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第二十一話 

サキはしばしの間、呼吸することも瞬きをすることも忘れていた。


息を呑むような美しさ、とでも言うのだろうか。


黄金の騎士に(とど)めが刺される直前、突如として現れた銀髪の少女は、まるで精巧なフランス人形のように整った顔立ちをしていた。


月のように白い肌。全てを見通すかのような透き通った目には、思わず吸い込まれてしまいそうな力がある。


外見から察するに年齢は十四、五歳というところだろう。だのに、彼女からはあどけなさが一切感じられない。


「すまないミオ。奴らの霊魂器の能力を侮っていた」


サキとアザミを見据えたまま動かぬミオに、ゴルドが申し訳なさそうに詫びる。


「いいえ。私がしくじっていなければ、もっと簡単に終わっていたはず。あなたのせいじゃない」


ミオはゴルドを一瞥すると、その視線を二人の少女の方へと向けた。


「あなたたち、勇者ね」


「……そうだけど。あんた誰よ?」


顔に警戒の色を浮かべたアザミがぶっきらぼうに答える。目が合っただけにも関わらず、射殺されたような感覚が一瞬、彼女の脳内を支配した。


「霊魂器。……特にその笛型の霊魂器は危険なものなの。大人しく渡して」


「頭大丈夫? 生命線である霊魂器を自ら手放すわけないでしょ。それも、見知らぬ女に。てか、私の質問に答えなさいよ——」


一発。


銃声が静寂を切り裂いた。


ぽかりと開いた天井の穴に、サキとアザミの視線が否応なしに引き寄せられる。


当然ながら、ミオの手元が狂って誤射をしたわけじゃない。それは警告だった。もし、言う通りにしないのであれば、次は天井と同じ穴がお前たちの胴体にできるのだ、と。


愕然とする二人を差し置いてミオは続ける。


「霊魂器を渡してくれるのであれば、私はこれ以上あなたたちを狙わない。身柄を保護したってかまわない。それでも譲る気がないのであれば——」


ミオはその後に発する言葉を強調するように、一拍置いて口を開いた。


「ここで殺すわ」



アザミとサキは総毛立つ思いになる。


直感で分かった。この少女、いや、この女には勝てないと。大人しく従うべきであると。


強制力があった。言霊でもあるというのか、彼女の放った「殺す」という言葉には、その意味以上に強い力がある。


「あなたたちの仲間、やくしの霊魂器を持つ男はさっき森で倒した。殺してはいないけど、早く助けにいくことね。あの状態じゃ長くはもたない」


「うそでしょ? アイツが?」


蒼白だったアザミの顔から、さらに血の気が引きていく。


「早く決めて。大人しく霊魂器を渡すか。仲間と一緒に死ぬのかを」


言いながら、ミオが一歩近づく。その細い足が音を一つ立てる度、途轍もない緊張感が室内に迸る。


やるしかない。追い詰められたアザミが玉砕覚悟で攻勢に転じようとした——その時だった。


扉の開く調子はずれな音がしたのは。


「いいや、死ぬのはあなたですよ銀の魔弾」


背後から聞こえてきた、しわがれた男の声にミオは反射的に拳銃の銃口を向ける。


その先には白衣を着た老齢の男が立っていた。


一人ではない。その男の背後には恐らく精鋭であろう屈強な騎士が控えている。それだけで、白衣の男が相当位の高い人物であることが容易に想像できた。


「久しぶりですな、銀の魔弾。……いや、元勇者のミオ君とお呼びしたほうがよろしかったか? 相変わらず、姿は変わりませんのう」


白衣の男は笑顔を絶やさぬまま、まるで孫と数年ぶりの再会を果たしたように、両手を広げる仕草をするのだった。

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