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第一話 

「それで、帝国の護送馬車を襲撃した後、後始末に悩んだ末に、ここへ来た、と」


その声、そして話し方は、一国の王女のような確かな気品さを感じさせるものであった。


ここはエルフ族の住まう森ミスリルウッド。


エルフの領土かつ、首都であるこの森は、一族の中でも、とりわけ身分の高いものだけが住むことを許された神聖な場所だ。


この森が神聖視されているのはなぜか? 理由は二つある。一つは、国の機能の大半がこの場所に集中していること。二つ目は、この地に根差す巨大な大木、『エリオスの心臓』の存在だ。


ベネテラに漂う魔力の大半は、エルフたちが神も同然に崇めるこの大木から生成されている。


また、エリオスの心臓の近くに所在するミスリルウッドには、ひときわ濃度の高い魔力が流れており、高度な魔法を使用するためには、この地が最も適しているのだ。


そのミスリルウッドの南端。首都から少し離れた場所には貴族御用達の庭園がある。


種々の花が咲き乱れる広大な花畑。その中心には、無人島のように佇むガゼボがあった。


ガゼボとは、ようは貴族たちがお茶をするために居座る建物のことだ。花畑の景観を楽しめるよう建物に壁はなく、支柱と屋根のみがある。


さて、そんなガゼボの中心には白色の丸テーブルがあり、それを挟む形で二人の人物が向かい合って座っていた。


一人は女性であった。金色の髪に、その間からピンと横に伸びた長い耳。穢れを知らぬ純白の肌。


それは、まるで一幅(いっぷく)の絵画のような、まさに完成された美であった。


エルフ族。ベネテラに生きる五つの種族の内の一つ。その中でも王族の一人である淑女、エレシアは、向かい側に座る人物の話を聞いて、あからさまにため息をもらす。


「……はあ。何度も言っていますが、私たちエルフは基本的にヒト族を嫌悪しています。それは、ヒト族と瓜二つの勇者も例外ではありません。そんなこと、分かっているのでしょう、ゴルドマール王」


「おいおい、その名前はよしてくれ。むずがゆくなる。いつも通りゴルドって呼んでくれよ」


呆れながら言う女性に、緑色の生き物、もといゴルドは肩を竦めながら答えた。


「では、ゴルド。はっきりと言っておきましょうか。ヒト族の……いや、帝国の馬車がこのエルフの領土にあるということが問題なんです。この事実が露見した場合、最悪、種族間の戦争に発展しかねない。今、そんなことが起きたならば、ベネテラに待ち受けているのは破滅の未来ですよ」


「それは分かってる。……けどよ、裏切り者の勇者、ましてや異界から来たアイツが頼れるのは、お前しかいないんだ。知っての通り、あのガキは被害者なんだからよ。少しは斟酌(しんしゃく)を加えてもいいんじゃないか?」


言葉に詰まったエレシアは低く唸った。ゴルドの言葉に、少なからず思うところがあったからだ。


勇者。それはある日、突如としてベネテラに現れた。


彼らはヒト族の国、帝国によって呼び出された異界の者である。よその世界から強制的に召喚された彼らは、ヒト族と同じ見た目をしており、詳細は不明だが、特別な力を持っているらしい。


彼らはこぞって七災魔との戦いに身を投じた。いや、戦わざるをえなかった。


帝国は召喚した彼らに、七災魔、それとその眷属であるクリーチャーたちと戦うことを強いた。逆らえば元の世界に戻ることはできない、そう脅したのだ。


故に、勇者らは己の意思に関係なく、怪物たちと戦わなくてはならなかった。例え、死者が出ようとも、帝国はまた新たな勇者を呼び出して戦力とした。そうして戦いは今なお続いているのである。


クズどもめ。滅んでしまえ。


育ちの良いエレシアですら、話を聞いた時にはそう思った。


その反応は、エルフ族だけに限らず、他の種族でも(おおむ)ね同じであった。下劣な生き物というレッテルを張られたヒト族は、当節(とうせつ)、どこの種族からも忌み嫌われている。


それだけに、被害者といっても過言ではない勇者たちに同情しないかと言えば、きっと嘘になってしまうだろう。


「……はあ、分かりました。今回は私の方で何とか処理しておきます。馬車の中身についても、例の場所に運べば問題ないでしょう。……ですが、それに見合うだけの仕事はしていただきますよ」


「わりーな。毎度、苦労かけるぜ」


「全く。少しは反省してくださいね。私、いつも大変な思いをしているんですから」


へいへい、といい加減な返事をするゴルド。その態度から改心する気配が微塵も感じられず、エレシアは再び大きくため息をもらす。


そこで、ふと気が付いた。


「ところで、彼女はどこに?」


エレシアの問いかけに、ゴルドは至極つまらなさそうに答えるのだった。


「ん? ああ、あいつならいつもの場所だよ」

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