第三十話
それは遠い記憶だ。どれほど前の出来事だったかは覚えていない。
ベネテラに召喚され、右も左も分からぬまま勇者に祀り上げられた私たち六人。
年齢に多少の差はあれど、みな一様に少年少女と呼べる年頃だった。
私は——夜叉敷ミオはその中で最年少だったけれど。
『七災魔と呼ばれる怪物を全員殺す』
そうすることで、貴様たちは元の世界に帰ることができる。
皇帝は、そのように言った。冷えた風が漂う玉座の間でのことだった。
拒否権はない。というより、有無を言わせぬ威圧感が彼らにはあった。
私たちを召喚した帝国の人間たちは、表向きでは人畜無害な振る舞いをしていた。
だが、彼らが浮かべる笑みや言葉の数々には、どこか噓くさい感じがしたのだ。
幼い私の瞳には彼らが一層、胡散臭く映ったことだろう。大人よりも子供の方がよく見ているとは言うが、はたして、その読みは当たっていた。
王宮で鍛錬を続けていた、ある日のことだ。
同期の勇者である小柄な男が、ひどく青ざめた表情をして他の五人を自室に集めた。
彼は王宮の地下深くにあった書庫の中で、とある日記を見たという。
勇者には立ち入りが禁止されている場所だ。知られれば、ただ事では済まされない。
ただ、そんなことは彼が続けて話した内容を聞いて吹き飛んでしまった。
私たちがこの地に召喚された直後に与えられる指輪。
その翡翠色のリングには、所有者の位置を知らせる魔儀と神経毒が仕組まれている、と彼は言うのだ。
位置を知らせるだけなら分かる。勇者に万が一のことがあった時のためだろう。
しかし、なぜ神経毒などという物騒なものまでも備えているのか?
頭の出来の悪い私には見当もつかなかった。
『俺たちを殺すためだ』
別の勇者が言った。断言するような物言いだった。
『俺たちをなるべく綺麗な状態で殺すためだ。恐らく、最終手段なんだろう。位置情報は俺たちが逃亡した時のためのものだ』
場の空気が凍りついたのを今でも覚えている。彼の発言はあまりにも突飛すぎた。
彼は私が最も信頼している男だった。
六人の中では最年長。ぶっきらぼうな性格だが、面倒見はいい。沈着な性格もそうだが、なにより、同期の中で突出した強さを誇っていた。
彼は自分の過去を滅多に語らなかった。
灰色の経歴を持っているのは何となく分かった。それ故の強さであることも。
そんな彼に私は、全幅の信頼を寄せていた。
兄や姉がいなかったから分からない。
だけどきっと、私が彼に抱いていた感情は、親族へ向けるそれだったのだろう。
当初は鬱陶しそうにしていたが、彼もまた私のことを大切に思ってくれていたはずだ。
だからこそ、私は彼の言葉を信じたかった。
しかし、同時にその言葉を認めたくもなかった。
けれど現実は残酷なもので、私が望む都合の良い結果にはなり得ない。
彼の予想は的確に的を得ていたのだ。
解答を読みあげるかのように、小柄な勇者が声を振るわせて言う。
『僕たちはずっと欺かれていたんだ。ベネテラに召喚された時に与えられた霊魂器は先代勇者たちの死骸から出来ていたんだよ』
ひっ、と引きつった声を誰かが漏らした。
誰も声の主を探そうとはしなかった。
『僕らは七災魔との戦いに駆り出される。そこで死んだ場合、その代の勇者の死骸から武器が作り出されるんだ。その代の勇者が優秀であれば、さらに優れた霊魂器が作り出される」
それを後に続く勇者が使用するというのだ。
そうして、儀式は連綿と繰り返される。
今までも、これからも。七災魔が全て滅びるその時まで。
・・・・・
その晩から私はうなされるようになった。
勇者の真実を知った後、寝床についた時のことだ。
話が終わると、みな無言のまま与えられた自室へと戻っていった。
簡単に飲み込める内容ではなかったのだろう。
私だってそうだった。今でも信じたくはない。
悪夢の中でさらにひどい悪魔を見たようなものだ。
仮に逃げ場があったなら、全てを犠牲にしてでも逃げ出すだけの覚悟はあった。
今考えると、あれは幻覚だったのだろうか。
壁に立てかけた霊魂器から慟哭が、怨嗟の声が聞こえてくる。
この地に無理やり連れてこられ、無意味に死に、元の世界に戻ることすら許されない魂。
その無念が、怒りが私の正気を徐々に蝕んでいった。
他のみんなもきっとそうだったのだろう。
私たちは日に日に衰弱していった。
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それから数日後。
私たち六人は、ある決断をするのだった。
最期までお読みいただき、誠にありがとうございました!!
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