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雨歌  作者: 雨宮雨霧
8/8

2025年8月短歌まとめ

2025年8月短歌まとめです。


ないことにしたいと願う夏の夜水の絡まる睫毛の先へ


水をやる主人は死んだそれなのに命を増やす朝顔の花


気が付けば失うものはなにひとつ希望も夢も焼かれて消えた


憧れた命を花に変えてゆく特攻兵の生きる眼差し


藤棚に蜂の羽音が響く朝白い月へと逃げていく子の


青空の向こうを映すラムネ瓶すべらせた手に砕けた世界


夏至は過ぎ冬が来るのを待ち望む影は短い日に溶けていき


焼け跡に残った花に水をやる君の家族もあの海の中


羽化をするべきでなかったこの夜を何度ひとりで越えていくのか


これほどの暑さはないと眉ひそめ昭和を生きた電気の扇子


駄菓子屋で買ったラムネを口にする時雨のように降る蝉の中


悪い夢そう信じ込む水求め地獄を進む彷徨いし人


誰も居ぬところで転び地面這う工事現場のフェンスの下で


逆光に映る朝顔今日もまた錆びた蛇口を捻って過ごす


切れ味の悪いハサミはボロ切れの布を容易く突き刺していく


宇宙への希望を背負い飛び出したあのペンギンは青空の下


思い出のひとつひとつを噛み締めて跡形もなく彼らは燃える


最期まで小さな手には向日葵の種が握られ宿った空き地


貝殻の宝庫になった浜辺には星になりたいカニさんがいる


ヨーグルト期限が切れて一ヶ月まだいけるかと嗅いでいる母


乾電池切れたことにも気付かずに朝を迎えて絶望のとき


息切らし走り続けた上り坂茜に染まる空と別れて


街灯もない竹林の側を抜けざわめく風は陰口を云う


世界から朝が消えればそう願う丑三つ時の一等星に


この中に落としたんです人生をマンホール開け探しに旅へ


先っぽを吸い込むときが主役だと思う一人で食べた二本目


戦いに挑む私はレベル一矛と盾すら持ち合わせずに


動かない貴方の頬をなでながら醜く見える限りある時


厄年のせいだと思い込んでおく嫌なくらいに空が青くて


甲子園灼熱の地で戦った姿見ながらアイスを食べる


脱皮した昨日とはまた違う僕願うだけでは世は変わらない


元カレのLINEを消して息をつく二度と私の目に触れぬよう


手を合わせ平和を願う人々の裏で誰かが死と向き合った


あれほどに願った平和いつからか祈りは渦に世界に消える


願うだけでは変わらない世の中へ平和を叫ぶ鳩の群れたち


引き金を引いた指先その向こう平和はないと悟る幼子


初恋のあの子の好きなシャーベット口に含めば夏空に溶け


渦を巻く炎から逃げ戦争はこれからも尚蝕んでいく


空腹を誤魔化すように飴を舐め時は止まった公園の中


夏は云う秋を誘拐したのだと地に転がった蝉の命に


駐車場あれほどあった人はもう用は済んだと見向きもしない


ゴミ箱に差した光は雨となり自分を捨てる覚悟を棄てた


擦り切れた心を濡らす雨粒は火の粉となって跡を残さず


うつ伏せになって枕を濡らしては煽った秋の虫の鳴き声


野良猫の寝顔を覗き込みながら明日世界は滅ぶと知った


毎日が区切りだと云う君の目は潤むことなく水輪のよう


人知れず流す涙は水輪を湯船に描きアヒルは泳ぐ


キャラ弁を食べたあの日は程遠くカゴに入れ込む半額シール


裏切ったくせして人はのうのうと生きて笑って酒盛りをする


倒木を跨いで歩く人間は一度転んだだけで恨みを


虹の橋歩き見下ろす残虐な世界に揺れるブランコの板


約束を破って空を駆け巡る君が泣いても拭うことなく


夏空の下でアイスをはんぶんこ甘さに揺れる陽炎の道


どこからか君の音色が耳を突く風の抜けゆく向日葵畑


人知れず零す涙に映り込む夜の向こうのビルの赤い灯


特急に乗り込み朝を駆けてゆく着信ばかり電源を切る


氷張るように冷たい視線浴び息を吐くたび白く濁って


半分に割れたハートを踏みつけてヒールの跡を残して去った


人生はシュレッダーへと飲み込まれ何事もなく社畜になった


雨音の響く冷たい窓の横蝉も静かに鳴いては打たれ


夕暮れの渚に振った指先に終わりを悟る彼の微笑み


新緑の芽吹く並木をくぐり抜け青にかざした手は透けていく


賑わいを見せて静まる台所網に置かれた唐揚げを食う


登る気になることはなく山を背に坂を下って海へと帰る


夢を見て諦めてきた人生に残る望みはただあとひとつ


このままの自分が紡ぐ物語先の見えない世に抗って


刃を向けて捨てる覚悟に歯向かった言葉はどうも弱くて脆い


人生の歩いた道に種を蒔く振り向くときに詰まらないよう


ゾウさんは鼻が長くておおきくて無邪気に話す遠足帰り


最後まで味方で居たいただ君を失うときを遠ざけたくて


転勤を言い渡されて独り身のありがたみ知る六畳の部屋


もたついて焦って落とす小銭たち今日から僕は財布をやめた


諦めてばかりの道は真っ暗で比べて堕ちるそれも人生


鉛筆に預けた命答案はバツが量産されて田んぼに


階段を踏み外すより縮まった藁が話した怪談話


人生の一部をくれた君の目に映る世界が星であるなら


憂鬱を振り払おうと顔洗い朝の涼しさ浴びる窓越し


たんこぶの痛みをこらえ満面の笑みを浮かべる弱き者たち


銃口を向けて向けられ花びらを散らすは敵だ引き金を引く


そっと置く万年筆の筆先は便箋を見てインクを零す


絞り出す声は震えて床に落つ月夜の撫でるやわらかい髪


見学に徹して泳ぐことはせずなければいいと望んだ日々に


喧嘩して部屋に籠城する子ども磁石は意味をなすこともなく


高窓を染める茜の空を見て涙とともに地獄の合図


行く人の遠くなる背を眺めては狭い檻から出られぬ憎さ


しでかしたこともいつかは忘れられ心の底のくすぶる炎


争いを知らない者が立つ境地自分の首を絞めている日々


折り鶴に願いを込めて糸通す武器を持たない世界は遠く


帰路に就く足取りだけは軽いもの缶チューハイを流し込んでは


終戦を迎えても尚終わりなき市民に兵に焼き付く地獄


天文な数に葬る戦死者の物語知る者はひとりも


慰めで心が癒えるわけもなく一人苦しむ扉の向こう


愛すると誓う港の直ぐ側にそびえるビルの上は赤色


朝露も凍る世界は息白く足跡残る線路の上は


弾圧を食らう未来もほど近く一葉に書く拙し言葉


夏空に銀のピアスはゆらゆらと波打ち際に落ちた宝石


過ちは繰り返される立てられた写真はいつも笑顔などない


賑わいを見せた祭りは静寂の中に散りゆく花びらに似て


もちもちの頬をつついて微笑んだ君の頬にもそっと口づけ


生きてきた道もここまで棺には軌跡を辿る花を宿して


かなしみを指で拭った星空に描く想いは海へと溶ける


Tシャツを畳んで仕舞うタンスからはらりと舞った一葉の路


何年も描いた夢を葬った死ぬか生きるか二択の世界


窓際の席に映った青空を花瓶は眺め先から枯れる


約束を交わしたことを思い出す貴方を置いて私は海を


この空を自由に泳ぐその後は誰も知らない道を歩むの


盾と矛互いに背負う重圧は自分ではない誰かの思想


読み漁り時間を溶かす独ソ戦人は争うことをやめない


教室の窓から見えるラベンダー時の止まった異質な空気


天国へ一歩近付くまた朝を迎えることはできるだろうか


風を切り走るバイクを横に見て赤へと変わる歩道は暗く


かなしみに暮れた波打つ砂浜に浮かんだ月は海を星へと


面影をひとつ残さず散ってゆく帰ってくると言った貴方は


線香の香り漂う暗い部屋別れは供養という名になる


パソコンで洒落た町並み眺めつつフランスパンに食らいつく夜


一つずつ潰していった目標を一つ残して雨空を飛ぶ


蚊帳の中月の光の降り注ぐ額を撫でて夢を誘えば


かなしみも忘れて生きて遺された写真の裏に走る筆先


また来ると云って幾つの時は過ぎ消えゆく蝉の声は遠くに


蒸発し空に旅立つ打ち水は夏の終わりを恨みに変える


イタリアに旅をせずともこの安さ青豆を食い会計に行く


噴水に心を焦がす幼い日いつか廃墟に変わる町並み


裏切りを恨むか君はだとしても人を安易に信じるなかれ


また明日簡単に云う君の背にそれでもいつか命は終わる


書庫の前人差し指を本に掛けはらりと落ちる四葉の栞


パエリアを食べて思った異世界に転生だけは絶対にムリ


誇るのだ今の今までこの僕を生かしたことをその実力を


才能の欠片も屑もないけれどすごいと褒める君に返すよ


その数に埋もれて君の記憶から踵を返しさよならしよう


夏の灯を潜り片手に缶を持ちこれから長くなる夜を行く


蜂蜜をミルクに垂らし円描く明日は君に逢えるだろうか


テレビ点けサンバを踊る姉御たち転生しても私はできず


指先を掴むことすら叶わずに月夜に揺れる水底に落ち


祝日の予定を立ててみたけれど起きれば夕の沈む瞬間


満点のテストを破り可視化した努力は泡に還っていくの


箸で食う君とは友になれないや無心で食べるポテチのかけら


雨の降る夜の海へと沈みゆくいつか貴方の元に還って


ふと調べナウルのほうが涼しいと知ったが否や冷房を点け


星々を縫って短い夜は過ぎ朝日を浴びてざわめく草木


探検に出かけて仰ぐ夏空は水をはじいた色に染まって


なにもせず時間ばかりが泡になる命がしゃぼん玉であるなら


歯ブラシを口に咥えて夜を見る目が覚めぬこと星に願って


洗濯を干して見上げた青空の飛行機雲に馳せる思いは


晩酌をひとり嗜む静寂な部屋を染めるはテレビの笑い


晴れなけりゃいいと思った雨の日のゆれる水面に映る街灯


穴のあくシャツに踊った針の先指先を目は必然と追う


即席を作る力も食べる気も起こらず白い天井を見る


将来を考えるたびああ死ねば傷付くこともなかったのだと


移ろってゆく風景を定点のカメラに映し町は壊れる


ミジンコを観察してはねむくなる透明になる空を仰いで


自販機のもれる光に誘われて雪の積もったコンポタを飲む


リッパーで絡まる赤い糸を切りこれでおしまい元気で居なよ


ぽんぽこのおなかを叩き日は暮れる肌を撫でゆく指は細くて


君の名を知ることもなく死ねるなら踏みとどまらず逝けたのだろう


兄弟の声も怒号もない日々を喜ぶはずがどこか静かで


神様は優しいようでそうでなく遠い何処かで生きている君


盾と矛自分を守るはずだったいつから先を向けて嗤った


愛してよ骨の髄まで呪い掛けきみとふたりの城を創るの


またいつか軌跡の交じる日が来れば泣いて笑って胸に飛びつく


侮るな危機感を持てなあ君は見下すことが楽しいのかね


納豆を無心で混ぜる朝焼けを浴びて写真に目を向けながら


あの月に暮らす貴方は知らないで滲む涙と血に染まる地を


逆境の壁を越えるの見ていてよ強くなれない私は大人


ボロボロになった手紙を忍ばせて明鏡止水銃把を握る


真夜中にテレビを点けて暗闇と背徳感を拳に握る


少しでも紡いだ言の葉がどこか知らない土地に根付くとすれば


口癖のように生きてと云う君が遺した雨のオルゴールの音


かもめ飛ぶ港の側をさんぽする潮の香りを纏う麦わら


残された言葉を拾い目を通すそこに広がる知らない世界


金がない枕の下も引き出しも給料日までどう生きようか


届けたい言葉は時に残酷で盾を破った鋭い先は


和らげることもできない立ち入って抱きしめられる日も来ないから


大丈夫筋も立たない道だけどまた逢えた日は笑って泣こう


運命に振り回される様子見て空の上から嘲笑う神


残された靴も知らずにひっそりと暮らして生きるシンデレラの意


間取り図を指し示しつつ口開く壁さえあれば喧嘩もないわ


百合を見るために恋愛禁止してこっそり拝む口づけの時


冒険に繰り出す夏を太陽は応援しつつ地を熱しゆく


謝って済めばよかっただが罪の重さは計り知れないだろう


ひらひらと空に羽ばたく小さい手明日も君にとっていい日だ


また明日手を振る君は朝が来て僕が消えても季節を巡る


指先をかざした空の冬の部屋ゆらりと映る滲んだ炎


目を閉じて記憶を伝い思い出す積もった雪に崩れる背中


カーテンの向こうで鳴いた何度目のすずめの声か吐息は白く


道化師になればドジでも笑われてそれでおわってやっぱり孤独


指先に毛先を絡め呟いたI love youに唇重ね


さようなら全ては国のためなんだそれに貴女のためでもあった


何年も出番の来ない水着着て二度と着ないと誓った夜更け


もう少しこのままで居て泣きついて来たと思えば眠る命を


無理ばかり丑三つ時にこぼれる灯姿眺める扉の隙間


2025年8月計190首

2025年計1617首


自選短歌月5首

願うだけでは変わらない世の中へ平和を叫ぶ鳩の群れたち

青空の向こうを映すラムネ瓶すべらせた手に砕けた世界

虹の橋歩き見下ろす残虐な世界に揺れるブランコの板

蚊帳の中月の光の降り注ぐ額を撫でて夢を誘えば

なにもせず時間ばかりが泡になる命がしゃぼん玉であるなら


こんにちは、雨宮雨霧です。

残暑が続きますが体調にお気をつけて。

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