第二十六話
「……できた」
黙然として作業を続けていたミオが口を開いたのは、一時間後のことだった。
出来上がった弾薬の総数、四十発。
彼女は続けてその一つ一つを弾倉に込めていく。やはり手慣れた動作で黙々と作業をするミオを横目に、アランが思わず言葉を口にした。
「思ったより数が少ないんですね」
「あったり前だ。簡単に量産できるものじゃないって言ったろうが」
ゴルドが肩を竦めながら言った。工場を見学する子供のように前のめりになっているアランを右手で制す。
作業の邪魔をするな、ということだろう。
弾薬というのにも、いくつか種類があるようだ。
椎の実のような形状をしたもの。これは最も大きさがあるものの数が一番少ない。
また別のものには先端の形は同じながらも、一回り小さいものもある。これは対照的に最も多く作られていた。四十ある数の中でも半分ほどを占めている。
「俺も詳しくは知らねーが、距離に応じて使う弾が違うらしい。このたくさんあるのは確か拳銃用って言ってたな。よく分からんが」
ほう、とアランは顎をなでた。
ヒト族の文明は未知数だ。とりわけ、勇者は異なる世界から来たというのだから、我々とは全く異なる発展を遂げていてもおかしくない。
この銃と弾薬と呼ばれる霊魂器も、ベースは彼女の世界独自の武器に違いないだろう。
いつかゆっくりと話を聞かせてもらえるのであれば、彼女の世界について教えてもらいたいものだ。魔法に組み込めるものがあるかもしれない。
そこでアランは一度強く瞼を閉じると、切り替えるようにして再び目を見開いた。
既にその瞳には好奇心に満ちた子供のような輝きはなく、領主としての冷厳さだけが窺える。
「それで、城砦の方では首尾よくいったのですか?」
ミオの視線が初めてアランに向けられる。
言葉はない。深い水底を映したような双眸が、ただじっとこちらを見据えていた。
ゴルドが少々苦々し気に答える。
「見てわかるだろ。残念ながら失敗だ」
失敗、その二文字を耳にして視線を下げるアラン。
本音を言えば、彼らには期待していた。帝国に召喚された者でありながら、帝国に真っ向から歯向かうはぐれの勇者——シルバーブレッド。
彼女の噂はベネテラ全土に知れ渡っている。帝国の間では裏切り者の勇者として、一方、王国の方では竜騎士レグナードと並ぶ英雄として。
受け止め方は違えど、全ての種族が『銀の魔弾』の名を恐れ敬っている。
それだけに、かの者であれば、もしやと思っていた。
噂通りの傑物であれば、城砦に留まる勇者と帝国兵どもを駆逐してくれると。
しかし、事実、彼女は成果をあげることなく撤退してきた。はっきり言って、落胆もいいところだ。
……それとも、彼女の力をもってしても対処できない難敵がいたのだろうか?
すると、アランが内心に秘めていた疑問を見透かすようにミオは言葉を紡ぐ。
「城砦には勇者たちがいた。一人は無力化したけど残り二人は健在。その中には、少し厄介な子がいた。おまけに強化されたオークまで」
「——っ、オーク、オークと言いましたかッ⁉」
何気なく発せられたその名に、アランが途端に息を荒げる。
オーク。それは、帝国が生み出した化物だ。
その大本になっているのは紛れもないエルフ族。
彼らは捕らえた我が同族たちを魔儀によって改造し、戦のみを好む醜い生物に変えてしまう。想像するだけでもおぞましい。
「ああ、なんてことだ。私の妻も息子も卑劣な奴らの下僕にされてしまう。……許せぬ、許せぬぞ。帝国——いや、ヒトよ。下等な種族の分際で、我らの秘儀である魔法の知識を盗んだだけでなく、あまつさえ、我が同胞にすら手をかけるとは、決して——っ‼」
怒りに血が体内を駆け巡る。千切れそうなほどに服の袖を引っ張る。
きっと今は知的なエルフにあるまじき獰猛な表情を浮かべていることだろう。だが体裁など知った事か。
ああ。憎い。憎い。憎い。
ヒト族の連中を皆殺しにしてやりたい。帝国も王国も関係なく、全てに苦痛を与えてやりたい。この喉の内側が痒くなるようなもどかしさを何とかして取り除きたい。
血走ったアランの目が銀髪の少女を捉えたのは、その時だった。
ゴルドは咄嗟にナイフを抜いた。




