第三十九話
「ユウシャ、エサ。ニク……タベル」
初めは一人の帝国兵の声だった。
感情の起伏というものがまるで感じられない平坦な声音。
それがミオの耳を揺らした瞬間、赤きオウムたちの視線が一斉に彼女に注がれる。
「「「ユウシャ! ユウシャ! コロセ! コロセ! ユウシャコロセ!」」」
血をすすっていた血喰い鸚鵡たちは途端に大合唱を始めた。
頭の中にきんと響く嫌な声だった。
それが土砂降りのように浴びせられるのだから、アザミたち勇者やゴルドはすくみ上ってしまう。
「畜生がッ! 忘れていたぜ」
両手で耳を塞ぎながら、ゴルドは血喰い鸚鵡の特性の一つを思い出していた。
奴らの能力、それは死者の血を吸うことでその者の声帯を模倣できること。
力なき彼らは奪った声を用いてヒト族をおびき寄せたところを集団で襲いかかる。
一匹だけなら取るに足らない存在だが、群れとなれば非常にやっかいな敵だ。
そんな中、ミオだけは動じることなくトリガーを引いていた。
甲高い発砲音に血喰い鸚鵡の群れはたちまち三々五々に散っていく。
反応がおそかったのか、取り残された一匹だけは哀れにも弾丸の的となるのだった。
「ミオ、空から来るぞ!」
ゴルドが叫ぶとともに、空に散開していった血喰い鸚鵡らが一斉に滑空を始める。
恐るべき速度だった。放たれた矢のような素早さで獲物へと肉薄する。
弾丸のように降り注ぐ血喰い鸚鵡を前に、勇者たちのとれる行動は限られていた。
例の黄金の鎧を身に纏うゴルド。
彼は同時に出現した盾をもって守勢に入った。
迎撃する余裕はない。守りに専念し多少の傷を負いながらも何とか無事でいる状態。
一方、ユウヤはサキとアザミを庇うため再び野鉤子の姿へと変わる。
既に満身創痍の状態だが、それでも身を挺して二人を守る壁となった。
そこに次々と襲い掛かる血喰い鸚鵡の群れ。獣の悲痛な叫びが渓谷にこだまする。
「ユウヤさん! 無茶です。いいから自分だけでも!」
肉を貫く音を耳にしてサキが悲鳴にも似た声でユウヤへ叫ぶ。
それでも彼は動かなかった。盾の役割に徹し、両膝をつきながらも倒れなかった。
はたしてミオはどうか。
彼女の両手に既に二丁の拳銃は存在しない。
そこには、代わりに二つの双輪刃が握られていた。




