夢の通ひ路、行きて帰らじ
Furry研究会部誌No.12に寄稿したもの。
友達の少ないそのネズミは、いつでも周りをきょろきょろ見渡して、耳を澄ませていた。教室をそうして調べていると、例えば誰と誰が仲がいいとか、逆に誰と誰がそうではないかとか、自然と分かってしまうものだった。ネズミは、そういう自分の振る舞いがいかに下世話なものかは理解しつつも、どうせ誰も自分のことなど気にしていないのだから──と内心に言い訳して、いつもぼんやり教室の隅っこにいた。
あいつが、このネズミの世界に襲来するまでは、ずっとそうだった。
「はぁー、ねむ。おはよ、なーにボーッとしてんだよ、高雄」
「……和樹くん。おはよ」
桂和樹。ライオン。ライオンと聞いてイメージするままのライオンの男子生徒。クラスの中心、快活、元気、成績優秀、そういう学校生活のキラキラしたものを全て集めた太陽みたいな存在だった。ちょうど太陽の戯画が、太陽光線を模したぎざぎざを円の周囲に纏っているようなその形を、そのライオンの男は立派な鬣をそなえて表現しているかのようだ。
とにかく、まぶしい。それが和樹だ。
「眠いのかー? 夜更かし?」
「眠くはない……別に何も。和樹くんこそ、なに今日。遅刻?」
「ん、まーな。寝坊はしたけど結果的に遅刻ではないっ」
始業前の教室。空気がピンと張った冬の朝。眠気覚ましとばかりに生徒はこぞって友達に挨拶をして、そのまま雑談に興じる。そんな時間。
そこに飛び込んできた和樹は、真っ先に高雄の方へ駆け寄った。
「そんでさ、なー高雄。放課後ヒマ今日?」
「なんかあるの?」
「特に何も。街ぶら? とかする?」
「えー……そういうの昨日のうちに言ってたら考えたのに」
「つれねーなー」
浦上高雄。ネズミ。本当はレミングというマイナーなネズミの仲間だけど、周りの誰もそんなことは気にしないし、高雄自身もたまにしか気にしない。だからネズミ。和樹の持っている要素をだいたいそのまま反転したら高雄になる。
唯一高雄が誇っても良いであろうこととして、水泳が得意という点がある。それが原因になって、本来なら一生関わり合いにならないような存在こと和樹が高雄に興味を持って、それから友達になったという経緯があるのだが、学園の屋外プールが凍りつきすらする冬には縁遠い話である。そんな季節でも高雄がしばしばスポーツセンターの屋内プールに通っていることとか、時折それが本来泳げないライオンであるはずの和樹も交えてふたりになったりすることなどは、学校生活という表面上の部分からは知る由もないことだった。
何はともあれ、季節は巡って、ただ友達でしかない高雄と和樹が学校にいた。和樹がどれほど気軽に話しかけても、教室での高雄は基本、そっけなかった。
*
「──桂。桂? おーい」
「……あぇ……は、はいっ。はい、な、なんすか」
「おはよう、桂」
それから、どっと笑い声が教室を満たした。
今は──そうだ、授業中。二時間目の古文。
「桂が授業中寝るなんて、珍しいなあ。疲れてんのか?」
「はは、まあ、ちょっと……」
「ま、そういうこともあるよな。以後気をつけるよーに」
教師のふざけた調子の声が教室によく通ると、また笑い声が起こった。一度居眠りしたくらいではこれといったお咎めもないのは、和樹の普段の行いのおかげだった。ノートにはうねうねした線が描かれていて、そこによだれが垂れていないだけまだマシだ。
寝坊した日の朝に、気合を入れて家を飛び出した。寒空の下で頭がいくらか冷えて学校まで辿り着いたものの、閉め切った酸素濃度の低い部屋の中で暖房に当てられていれば眠気は容易く蘇ってくる。
授業では、和歌について教師があれこれ説明していた。
住の江の 岸による波 よるさへや
夢の通ひ路 人目よくらむ
平安時代では、自分のことを想ってくれている相手が、夢に出てくるのだと信じられていた、とかそんな雑学を添えて。
……まあ確かに、両親も祖父母も親戚も、自分のことをよく考えてくれているというのはそれもそうではあるけれど。和樹は、夢のことを考えた。ここしばらく自分の睡眠時間を削ってばかりいる、繰り返し見るあの夢についてのことだ。
夢を見始めたのは、冬休みに実家に帰省してしばらくのころだった。実家で起きたのは、ある種いつも通りのことで、純血のライオンの家系にありがちなプライドの高さを全身に浴びただけだ。和樹も立派なライオンの男子なのだから、将来は良い大学に入り、大企業に就職し、晴れやかな生涯を送るのだろうと冗談か本気かさっぱり分からない言葉を親戚一同聞かせてくるのも、慣れているはずだった。和樹の受け取り方が変わった理由には、和樹が高二の終わりに差し掛かって大学受験を徐々にリアルに感じるようになったことがひとつと、それから最近できた友達──ライオンとは似ても似つかないひ弱なネズミ──の影響が何かしらあったように思われた。
とにかく、今の和樹には大きな負担であったのだ。
強きライオンとしてかくあるべし、という周囲の目が。
*
「最近、よく眠れないんだよな。……嫌な夢ばっか見てさ」
「へー」
「へーって。興味ゼロか」
「や、だって、ごちゃごちゃ言いつつ結局悩み相談につき合わせるために誘ったのかぁと思って、ちょっとね」
「じゃあどういう内容で誘われたら嬉しんだよー」
「そうじゃなくて、悩み聞いてほしいなら最初からそう言えばってこと」
「はぁ」
その日の放課後、ふたりで学校近くの街をぼんやりと散策して、適当に公園のベンチに腰掛けた。
高雄は、根気よく声を掛けたらしぶしぶついてきてくれた。やはり周りにほかの生徒ものある教室より、ふたりだけで出かけている時の方が高雄はいくらか素直に話してくれる、と和樹は思った。
「それで、どんな夢」
「なんか、親とか親戚がいっぱい出てきて、そんでみんなの頭がぐわ~って膨らんで、それで狭くてウワ~ってなる。声とかもうるさくて」
「変なの。原因はわかるの?」
「これかな、みたいなことは」
和樹は、冬休みのことをぽつりぽつりと語った。
そのことを誰かに話したのは、これが初めてだった。周りのあっけらかんとした上位な友達たちに話すよりも、プールの水気なりでじっとりしていそうな高雄にこそふさわしい気がした。
「うわー、ライオンの群れ意識って感じだ。プライドめっちゃ高いやつ。ほんとにあるんだ」
「ひどいこと言うなぁ。まぁ、それが正直、今はプレッシャーになってんだろうなと」
「やばいね。気にしなきゃいいのに」
「まあ、な。でも困るのが、みんなの言うことも正しいっちゃ正しいからさぁ。受験とか、がんばんないとだし。……高雄って志望校どこ?」
「まだ決めてない。和樹くんは?」
「俺、棟桜」
「うわやっば。ド名門じゃん。東京だし」
「従兄も棟桜なんだって。学力的にも十分目指せるって先生も言うし。はぁ……」
より上へ、より大きな夢を抱いて、より未来へと羽ばたく。その部分が否定できないからこそ和樹は行き詰っていた。一方で、そういうものと高雄は全く無関係なところに位置している。
「なんか最近、高雄といると安心するよ。」
「へえ、なんで?」
「んー、なんでだろ。やっぱ高雄、落ち着いてるからじゃないか」
「そうなんだ。あれかと。僕のこと下に見てるからだと思った」
「ん……?」
高雄が言ったことの意味を理解できなくて、和樹は一度口を閉じて、首をかしげる。高雄はつまり、自分を見下すということについて話しているのだと理解すると、愕然とした。
「……は、はぁ⁉ 急に何言ってんだっよ、んなわけないだろっ」
「だってさ、僕がネズミだから、圧倒的優位に立てるに決まってるから……だから余裕でいられるのかなとか。そうなのかなって」
「そんなん関係ないしっ。あのなぁ、お前っ、そんなこと言ったら流石に怒るぞ。高雄が自分で自分を悪く言ったことに怒る!」
「ごめんって。ちょっと思ったから言っただけだよ」
「お前マジ卑屈すぎ。俺の友達なんだから、そんな風に思うこと、ないし……」
……本当に?
「まあそれなら、変なこと言ってごめん。嫌な夢、見なくなるといいね」
そんな、投げやりな。
高雄がいつだって、悪気があって話しているわけではないのを和樹は知っていて、ひとまず胸を撫でおろした。それでも心にどこかとげの刺さった感覚がして、公園のベンチから、空を見上げる。冬だから、もう暗くなる。
──。
その日の夢には、これまでと変化があった。
高雄も夢に登場するようになったのだ。
しかし高雄は、さんざめくその他の夢の住民たちと違って、微動だにしない。親戚たちに覆い隠されそうな夢の風景の遠くから、ただ和樹を黙って見つめていて、やがて見えなくなってしまった。
……えー、なんで、んな遠くで見てんだよ。
もっと、こっちまで来りゃいいのに。
あれか。
やっぱ、ライオン苦手か。
ライオンばっかのとこ、来たくないのかな。
夢の通ひ路、ひとめが……なんだっけ。
高雄もそういう感じ、だったりすんのかな。
それからも、高雄が夢にちらほらと出てくるようになった。相変わらず高雄は少し遠くから何も言わずにこちらを見ているだけで……それともこれは現実のことか? いや、現実では、ちゃんと話せているはずだ。たぶん。この前のこと、ずっと気になってはいるけど。
寝つきは、完全に良いわけではないが、前よりはよっぽどよくなった。やっぱり、内容の如何によらず、高雄がそこにいるというだけで安心に近い感覚を覚えるようになっている。信頼の厚く、友達の多い和樹にとって、それとは一番真逆な高雄が、不思議と特別な友達になっている。それは誓って、侮りからくるものではないはずだ。
起きている間、教室で高雄以外の友達とワイワイと話している時も、視界の端にはひとりぼっちの高雄が見えた。いつだったかの、高雄との会話を和樹はぼんやり思い出した。自分の他の友達との遊びに高雄も誘うのはどうかと問うた時に、彼が微妙な顔をして言い淀み、それから控えめに否定したこと。高雄が社交的な性格ではないことを改めて認識して、その会話は軽く流したけど……今は、ちょっとだけ捉え方が変わっていく。
高雄と、ふたり。それはつまり、ひとりとひとり。
思えば最初に和樹が高雄に興味を持ったあの日だって、彼はただ、ひとりで泳いでいただけだった。偶然にそれを見つけた。
それがあまりにも美しくて、憧れたから──だから和樹も、泳げるようになりたいと思ってしまった。それから教えを乞うて、実際に水に浸かって、本当に少しは泳げるようになった。高雄と友情を育んで、ちぐはぐに言葉を交わして、プールじゃなくても時間を共有するようになった。ふたりで。
ライオンではない何かになることを望んで、今も和樹は歩みを進めている。高雄と出会った瞬間に、それは始まったのだ。
*
「おはよ、和樹くん」
「! ああ、おはよ」
「また眠そう」
今朝は、高雄の方が先に声をかけた。和樹があんまりにもぼーっとしていたからだった。あまり大勢いる場で和樹とやり取りをしたくはない高雄でも、いつもならあったはずの挨拶がなければ流石に気になるのだ。
「んー、まあ眠いというかなんというか……なぁ高雄」
「なに」
「プール行こ。今日でも今度でもいいけど」
「……あ、行く。じゃあ今日」
屋内の温水プールであっても、そこを抜け出した後の寒気が怖くて冬の間、なんとなく足が遠のいていた(少なくとも和樹にとってはそうだった)。そんなふたりの聖地への誘いなら、他の遊びの誘いと違って、高雄は絶対に乗ってくると和樹は分かっていた。話をするなら、やはりそこが一番いいと思った。和樹がもっとも、ライオンから離れられる場所であるからだ。
来るたび、ここは暗い気がする。それが屋内のプールというものの常なのだろうか。まず、ふたりは泳いだ。めいめいに、それでも互いに意識しあって。高雄は何メートルでも軽々泳ぐ勢いで、和樹はそのあとを自分のペースでだばだばと追った。夏のころよりは、それでもよっぽど上達していた。
いつでも体を吸い込んで殺してしまいそうな深く暗い水からふたりで上がって、横の長椅子で休憩した。公園と比べて、みなが勝手に泳ぎまくる水の音ばかりが響いて逆に静かで、何を話していても簡単には誰にも届かないだろう、というほの暗い安らぎがあった。和樹は不意に口を開いた。
「こないだ高雄が言ってたこと、まだ割と根に持ってる」
「なんか言ったっけ」
「俺が高雄のこと見下してるんだと思ってた、てやつ」
「そういえば、言った」
「すげー気にしてたんだぞ。そんで高雄がさ、夢に出てきた。めっちゃ」
「それでまた、よく眠れないとかいうわけ」
「ううん。前よか眠れるようになった」
「変なの」
水着姿で並んで座ると、ふたりの対格差がよく目立つ。背丈も足の長さも筋力も、何もかも和樹より矮小なネズミは、この場においてはむしろ和樹より優れたいきものだ。しかし水着を着て比較の対象になっていること自体、ライオンとしての和樹にとっては極めて特殊なことでもあった。
「あのさ。思ったことあんだけどさ。高雄はずっと、自分のことネズミネズミって言う。でも高雄はネズミじゃねぇ、レミングだろ」
「話、変わるなぁ。まあ確かにレミングではあるけど、そう名乗ることに意味ないと思う。からしてない」
「それは、種族の誇りへの意識がどうこうみたいな話?」
「んー、どう話したもんかな。レミングが一昔前、どういうイメージで見られてたか知ってる?」
「知ってる……つーか、高雄と仲良くなってから知った」
陰湿なことにこの世界には、様々ないきものたちに、それぞれ何らかの偏見があった。事実とデマがいろいろ入り混じって、例えばライオンは高慢に群れるとか、そういうものが。あまりに悪質なものは社会の努力で塗りつぶされたものの、レミングにもそれはあって、ネズミのくせに泳ぎを得意とし、自ら水に飛び込む姿こそが偏見のターゲットにされていた。
つまり水に飛び込んで、自死へと歩む、愚かな生き物。
「僕も、子供の頃に知った。そんなの迷信で偏見だって分かってたけど、でも僕はきっとその通りに当てはまってるなって思ったよ」
「……。それって、高雄は……」
「それでも今思うのは、種族がどうとかじゃないんだ、ほんとに。例えば僕がどれだけ死にたがってたとしても、それは僕の気持ちなの。種族のせいにされたら、えーと……めっちゃムカつく」
「死に、たいの、高雄は」
「例えばって言ったじゃん。だから、なんだろ。僕がネズミ的に憶病で縮こまったやつなのは認める──から、僕はネズミでいい。たぶん生まれつきだから。でも、そうじゃないことは違う。なんか死にたいなぁってなるのは、僕自身のものじゃなきゃ嫌なの。レミングって名乗らないのはそういうこと……って感じ」
「……うん、おおむねは、思ってた答えが来たからよかった」
「ほんとかな。何の話なの、これ」
「俺は、高雄みたいじゃないって話。俺はやっぱり、ライオンだよ」
水に濡れたタテガミも、自分では嫌いじゃない。しかしきっと多くのライオンにとって水に濡れるのは耐え難いことで、それを好むのは正気でないことだった。友達には話せても、家族にはなんとなく秘密にしている。プールに行っていること。
「俺って全然、ライオンであることが大事だ。いつもそのことばっか気にしてる。高雄は、たぶんライオン苦手だよな。なのに俺──」
あまりにも堂々と、和樹はライオンとして生きている。高雄は考え抜いてレミングではなく生きているのに、和樹は堂々と百獣の王であり続けている。
それが、相手への侮りでなければなんなのか。それなのに、高雄といると落ち着く自分の甘えはなんなのか。自分はどんないきものっとして、何を信じて生きるべきか──という壮大な人生の岐路が、突然生活に降って湧いた。
高雄の、答えが知りたかった。
「正直、そうかも。誰かといる時の君は、結構ライオンしてる。だから近づきにくいし、得意じゃない」
「だよな、俺……」
涙が出そうになる。それとも、こんなところで泣くのもライオンらしくないからといって抑え込むのかもしれない。
情けなくて不甲斐なくて、そんな気持ちをどうすればいいんだって嘆くことすら自分自身で封じ込めたような息苦しさ。それでいっぱいになって、そう、いっそ死にたくなるような悲しみにおぼれそうになる──その瞬間に。
「……でもさ。ふたりの時の和樹くんは、変なライオンだから好き」
「え、なに……変なライオン?」
「うん、変。ネズミと仲良くして、泳げるライオン。そんなやついない。それならそれでいいんじゃないの。和樹くんは世界で一番変なライオン、僕の友達の」
「変、か。俺……」
「もしくは、ライオンよりネズミに近づいてるのか」
「なんだそれっ」
悪気がなくて、本気で、ちょっとからかった声の高雄だった。その程度の言葉が、和樹にはちょうどよかった。涙が出そうになる。変なライオンだから、今度は抑えきれないかもしれない。抑えきれなくなる前に、和樹は動き出した。
たぶん、もう、悪い夢は見ないのだろうという確信が、夏の風のようにさぁっと心を巡る。和樹は立ち上がって、プールの方へ歩く。
「あれ、もっかい入るの?」
「ん。ほら、高雄も」
ひたすら泳ぐためのレーンとは別に、賑わってはいないが、ある程度自由に水遊びのできる子供向けコーナーもプールにはあった。和樹は高雄の手を引いて、定められたレーンから外れたその誰もいない水たまりに浸かる。
水底に背を向け、大の字になって、和樹は浮かんだ。高雄も真似をした。
「また話変わるけど。棟桜大学、目指すわ、俺」
「それは結局、そうなの?」
「周りの期待にもサッと応えて、そんであとは東京で気ままにひとり暮らし。ありかなと思ってさ」
「君がいいならいいんじゃない」
「高雄も、目指せよ。棟桜」
「なんで、やだよ、無理だし」
「高雄と同じ大学行きてぇよ、俺」
「僕の意見とかないの?」
「勉強なら教えるし」
「夢みたいなこと言って」
「夢だったら、現実にしなきゃ。大学でも高雄と一緒のさ、隣に居てもらわないと。そういう未来。欲しい」
「そっちの夢じゃなくてさぁ」
「だから、だからさ……。死ぬとか言うなよ……」
「それ例えだってば!」
「例えでもだろ……」
ああ、プールの高い高い天井が、滲んでどこまで高いのかもう見えない。だから目を閉じて、和樹は代わりに違うものを見ようとする。もっと幸せな夢を。耳の近くで高雄の声がする。
「じゃあもう、和樹くんの好きにすれば。一任するよ。僕のこと、どうにでもしてみて。ライオン流で、いい感じにさ」
「うん、する、していいなら」
「変なの。とことんまで、全部変だなぁ」
水面にぷかぷか浮かんで、和樹は夢想する。生命溢れる夏の夢だ。
今でも過去でもない時間に、ライオンでもネズミでもないふたりが、ここでもそこでもないあたたかな場所にいるのだ。そういう、夢。目をつぶったら本当に寝てしまいそうな暗さと揺らめきの中で。
それでも目を開けて、夢の外へ、もしくは夢のずっと向こう側へと出ていく。二度と戻れぬ今を後にして。
「上がったら、アイス食お」
「寒くない? あんまんがいい」
「じゃあそれで」
あんまり続きが思いつかないので、ひとまずここで完結かも。
なんとなく作者的に、二人はそれから同じ大学で日々楽しく過ごしているんじゃないかなと思います。ライオンもネズミもなく。




