がする。
日が暮れかけていた。
花はもうとっくに散って、緑色に染まった桜の木が風で揺れている。
そんなとき──
「……あの! あなたって、変……よね」
不意にそう言われて振り返ると、みことが立っていた。
日間200PV……(うわごとのようにつぶやいている。かなり危険な状態だ)




