表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/44

プロローグ 銀の魔弾3

それは異様な光景だった。


森の暗闇に煌めくは、散弾銃を両手で握り、その銃口を騎士へと向ける銀髪の少女。


彼女は黒い外套を羽織っていた。その様はまるで暗殺者の如し。外見に負けず劣らず、少女の澄んだ瞳の奥には、歴戦の戦士だけが持つ鋭い輝きが見て取れる。


ただ、死の間際にありながら、騎士はある違和感を覚えていた。


目の前にいるのは確かに少女だ。十三か十四ほどの、まだ年若き少女……。


しかし、なぜか。騎士の瞳には、眼前の少女が年相応の人物とは映らない。


まるで、老齢の賢者のような落ち着き。既に何かを悟っているか、あるいは諦観にも似た色彩を放つその瞳は、幼気(いたいけ)な少女が持っているものでは決してない。


帝国はこの少女とどのような関係にあったのか?


生存本能すら上回る疑念を前に、騎士はその問いを口にせずにはいられなかった。


「……なんで、帝国に敵対する? 君は異界から呼ばれた勇者のはずだ。なら、護るべき対象である帝国を裏切る理由はないだろう」


言い終えて、騎士はふと気が付く。


彫像のように無表情を決め込み、閉口していたはずの少女が、自分の言葉を受けて、わずかに感情の片鱗を露わにするのを。


「知らない方がいい……きっと、そっちの方が幸せ」


深夜の森林に相応しい、凍てついた声が騎士の耳を打った。


次の瞬間、話は終わりと言わんばかりに、引き金に置かれていた少女の指が動く。


間髪入れず、目の前で発生した射撃音というよりも、半ば爆発に近い大音声は、しかし若き騎士の命を優しく刈り取るようだった。


・・・・


一転して普段の静寂を取り戻した森の中。


全てを終えた少女は冷えた瞳のまま、今は物言わぬ骸となった一人の騎士を、静かに見つめているのだった。


「よっしゃ、これで全部だな」


騎士たちが奇襲を受け、全滅してから数分後。


散り散りになっていた馬車を、一か所に集めたゴブリンもどきは、騎士の亡骸から拝借した鍵を取り出した。そのまま馬車の荷台へ向かう。


さながら盗人の如く、手際よく施錠を解いたゴブリンもどきは、残る四台の馬車も同様の手口で終わらせると、気だるそうにその場にへたり込んだ。


「終わった?」


振り返った先、木陰から現れたのは銀髪の少女ミオだ。黒い外套にはどす黒い血がこびりついている。


ゴブリンもどきが答える代わりに首肯すると、少女は表情一つ変えぬまま、馬車の方面へと歩き出した。


「お前が遺体を片付けている間にチラ見したが、ありゃあ大丈夫そうだな。帝国の生命線なだけあって、これ以上ないくらい丁寧に保管されてやがる」


「そう。ならいいのだけれど。念のため、私も見る」


言いながら、少女は手前にあった荷台へと歩み寄り、その取手に手をかける。見た目通り重厚な扉は、しかし、やがて鈍い音を上げながら、その内側に眠る物を露わにした。


黒い棺桶があった。


堅牢な作りの馬車に対し、中にはぽつんと残る質素な棺桶が一つ置いてあるだけだった。


中身を損壊させないためとはいえ、過剰なまでに頑丈に固定されたその箱は、誰が見てもただの棺桶であるとは思わないだろう。少々不気味である。


だが、ミオは棺桶の中身が分かっているのか、迷うことなくその蓋を持ち上げると、中にある物を目にして、息を呑んだ。


「……遅くなってごめんなさい。今、還してあげるからね」


ミオのつぶやきが、狭く冷たい荷台の中にこぼれる。近くにいたゴブリンもどきには、その言葉がわずかに震えているように感じられた。


ミオの視線が向かう先。そこには何者かの人骨があった。


そう。それこそは、かつて帝国のために呼び出され、七災魔と呼ばれる怪物と戦った勇者……だったもの。


今は亡き勇者の遺骸、その内の一つだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ