第四十話
ミオは慣れた動作で素早く双輪刃を放つ。
二つの刃は弧を描くようにして血喰い鸚鵡の群れの中に飛び込んでいった。
直後、ほとばしる鳥どもの鮮血。
ユウヤやゴルドにたかっていた血喰い鸚鵡を双輪刃は容赦なく切り刻んでいく。
なまじ数が多いだけに面白いように血煙があがった。
たった一閃で三分の一を両断した双輪刃は本来であれば、物理法則に従って地面に落下してくる頃合いだった。
しかしどうか。
数多の鳥どもの命を奪った得物は、奇妙な軌道を描いて再度、血喰い鸚鵡どもに襲い掛かる。
まるで爆撃を終えた戦闘機が舞い戻るかのように、空気を引き裂く音と共に迫る凶刃。
異常を察した血喰い鸚鵡たちは散開していく。
だが、逃げ回るその背中を追尾するように二つの刃は高速回転を続けて獲物を狩り続けた。
「……なんで。あの人は銃の霊魂器を使っていたはず。二つ目の霊魂器を持っているはずがない」
その異様な光景を目にしていたサキは茫然として呟く。
彼女が困惑していたのは、空を縦横無尽に駆ける双輪刃に対してではない。
確かにそれも信じられなかったが、それよりもミオが二つ目の霊魂器を使用していることに驚きを禁じ得ないのだ。
あの武器は霊魂器ではないのか?
そうとも考えた。しかし、その可能性はないと即座に否定した。
サン・ルーの眷属を易々とほふる二つの刃。あれが通常の武器であるはずがない。
「あの女……やっぱりただ者じゃねえ。同じ勇者でも根本が違う」
「ユウヤさんッ!」
しおれるような声にサキは振り返る。
そこには全身を血で着飾った少年の顔があった。野鉤子の能力が解けてしまったようで人の姿に戻っている。
ミオが血喰い鸚鵡を追い払ったことで、地獄のような猛攻から解放されたのだ。
「俺が前にした話を覚えているな。……あいつは、俺が初めて戦った時にも銃とは別の霊魂器を使ってやがった。それはあの双輪刃とも違う。これで奴は、少なくとも三つ以上の霊魂器を所持してることになる」
「三つ。そんなことが……?」
サキは愕然とした表情のまま視線を上空に戻す。
相変わらず、二つの双輪刃が空を逃げ回る鳥の群れを迎撃していた。
今また、研ぎ澄まされた切っ先が敵の肉に食らいついていく。
ミオの手を離れてから一度も地上に落ちていない二つの刃。
それらは情け容赦なく血喰い鸚鵡たちを狩り殺していた。鳥の群れが全滅するのも時間の問題に思われた。
サキは視線を地上に戻す。
ミオは空を見上げていた。何をするでもなく、己の得物が敵の命を刈り取っていく様を眺めている。
しかし、サキの目には彼女が何か極度に集中しているように思えた。
念じている、とでも言うのだろうか。
ただ空を見上げているだけにも見えるが、目を細めて神経を研ぎ澄ませているようだ。
様子から察するに、あの双輪刃は彼女の意思によって動いているのだろうか?
「なるほど。あの霊魂器は念力に似た力で空を飛び回っているんだろうな。制御しているのは所有者であるあの女ってところか。これはチャンスだ」
サキと同じ考えに至ったのか、青白い顔をしたユウヤがミオを睨んで言う。
その表情からはわずかにだが、闘志のようなものが感じられた。
「ユウヤさん、今はいいでしょう。とにかく、まずはここから逃げることを考えないと。アザミさんは私を守るために能力を使い切って気絶してます。それに、あなただって……」
無防備なミオに向かって今にも飛び出していきそうなユウヤを、サキが慌てて制す。
「……確かに、あんたの言う通りだな。惜しいがここは逃げることに専念するとしよう。幸い、敵の意識はあの女に集中しているからな」
ユウヤも流石に無理があると判断したのだろうか。
肩口にできた裂傷を気にする素ぶりをみせながらも、彼は周囲の様子を伺いながら言った。
その時だった。
けたたましい咆哮が少し離れた場所から耳朶を打った。
「なんだ?」
両耳を押さえていた一同の視線が、ある一点に集約する。
そこには今まで静観を続けていた狂騒鳥が、厳しい目つきと共に雄叫びのような声を上げているではないか。
「……流石に奴も黙ってねーか。何か起きる前に早く」
と、ユウヤはアザミ抱えて走り出そうとした。
しかし、彼が行動に移すよりも先に異変は起きた。
彼らの足元が、正確には周囲の地面が突然崩落し始めたのだ。




