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プラスのふたり

前作の寄稿からしばらくして、なんとなくで書いた続編。

「マジかぁ、お前…….。 マジかぁ……」

「なんだよその反応……」

 だってこういうの、教室の隅っこでジッとして るやつの方が勉強できるモンだろフツー。

 ……と、まで言いそうになったのを和樹は堪える。流石に失礼かなと思って。偏見すぎるし。 数学の問題集に手をつけ出した高雄は、数分間まっさらのノートの前でピタリと固まって動かなくなってしまっていたのだ。ところで、ネズミが理解を超えた現象に面したとき思考停止してピタリと動かなくなることに関しては、偏見とかではなく本当によくあることだ。高雄と何ヶ月かの付き合いでこればかりは和樹にもばっちり分かっていた。

「んー、じゃあ逆に、得意科目とかあるわけ? 数学は無理なんだろ?」

「現代文はまあまあ。勘で解ける。 言うほど得意ではない」

「良くない解き方だぞそれ。得意なの、他は?」

「水泳あるときは、体育の成績良くなる」

「それは関係ないじゃん」

 和樹は普段あんなに馬鹿っぽい喋り方をするの に、勉強はできるものなのか。百獣の王だなんて 言われるライオンのことだし、やっぱり頭もいいものなのか。

 ……そんなふうな考えを高雄は振り払った。もしかしたら和樹だって、必死に勉強してここまで至っているのかもしれないし。それを単に、そういういきものだからで流すのはあんまりだろう。

「和樹くん、いつも勉強頑張ってたりするの。塾行ったりとか」

「塾? いや全然。勉強はまあ普通にやってる程度って感じだけど……」

「うわー、やなかんじ……」

「ちげーよそういうんじゃない! んー、そーだなー、強いて言うならガキの頃、アレやってたかな。ほらあの、毎月家にテキスト届いてさぁ」

「通信教育的な」

「そう、それ的な。それはやってた。最初は付録のおもちゃ目当てだったんだけど、だんだん普通にちゃんとテキストも使うようになってきて」

 高雄はやんわりと頭の中で前言を撤回したくなる。通信教育を毎月きちんとこなせるのは、生まれつき勉強ができるようなやつなのではないのか。


 図書室でこんなふうにコショコショと話しながら勉強していても、咎められることも特にない。図書委員のお目溢しを貰っていた。自習室代わりに使って良い図書室でも、まだあまり利用者が多くないのだ。誰も秋の中間テスト勉強に本腰を入れていないから。

 和樹が高雄に声をかけたのだった。秋風がころころ落ち葉を運び始めるような日々のとある放課後に、「図書室でテス勉しようぜ」。高雄が話を聞くに、同様の提案を友達に片っ端から断られてきたらしい。というのも、「まだ始めるには早いから」とのこと。それは高雄もそう思う、が、和樹もふざけて言っている様子ではないらしかった。 ガチなのだ、彼は。本気でこの時期から勉強を始めようとしているのだ。和樹はそんなに成績に危機を感じているのかと、高雄は早合点してしまった。

 和樹と高雄が仲良くなったのは主に夏休みの間のことで、それ以前はお互いほぼ眼中になかったので相手の成績の良し悪しなんて詳しく気にしたことはない。和樹はなんとなく高雄が、高雄はなんとなく和樹が、それぞれ自分と同じような学力だと自然に思い込んでいたらしい。

 その結果、和樹が嫌がる高雄に勉強を教えるだけの不思議な会が発生したのである。

「はぁー。勉強へのモチベーションとかどうやって出すのって感じ」

「そりゃ、付録のおもちゃ」

「そんなものはない」

「だから、おもちゃ的な感じで自分で楽しみを見出すんだぜ。 例えば俺はよく、テストの後はめっちゃ遊んだりゼータクしたりとかすんの。テストというマイナスに楽しいプラスのことをぶつける。 プラマイゼロ」

「んん……僕には結構きびしい。テストのマイナスが大きすぎて」

「そんなにぃ~? プール行くとかは?」

「それはいつもやってることでしょ……。 むしろテストのせいでプール行きにくいんだから、モチベ下がりまくり」

「そっかぁ。あ~~、じゃあ俺がラーメン奢るとか、どうだよ。大盛りにトッピングもなんでもアリ。ほら好きだろメンマ。メンマ盛り盛り」

 さも名案だぜー、と言うふうにニコニコしている和樹。高雄は思い出す。最初はアイスを奢られた。普通盛りのラーメンなら奢られたこともある。 よく分からないタイミングでお菓子や飲み物を寄越してくることもしばしば。

 高雄は呆れて、そのままに苦言を呈する。

「和樹くんはさー」

「うん?」

「なにかと奢りたがるよね。体育会系のコミュニケーションって感じ」

「良いだろ別に、奢られてハッピー、奢る側も割とハッピーなんだぞ」

「あんまハッピーじゃない。 僕は奢られるの、実は結構気遣う。和樹くん、僕から何か返そうとしてもめちゃくちゃ抵抗するし……なんなのアレ」

「別に見返りがほしくて奢ってるわけじゃねーし」

「それが困るんだけど……。というかちょっと、 そういうのよりは、もっと普通にテスト明けふたりで遊びに行こうとかのがよっぽど嬉しい」

 あ、と思う。口にした後に高雄は後悔する。調子に乗って踏み込んだことを言いすぎてしまった気がする。和樹が気を悪くしなければいいが。 すると和樹は、

「……ふたりじゃなきゃ嫌? 俺ん他の友達といっしょとかだとダメか?」

 考えてたのと違う返事が来る。気にするの、そこなのか。

「それは……えぇー、うーん……ど、どうしよう。人による、かなー。ううーん……」

「すげー微妙そうな感じじゃん。じゃ、まー今度はサシでいっか。いいぜ遊ぼうぜ。どーする? カラオケとか行く?」

「決めんの早すぎ。……カラオケ、行ったことない。な、なんかヤな感じするなあ。 誰かの前で歌うとか、ない。無理かも」

「だーからサシなんだから良いだろってんだよ、ごちゃごちゃよう! 行くぞカラオケ! な!」

「あんまり僕にプラスになってないんだけど……」

「なるなる! ぜってー楽しいって、決まり決まり! さ~勉強がんばるぞ〜」

「えぇ……」


 まだまだ何週間も先の予定が埋まった。 高雄にとっては陰鬱な中間テストに被せて、曖昧で楽しいのかもよく分からない予定が。 楽しいものにな るといいと思いつつ、そんなに期待したくない気持ちもあったり。

 テストの日は存外すぐにやってきた。 和樹は普段通り良くできたとか、高雄は数学以外は若干上手く行ったかもとか悲喜交々ありつつも、返却される点数の恐怖から逃げるようにしてふたりはカラオケボックスに逃げ込んだ。

 しかしそこでも点数に追われるのには変わりないようで、和樹は嫌がる高雄を振り切って採点機能をオンにした。

 歌に関しては、高雄の方がよっぽど点取り屋だったようだ。

 入室からしばらくしてお互い歌い慣れた頃には高雄は最高97点、和樹は79点。 和樹はといえば高雄にもっと腹から声を出せとうるさく言い続けたが、機械に曰く声の大きさばかりが歌声の良さではやはりないらしい。 テクニックや精密さの面で高雄はモリモリと加点を稼いでいたのだった。

「ちくしょー負けた! 俺の分のピザひときれやるよっ!」

「だからいいってそういうの……」

頭数が一足す一ならピザの枚数は二分の一。 そこは減っているけど、何か別のところで何か別の良いものはプラス一程度増加しているかもしれない。

 案外デュエットだと百点取れたりして、なんて和樹が適当なことを言って、そんな簡単な仕組みじゃないでしょ、って高雄は呆れた。

 趣味の異なるふたりが一緒に歌える歌が特になかったから、実際どうなるのかの結果は出なかった。ひとり足すひとりの点数はまだ保留のまま。 それでも、簡単じゃなくても、せっかくなら、 97よりも……あるいはせめて79よりも。ふた りで歌って、何点かだけでもプラスの高い点が出たら、ちょっぴり嬉しいかもしれない。と思う高雄は、利用時間終了の数分前に最後のアイスティーを飲み切る。和樹の唸るみたいなシャウトを聴きながら。

 たまにはこういうのも悪かないだろとでも言いたげに、途中和樹はチラリと高雄を見た。高雄はそれに反応して、ちょっとだけ乾いた笑みを浮かべた。


これといった後書きとして書くアレはないですが、ふたりの友情はこれからも続くぞといった感じ。

のんびり日常パート。


さらにまたふたりの関係がちょっと変わる続編が、furry研究会部誌12号に掲載されています。

そっちの無料公開はまだだいぶ先なので、買って読むといいんじゃないかな。たぶん。

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