第二十八話
「確認だけど、霊魂器がどのように作りだされるかゴルドは覚えている?」
気が付くと、ミオは小石の上に腰を下ろしていた。どうやら話に本腰を入れるらしい。つられてゴルドもその場に座る。
ひんやりとした感触に不快感をあらわにしながら、彼は言った。
「ああ。確か必要なのは幻獣と勇者の死骸。その二つを混ぜ合わせることで、あの強力な武器は作りだされる……だったか?」
「概ねそんなところ。……けれど、幻獣の方は死骸でなくてもいいの。体毛や体液、爪。幻獣の体の一部であれば問題ない。言いたいこと、もう分かるでしょ」
「……つまり、帝国は方法こそ不明だが、偶然にも七災魔の体の一部を手に入れた。幻獣の素材の代わりにそれを使用することで、あの笛型の霊魂器を作り上げたってことか?」
「恐らく、ね」
ミオは目を閉じると、座ったまま洞窟の壁に身を預けた。ゴルドは天井を仰ぐ。
一拍の沈黙の後、静寂を引き裂くようにして口を開いたのは、しばらく押し黙っていたアランだった。
「そ、それは少し荒唐無稽な推測ではありませんか?あなた方もご存じの通り、七災魔がいた、あるいは通った大地は例外なく腐敗しています。とても危険な場所です。奴らの体毛などを手に入れるのは至難の業でしょう。その線は薄いのでは?」
彼の推測はもっともだった。
通称、絶死圏。
七災魔が活動したことによって荒廃した土地のことだ。
そこで生きていける生物はない。地は枯れ、根は腐り、正体不明の疫病が蔓延している。七災魔が地脈の
エネルギーを丸ごと吸いつくすためだ。
そのため、アランが言うように、絶死圏に入って七災魔の体の一部を入手することは難事業極まりない。
無論、七災魔と直接ことを構え、体の一部を手に入れたというのなら話は別なのだが。
「いや、そうでもないぞ。ミオの知り合いに帝国の間者がいるんだが、そいつから仕入れた情報によると、近頃、帝国の特殊部隊が遠征に出たって話がある。行先は不明だがな」
「では、その部隊が何らかの方法で例の物を手に入れた可能性がある……?」
「かもな」
ゴルドは曖昧に答えた。
彼らの疑念を嘲笑うかのように、洞窟内に冷たい空気が流れ込んでくる。
渓谷特有の肌を刺すような風だ。ゴルドは反射的に入り口の方へと視線をやった。
陽が差し込んでいる。どうやら夜が明けたようだ。
少しでも休みたいゴルドは、結論を急ぐように会話を再開する。
「んで、どうなんだよミオ。あの笛の霊魂器に宿っている能力は、どの七災魔のものなんだ? 俺はおおよその目星はついているんだが、テメーの意見も聞いておきたい」
「……私は、混沌たるサン・ルーのものだと睨む。霊魂器が笛型という点から察するに、音に関わる能力なのは間違いない。そうなると、自ずと候補は絞られるから」
ミオは伏し目がちに言った。一方のゴルドは首肯する。
「同意だな。俺は一度、あの音色を聞いちまったが、金縛りにあったみてーに体の動きが制限された。十中八九、サン・ルーの能力とみていいだろうよ」
「帝国の狙いは分からない。なぜ、この地に来たのか。なぜ、あの勇者たちを連れてきたのか。不明点は多いけど、やることに変わりはない」
そう言うと、ミオは立ち上がって洞窟の入り口を目指し始めた。どこにいく、とゴルドが問うと彼女は歩みを止めぬまま振り返る。
「対策を練ってくる。ゴルドはしばらく休んでていい」
ミオは短く告げると二度と背後を見ることはなかった。靴音だけが洞窟内に反響している。
その背中を視線で追っていたゴルドは逡巡していたようだ。頭を乱暴に掻いたと思いきや、腕を組んで唸っている。
彼は、やがて意を決したように立ち上がると、やはり出入り口に向かって歩を進めるのだった。
「本当に休むべきはお前だろうに。……まったく、裏切りの勇者さまは多忙の身だな。仕方ないから俺も付き合ってやるよ」
そうして、嘆息を漏らすと共にゴルドの姿も外の光の中へと消えていった。
残されたアランだけが唖然とした表情で固まっていた。




