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第五話 

翌日、ミオとゴルドは夜明けと共に出発した。


エレシアの話によれば、エコーズディープにはこの地域一帯を管理するエルフの貴族がいたはずである。


彼の安否は全くもって不明であるが、原因究明のため、ひとまずはくだんの貴族が根城にしていたという城砦を目指す。


ミオたちは半日かけて歩きに歩いた。


ベネテラの季節は晩秋。渓谷であるエコーズディープには寒風が吹きすさび、体の芯から震えるような寒さが二人を襲う。


途中、この地に生息していたであろう、鹿や野鳥、そして幻獣の死体に幾度も遭遇した。


その死に様は一様であった。皆、抜け殻のように大地に倒れている。


恐らく、喉に詰まらせたのだろう、口元には吐しゃ物がぶちまけられており、悲惨極まるその光景は、ミオとゴルドに事の深刻さを伝えるには十分すぎた。


「このざまじゃあ、エルフの貴族様はとっくの前にくたばっているだろ」


道すがら、横を歩くゴルドがこぼした一言にミオも頷く。


「私もそう思う……そう思うけど、彼は仮にもエルフの貴族。もしかしたら、魔法を使って生き延びているかもしれない。この目で確かめないと」


「貴族だけが使える「上位魔法」か。俺はその線も薄いと思うがねぇ」


言いながら、ゴルドはため息と共に顔を上げた。


数日前まで澄み渡っていたベネテラの空は、もうもうとした煙のような雲に覆われ、灰色に染まっている。エコーズディープ付近に到着してから、空はずっとこの調子だ。


今の行き詰った状況を反映したかのような空模様に、ゴルドが苦笑いした時のことである。


周囲から発せられた複数の気配に、二人は表情を一変させた。


総じて、三人。もしくは三匹だろうか。姿こそ見えないが、明確で一方的なその敵意は、鋭利な針のように肌を刺す。


二人の周囲には殺風景な景気が続いていた。脇を流れる河(ベネテラ民からはセレナ河と呼ばれている)があるのみで、付近には、およそ姿を隠せるような場所はない。


故に、敵意の発信源は絞られるわけで、ミオとゴルドは己の得物に手をかけながら、河の方へと視線を送った。


直後、穏やかな流れを形成していたセレナ河で、水飛沫があがった。


ミオが腰元のホルスターから素早く拳銃を取り出し、即座に撃発。弾丸は見事、飛びかかってきた影の内、一つに直撃する。


しかし、同時に姿を現した「彼ら」は容赦なく二人に襲い掛かってきたため、ミオとゴルドは止む無く回避に徹した。


「ちっ、何の冗談だよ。こいつは……」


間一髪、横っ飛びに飛ぶことで避けたゴルドが、その敵を正視して眉を顰めた。


河から奇襲をしかけてきたのは、何も水生生物ではない。理解に苦しむが、二人の目に映ったそれは間違いなく、エルフの姿であったのだ。


「恐らく、サン・ルーの歌を聞いて狂ったエルフが、河に落ちて溺死したんだと思う。でも、これはきっと……」


「ああ、言わなくても分かるぜ。溺死したはずのエルフが、こうして動いている。それはつまり、怪鳥の歌からは死んでもなお、逃れられないってわけだ」


信じ難い仮説だが、二人の頭の中ではその答えがしっくりきた。七災魔、サン・ルーの歌には、死に至った者にすら、影響を及ぼすだけの力があるのだと。


かく言う間にも、残り二匹のエルフは、それぞれミオとゴルドに襲い掛かる。


その動きは生前のエルフのような気品のあるものではない。ひどく遅く、鈍く、さながら、ゾンビのような足取りの相手に、二人が後れをとるはずはなかった。


ミオは容赦なくエルフの額を拳銃でぶち貫き、またゴルドは手にしていた短剣でもう一体のエルフの頸動脈を切り裂いた。


鮮やかな早業を目撃した者は、惜しいことに二人を除いて誰一人としていない。


「サン・ルーの歌の力については知っていたつもり。だけど、死者を操ることができるなんて聞いてない。私たちの知らない力がまだあったなんて」


「予想外だな。状況は俺たちが思っていた以上に深刻らしい。ひとまず、奴らの死体から情報を得たいところだが——」


刹那、再び河から上がった水飛沫がゴルドの言葉を遮った。


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