2025年10月短歌まとめ
2025年10月短歌まとめです。
伝言を残した駅の黒板もいつか消されて風化していく
買い物に行く気力すら泡になり布団に沈む身体は鎖
公園の近くを走り過ぎ去った新幹線の残した余韻
カメラ持ちいつもの道を突き進む知らないうちに咲き誇る花
裏切るな自分自身もあの人もいつか命は終わってくれる
心から愛せる人が君だった遠いどこかで命を燃やす
神社へと続く異質な階段のそばに佇む木々は神々
採点のペンの掠れる音を聞き丸が一つもないことを知る
あの日々のまま残された六畳の部屋に手向ける雑草の花
街灯に照らし出される猫の目と望遠鏡の捉えた尻尾
よちよちと歩くすずめと並走し我が物顔で駆ける娘と
ランドセル雨に打たれたまま仰ぐ空は無数の花に囲まれ
意志を持ち挑む戦場いざそこは幾重に続く命の墓場
運命を決めるというにあみだくじどれを選んで後悔するか
けなしては生きる希望をまた捨てて悪の道へと突き進む槍
乱雑にシンクに放置されたまま洗うことなく錆びる心は
幸せに笑って終わる人生を望んで愛す一葉の君
日の落ちた道を下って見る町は心を沈め無へと誘いし
優先に気を遣うのはいいけれど君を犠牲にしたくはないの
傷ついた心が元に戻ることそれはなかった予約をやめる
車窓から覗く天使の梯子たち人を見守る目はやわらかく
ベランダでふかした煙草風に乗り月を焦がして星を覆って
抱きしめてほしかっただけ手首から垂れる心は妙なぬるさを
一匹で生きていけると過信した行方も知らぬ父の形見と
放浪を続けていくつ年が経ち梅の香りを嗜み想う
焼肉に心弾ます幼子の手を取りながら明後日を見る
唯一の恩師となった先生に宛てた手紙を小瓶に詰める
ブランコに座る夕暮れあの頃の自由な笑みは跡形もなく
寄生する言葉は人の脆弱な心に座り日々を蝕む
雨の降る夜に自由を謳歌する気力を奪う冷たさに触れ
閑散とする藤棚を仰ぎ見て過ぎ去る春の香りを誘う
風の吹く部屋に座って味わった孤独は波にのまれて沈む
レコードの埃を払い悲しげな音色響かす名月の夜
一度だけ夢を見たんだ閃光を背中に浴びて踊る姿を
ずれていく一直線を呆然と見ながら昇る朝日を焼いて
海の中沈む間際に思い出す声に姿にただの一言
笑えない君のためだけ用意した劇は戸棚に春は隣に
足元は揺れるばかりで仰いでも月夜は歪み泡沫になる
名月のそばにそびえる竹林の影から猫の尻尾が消える
ミステリー読むだけ読んで犯人を忘れて終える人生の様
眠れずに枕を抱いて目を瞑る君の吐息も感じぬままに
独りでも生きられるなら後悔もせずに愛したことも知らずに
丘の上夕の周りを飛び回るトンボの群れは映写機のよう
夕暮れを眺めるビルの隙間から伸ばした指はどこまでも行く
木のそばに座って飛ばすしゃぼん玉風とたわむれ青さを通し
夢の中変わらず君に思い馳せくらげ漂う夜に踊って
海底に沈む苦しみまた今日も電車の中でひとりもがいて
屋上で見上げる星は煌々と光ることなくただそこに居る
結末は誰も知らない幸せか不幸だったか笑っていたか
冷蔵庫コバエの墓と化していく火には入らず命を落とし
やわらかな光を浴びて散歩する伐採された木々を見ながら
海水を幾度と飲んで漂った小瓶は岸につかずに溺れ
星空をひとり彷徨い手先からこぼれる砂は願いに変わる
残された手記は机を墓にして静かに夢を見ながら仰ぐ
頂点に達する人を見上げては一歩進んだ足は震える
空を飛ぶ気球は豆のようになり空に近づく心は風に
孫娘昭和時代と口にする遠い時代になってしまった
木の椅子に座り燃えゆく薪は焦げこの火が消える頃に私は
最期まで迷惑ばかりこれからは君が歩いてこの花道を
血管の上を滑らせ刃は踊る今だけ泣こう夜明けの前に
愛犬を愛でる毎日お互いの命が終わるそのときまでは
豆乳はいつまでここに立ち竦む背中に浴びた光は消えて
爪を研ぎ笑うテレビの向こう側ただ生きているだけで天と地
鉛筆は幾度と折れて筆箱の裏に埋められ永遠の眠りに
どこまでも優しかったねこの海で駆けて転んだことも愛しく
この広い世界で一人消えようが誰であろうと見向きもしない
遠征に出かける前に抱きしめた空虚な君は笑いもしない
謎を解くどころか話すこともせずただ読むだけのねこの集まり
もし君に再会できる日が来れば生きた自分を赦せるだろう
優しさに甘えて生きてきた私誰かに還すこともできずに
強がってみせなくたっていいんだよ弱いあなたで居てもいいんだ
雨の降る静かな部屋で吐く息は目にも見えずに湿気に混じる
好奇心ただそれだけのことだった履歴は既に戦場と化す
ワイン飲み優雅な時を過ごす夜床を覆ったあらゆるゴミと
電柱にぶつかり仰ぐ曇り空額に当てた手は冷たくて
公園で眺めた試合青春を見ているようで微笑むベンチ
君は云う必ず生きて帰るから頭を撫でて右手は空に
音を立て火に包まれる町並みを立ち尽くすまま呆然と見る
どれも罠どれも欺瞞でできている信用するなそれに縋るな
炊き込んだきのこご飯を貪って朝焼けの差す床に寝転ぶ
失った夢は小瓶に詰め込んで月夜の照らす海に投げ込む
百年の時が経とうとこの恋は永久不滅小指をちぎる
守りたい人が居るから生きているあなたひとりで生かすわけには
叶わない想いがいつか夜に溶けそこで輝く星になれたら
暗号に頭悩ませ一時間隣で暇をし始めるねこ
辞書を引き無数の文字に目は泳ぐ言葉の渦に呑まれながらも
校庭を眺めて過ごす昼休み外で遊べと言う先生と
思い出も化石になって残るなら今すぐ星の海を飛びたい
溢れゆく涙を拭う指先に旅を続けた種は雪へと
撫でながら眠りを誘う子守唄どこに行っても私は味方
断捨離を進め押し込む思い出を大量に飲むビニール袋
カラオケに入れるほどの勇気すら持てずに終わる青春時代
引っ越しの前に見上げた夕焼けは瞳に滲み漏れ出す吐息
棚に置き忘れ去られた辞書は云う言葉を持たぬ人は屍
もう上手く生きていけない貼り付けた笑顔は二度と剥がれず残る
味方など要らなかったの何故君はそれほどまでに優しく歌う
蹲り動けず闇の中で生き見据える道も存在しない
困惑に満ちた空気をかき消して別れを告げる満月の夜
手の中にそっと握らすキャンディが今のこの日を救うと信じ
舌を出しわざと笑った君の目は悲しいほどに海の匂いで
貯金していつか贈ると決めたものいつかその日が来ると願って
苦しみを飲み込み喉に突き刺さる痛みは雪のようにじわりと
争いのない世界なら言い訳を考えるのも馬鹿らしいこと
唇に触れた指先煌々と光る星すら目には届かず
容疑者よ白状したらどうなんだティッシュを空にしたのは誰だ
バーゲンに飛び込む母をただ眺め同じ大人になると知らずに
洗面器庭で一晩乾かされ狭い世界にまた持ち込まれ
抱きしめて眠る枕の行く末は床に落とされただ天井を
雨露の光る草木を横目にし淡さ広がる空を仰いで
どこからか旅をしてきたしゃぼん玉命の終わるときまで泳ぐ
香水をくぐって抜けるデート前君は気付いてくれるだろうか
海藻とゆらりとゆれて過ごす夜雨の描いた水輪を見て
叶わない想いもいつか人の手に巡り巡って届いたりして
犯人と決めつけるなら相応の証拠を出せよそう云う子猫
洋服を干しては無へと陥って団地に差した朝日が憎い
投げやりになって泣き出す過去の僕誰と比べるでもなく辛く
心から信用できた君の背は目には見えないもので潰える
一日の長さにどうも項垂れて眠気を誘うチョークの音と
なりたくてなるわけがないまた今日も客に振りまく繕った笑み
地下鉄の窓に映った個々の顔俯き暗い空気の中で
面影の欠片もないと寂しげな短い髪をなでつけ笑う
岬から遠い街へと泳がせた視線は波に攫われていく
結局は味方も敵も居なかった自分で選ぶ孤独の居間に
ため息を漏らして睨みつける目は重圧に押し潰されるよう
バスの中見知らぬ人に渡された金平糖は月夜の光
パラシュートどこまで落ちていくのかと布団の中で考えながら
散歩道金木犀に彩られ気付けば冬の入口に立つ
比べては泣いて苦しむ幼い子何度自分を刺してきたのか
飴玉の袋が落ちていたからと臨時集会意味はあるのか
見破られ隠せず眠る昼下がり微熱を恨むように夢へと
消息を経っていくつの時は過ぎ既読のつかぬブルーライトと
挨拶を交わしたただの日常は二度と始まることはなく闇
筋肉と無縁の僕に自慢する君はまさしく心は弱い
缶を持ちつまみを備えぶっ通しアニメを見てもいい日がほしい
泣きながら通い続けたせいなのか声を失い涙も枯れて
繰り返し名前呟き苦しさを紛らわしたいただそれだけで
諦めることはできないそれだけは砦は壊れ道は塞がれ
肌に降る冷たい風は頬を抜けさらされる死の光る星屑
冷え切った部屋に寝転び想い馳せどうか元気に生きて笑って
片隅に溜まる埃と同居して家へと帰る烏の声と
連絡も取れない君の誕生日無数の祝いやっぱり未読
大根を抜いた畑を後にして葉っぱを混ぜたご飯頬張る
家族だと笑って過ごす団らんはいつしか闇の漂う部屋に
秋の夜打ちひしがれてしゃがみ込むどこにも帰りたくないのだと
言えるわけないよあなたと微睡んで流れる秋の空気は然り
夕暮れの空を飛びゆく片方の靴に止まった迷子のトンボ
程遠い優雅な世界散らかった部屋に座ってあたりめを食う
謝罪して済むなら安いものだけど帰らぬものはたしかにそこに
描かれた円は歪んで醜くて掌中にない普通の欠片
天を舞う桜に届くこともない睫毛の先に降り注ぐ雨
死ぬことが悩みも全て解決し逃れられると信じた夜に
望もうと手には入らぬ言の葉を持って生きてるあの子がほしい
先のない人生を行くまた一人別れて出会い忘れ去られて
道端に落ちたつぼみを踏みつけて笑って去りゆく大人の背中
コート手に未明に君と待ち合わせ星屑踊る空とともにし
きらきらと輝く星になれるなら遠い未来を照らしていたい
冷やされたプリンは思う買い主が私を食べることはなさそう
散らかして遊んで眠る夢の中頭を撫でる手はやさしくて
生きていくことも誰にも許されず孤独に朽ちて土へと還る
生きていく意味は要らないこの海に還れるならば海月になろう
吊橋を叩いて渡る背中見ていつ壊れるか分からない人
くり抜いたかぼちゃを並べ軒先に光る不気味な音色を纏い
いつ振りにジャングルジムの天辺に座って空を仰ぎ謳歌し
人生のシミュレーションがそのままに行くはずもなく書類に埋もれ
苦しみを掬い頭をそっと撫で隣に座り息を委ねて
口ずさむ歌はいつかの思い出を載せて飛び交う枯葉となるは
影映る障子の向こうまた今日も猫と眺める色づくもみじ
斜面から転がるように走り出す犬と人間紅葉はゆれる
消しゴムを拾い渡した昼下がりあと数秒で眠りに落ちる
毒リンゴかじって歩く秋の道魔女のしかめる顔を笑って
綴られた文字をなぞりしその瞳ゆらぎもひとつ見せない貴女
目を合わせ言葉もなしに頷いて火照る体に頭悩ませ
幸せを感じてほしいそれだけは揺らがぬ君に向ける想い出
澄み切った深夜の空に煌々と星は瞬き手のひらに落つ
クリオネの漂う夢のような時映す瞳は自由を求め
夢描き明日を歩く青写真縋るものすらない今を知る
失敗を恐れてなにも手に持たず足元に降る雨は透明
窓を開け冷えてばかりの床に座し仰ぐ青空こぼれるばかり
眼前にあった脆くて大切な日々は薄れて空気ににじむ
もう一度触れることすら叶わない息はふわりと白く昇って
空を飛ぶ小鳥を眺め息を吐く開かぬ窓は遠く冷たく
寝転がり埃と生きることにした目が合うたびに責め立てられる
引っかかりやる気も消えた朝はもう二度と来ないと結ぶ縄跳び
耳にした噂に一人固まって涙をこぼすこともできずに
手袋に指を通して笑い合う冬の空気に溶ける思い出
消えていくろうそくの火は白煙を残して包む静寂な家
声のする方に広がる楽園は竦む体を蝕み誘う
ため息をこぼす途方もない道に花を見つける人生がいい
ピアニカを必死で吹いた様相を見て懐かしむ親の隣で
大衆の中に紛れて生きられるほど優しくはなく弾かれる
初恋の人があなたでよかったよ悔やみ続けた道のりを背に
手のひらを返されるなら優勝をせずともそこで息でもしたい
すりおろしりんごは苦くはてな飛ぶ今こそ気付く親の愛情
抱え込む言葉を星の空に撒き一息ついて飲み込むミルク
飲み込んだ言葉はどれもエゴばかり命を掬う力もなしに
晴れ渡る空も君には闇に見えすずめの駆ける閉ざされた道
ただそばに座り握った手は冷えて掻き乱される心は毒に
仮装して上目遣いを披露する娘にあげたお菓子二箱
ミサイルの如く飛び交う暴言は次第に力勝負と変わる
縦列を揃えて歩く廊下から雨の上がった空を望んで
天才になれたらこんな苦悩には苛まれずに輝けたはず
温めた緑茶を飲んで仰ぐ空片手で猫を撫でつつ過ごす
飴玉を舐めて繋いだ親の手は大きく広い星空のよう
雨の降る夜道に座り髪濡らす傘を手向ける人などいない
2025年10月計204首
2025年計1814首
自選短歌月5首
寄生する言葉は人の脆弱な心に座り日々を蝕む
残された手記は机を墓にして静かに夢を見ながら仰ぐ
失った夢は小瓶に詰め込んで月夜の照らす海に投げ込む
天を舞う桜に届くこともない睫毛の先に降り注ぐ雨
クリオネの漂う夢のような時映す瞳は自由を求め
こんにちは、雨宮雨霧です。
一気に寒くなって早速しもやけになりました。
暖かくしてお過ごしください。




