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第四話 

「何かあったのか?」


馬車が停止したことに違和感を覚えて、ゴルドは前にいる御者に訊ねる。手綱を握っていた中年のエルフ(なんと五百歳)は、おどおどした調子で振り返った。


「……その、あれを」


御者は前方を指さす。ゴルドが荷台から身を乗り出すと、エコーズディープへと繋がる道の上に、生き物の死体が横たわっているのが見えた。


ゴルドは馬車を飛び降りた。とことこ歩いていくと、死体の正体がやがて、はっきりする。


「こいつは、ひでーな」


鼻が曲がるような腐臭に、ゴルドは顔をしかめた。


それはグリフォンの死骸だった。


グリフォンはベネテラに生息する幻獣、その中の一匹である。


頭と前足は鷲のそれでありながら、胴体はライオンに似ているのが特徴。黄金を収集する特性があり、金貨を輸送している馬車を襲撃したという事件は、この世界ではよくあることだ。


また、その生物としての造形美に心奪われる者が多かったのか、グリフォンは時として神聖視されることが間々あった。主にその多くがエルフ族であったと言えるだろう。


ただ、ヒト族の帝国ではグリフォンを運搬用に使役したり、戦争に駆り出せさせているのだから、エルフたちの恨みを買うのも無理はない。


そんなグリフォンだが、住処の一つがエコーズディープ周辺に存在した。


かの渓谷を歩いていると、時折、グリフォンの甲高い鳴き声が聞こえてくるという。


それは、旅人のバッグに潜んでいる金貨を嗅ぎ付けて喉を鳴らしているのか、あるいは、仲間を呼び、旅人の血肉を貪ろうと企んでいることだろう。


さて、エコーズディープに生息するそんな生き物が、今、ゴルドたちの道すがら現れた。それも、死体という変わり果てた姿で。


それはつまり、エレシアの話を裏付けることになる。


「当たりね。やっぱり、サン・ルーがいるのかも」


ゴルドがグリフォンの死体を横目で眺めていると、後ろからミオがゆっくり歩いて来た。


「その死体には外傷が見当たらない。恐らく、例の怪鳥の歌を聞いたのかも。いずれにせよ、これで私たちも信じないわけにはいかなくなった」


「おめーも、そう思うか。やっぱりこの依頼、一苦労しそうな予感がプンプンするぜ」


やれやれとため息をついたゴルドは、グリフォンに向かって一つ祈りを捧げると、馬車の方へと駆けた。御者に詳細を伝え、別のルートから目的地を目指すことを提案する。


やがて、方向転換を始めた馬車に乗り込んだ二人は、再び荷台で揺られることとなった。


彼らが無事、エコーズディープに到着したのは、グリフォンの死体発見から二日後のことである。


・・・


夜。エコーズディープに到着したミオとゴルドは、御者をミスリルウッドに帰らせた後、焚火を囲んでいた。夕飯はゴルド特製の牛の串焼き。道中、立ち寄った牧場から購入したものだ。


「おうおう。何だよ、銀の魔弾ともあろう勇者が緊張してんのか」


ミオが眼前に広がる峻険な渓谷を見つめていると、食事の後片付けを終えたゴルドが声をかけてきた。ミオは一瞬振り返ったが、無言で視線を前へ戻す。


「確かにオメーは勇者の中でも頭一つ抜けてるが、あの七災魔が相手じゃ、さすがに分が悪いか。あいつらとは何度戦ったんだ?」


四回。ミオは小さく答えた。


「四回のうち、三回は洗心フォーセルとの戦いだった。逃げ足の速い奴だったから、何度も仕留め損ねたけれど……。あとの一回は、大蛙のロマ。それも、長くは戦えなかった」


ミオは淡々述べた。過去にあったつまらない経験を話す老婆のように。


「洗心フォーセル。例の教祖を気取っている野郎か。たしかに、他の図体のでかい七災魔に比べれば、よっぽど倒しにくい存在だろうよ。それで、ロマのガマ公とは何があったんだ?」


一瞬、ミオが小揺るぎするのがゴルドには分かった。彼女がこれから口にする事実が、あまり良いものではないと悟り、彼は少々後悔する。


「ロマの討伐戦が始まった直後、私の仲間の勇者が一人死んだ。当時、そこには六人の勇者がいたけれど、一人欠けたことで戦線は早々に崩壊。すぐに帝国軍の撤退が始まった」


「即死? 勇者が? いったい何があった」


帝国に召喚された勇者。彼らの大半は魔を祓う力を持った存在だ。


その力をもってすれば、下位の眷属など相手にならない。中位なら同時に三体。上級なら一対一で互角に戦うことが可能なはず。


しかし、その勇者が瞬殺されたとミオは言う。


帝国の切り札である勇者。その最後がどのようなものであったのか。ゴルドはミオの答えを静かに待つ。


「単純。突然、霧の中から現れたロマが、仲間の勇者を丸呑みしたの」


ゴルドがゴクリと唾を飲み込む。ミオは構わず続けた。


「七災魔は理不尽の権化。私並みに戦闘経験のある勇者でも、最低五人はいないと勝ち目はないと思う。あいつらは、そういう存在」


ミオは、やはり淡々と言葉を重ねるのだった。夜空を見上げ、どこか遠くに思いをはせている。


ゴルドがそれ以上問い詰めることはなかった。いや、彼にはできなかった。


これから相手にするかもしれない存在、七災魔。


その恐るべき存在についてこれ以上知ってしまえば、間違いなく、自分は恐怖してしまうだろうという確信があったのだ。


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