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第三十七話

土煙が晴れた先には、小柄で華奢な少女が凛然として立っている。

 

両手に握られた銀色の拳銃。その色をそのまま髪に塗りつけたかのような銀色の髪。

 

先日、アザミとサキを追いつめた裏切りの勇者の姿がそこにはあった。

 

「とうとう来やがったわね、銀の魔弾ッ!」

 

アザミは前方を見やって吠えた。


戦闘の疲労が残っているにも関わらず、その瞳には憎悪の炎が燃え盛っている。

 

「やめろアザミ。アイツは普通じゃねぇ。サキを連れて今すぐ逃げろ!」

 

一方、地面に叩きつけられていたユウヤは、感情的になっているアザミを制すように呼びかけていた。


日ごろの飄々とした態度が嘘のようだ。今は鬼気迫った表情でアザミに訴えている。


彼は野狗子の能力が解けてしまっているのか、普段の人間の姿に戻っていた。


衣服はズボン以外全て引きちぎれており、露出した肌には無数の銃創が見受けられる。


そこから溢れる赤い血は相当な量が流れ出ていた。


苛烈な戦闘があったことは容易に想像できる有様だ。


それが一方的な戦いであったということも。

 

「障壁を張れる勇者、か。この前は仕留め損ねたけど今日は違う。三人とも葬る。それとも、私たちの仲間になる決意が決まった?」

 

そよ風のような凛とした声でミオは言う。

 

次の瞬間、銀髪の少女は一呼吸の間にアザミの眼前に現れた。

 

アザミが瞬きをするまではミオの姿はまだ数百メートル先にあったはずだ。


しかし、彼女の立っていた地点があたかも一瞬ですり替わったかのようである。


動きの予備動作があったことすら感じさせない。

 

超人的な芸当にも関わらず、さもそれが呼吸の一部であるかのように、氷の表情に変化はなかった。


アザミとってはその面構えが気に食わない。

 

「死んでもお断りよ。あんたみたいなクソガキの下で働くなんてね」

 

「……あなたたちがこのまま帝国にいても、いつか死んでその死体を利用されるだけ。けど、監視の目が届かない今なら帝国の魔手を逃れることができる」

 

言いながら、ミオはアザミと視線を合わせていない。

 

その場にいる三人、すなわちユウヤとサキを含めた全員へ投げかけるように、周囲をぐるりと見回しながら言う。

 

はなから自分が相手にされていないという実感が、アザミの怒りの炎に余計に薪をくべる形となった。

 

「私は自分で判断する! あなたの言葉ではなく自分で見たものを根拠としてね。だから、その上から目線な話し方を改めなさいよッ!」

 

アザミは血相を変えて右腕に触れた。

 

障壁を生成させるためだ。しかし、防御のためではない。

 

ミオの両脇に壁を作り出すことで圧殺を狙う。


満身創痍のいま退路はないためだ。

 

だがしかし、右腕に焼けるような痛みが走った。

 

苦悶の表情を浮かべながらアザミは悟る。


先ほどの戦闘による能力の連発が祟り、霊魂器がオーバーヒートを起こしているのだと。

 

ミオはそれを予知していたのか、右手の拳銃だけを収め、悠然とアザミに歩みよった。

 

アザミは背負っていたサキを咄嗟に後方へと突き飛ばした。

 

少女の驚きの声が背後であがるが、彼女に振り返る余裕はない。敵は目の前に迫っている。

 

直後、アザミの正面にミオの顔があった。

 

反射的に殴りかかろうとするが動きは鈍い。容易くミオに左腕を掴まれる。

 

「歯、食いしばって」

 

ミオは流れるようにして言った。


言葉と同時にアザミの腕はひねり上げられ、肘関節を極められている。


その言葉の意味するところを直感的に理解し、アザミの体内で何かが冷たく走った。


「待っ——」


ばきっ。

 

小枝が折れるような乾いた音がアザミの腕から発せられた。

 

腕を通して全身に駆け巡る激痛。


まるで燃えているようだ。かつて味わったことのない疼痛にアザミは悲鳴をあげる。

 

「あなたは言葉よりも力で分からせる方が早い。……それで、どうする?」

 

少女のうめき声が雑音にしか聞こえないのか、ミオは表情一つ変えずに問う。

 

「ぁああああああああああああああああっ‼ このっ、このクソ女ぁあ。ぶっ殺してやるッ! 絶対に殺すっ!」

 

一方、アザミは絶叫とも怒号とも取れる獣のような声でミオを睨みつけた。


その両瞼からは洪水のように涙が沸きあがっている。

 

ミオの容赦のないユウヤとサキはただ茫然と眺めていることしかできない。

 

恐怖が彼らを支配していた。


先代の勇者を名乗る少女に畏怖の念を植え付けられた彼らは、絶対的な力を前に思わず膝を屈する。

 

それを見てとったミオが、左手に残した拳銃をホルスターに収めようとした時。


「——ミオ、上だ!」


くぐもった声が彼女の背後から飛んでくるのだった。


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