第十七話
一方——城砦では。
「……攻撃が、止んだ?」
アザミは身構えていた体勢をわずかに緩めた。
突然のことだった。爆発でも起きたかのような衝撃があった。
意識が朦朧としたのもつかの間、衝撃の正体が敵による奇襲と察したアザミは、右腕にはめていたブレスレット型の霊魂器を起動。
続く第二の攻撃がくる前に、崩壊しかけていた障壁を再構築したのである。
しかし、代償はあった。
「アザミさん、その腕……!」
あれこれ思考を巡らせていると、近くにいたサキが金切り声を上げた。
耳障りだなと思いつつも、彼女が声を荒げた理由を知ってアザミは歯嚙みする。
右腕、正確にはブレスレットのはめてある部分から大量の血が流れていた。
アザミが持つ霊魂器の能力、それは一定範囲に展開される障壁だ。
上位の七災魔はいざ知らず、中位までであれば、それらの攻撃を完全に防ぎきることができる。
まだ試したことはないが、同じ霊魂器の攻撃であっても数回は持ちこたえるだろう、とアザミは考えている。
しかし、堅牢さを誇るこの霊魂器にはデメリットがあった。
使用者は、障壁が受けた分の損傷の半分を受けることになるのだ。
肉体が直接攻撃を受けるわけではない。故に、少しすれば痛みはひいていく。
しかし、以前、上位の七災魔と戦った際は、しばらく意識がとんだことがあった。全身を駆け抜ける激痛に、体が耐えられなかったのだ。
不運にも、今回も同じような状態にある。それほど、力を持つ者による一撃だったのだろう。
だからこそ。
「……攻撃が止んだからといって、次が来ない確証はない。さっさとこの場を離れるわよ」
と、アザミがそう言った時だ。
向かおうとしていた部屋の扉が、おもむろに開いたのは。
「悪いが、そうはいかねーよ」
くぐもった声が聞こえると共に、部屋の中の灯りが不意に消えた。
瞬きの出来事だったのだろう、開いた扉の付近には何者かの姿はない。しかし、この室内に彼女たち以外の気配が感じられる。
警戒しながら、アザミは部屋全体に話しかけるように語りかけた。
「陽動……もしくは、奇襲に失敗した時の保険といったところね。あなた、敵の仲間でしょ」
「標的を前にして語るのは、あんまり趣味じゃないんだがな。正解とだけ言っておくぜ嬢ちゃん」
暗闇の中から声は告げた。
どこか嘲りの混じった声に、しかしアザミは薄く笑ってみせる。
「作戦通りのつもりなのかしら。けれど、こっちにとっても好都合なのよ。のこのこ敵の方から乗り込んできてくれるなんてね」
アザミは右腕にはめていたブレスレットに触れた。同時に室内が半透明な膜に覆われる。
「今、この部屋全体に結界を張ったわ。これであなたは逃げられない」
「随分と強気だな。まるで、自分たちの方が格上だと信じて疑わないような物言いだ」
「ええ、こっちには勇者が二人いるのだから当然よ。それとも、女二人であれば造作もないと思っていたのかしら。不快ね」
眼前に広がる闇を睨みながら、アザミは考え続けていた。
今のは虚勢だ。状況は少なくとも良くはない。
しかしながら、敵の狙いもおおよそ分かる。
恐らく、標的は例の霊魂器を持つサキだろう。ならば、対処法も少しは考え付くというもの。
暗闇から視線を離さぬまま、アザミは再度ブレスレットに触れた。
次の瞬間、サキの周囲に幾重にも膜が張られ、その数は優に二十へと至る。
「サキ、あなたはアレを使いなさい。その間、私が時間を稼ぐ」
「……でも、アザミさん」
「いいから、やって」
戸惑いをみせるサキに、アザミは突き放すように言う。
サキはそれでも、もたついていたが、やがて服の内側から笛のような物を取り出した。
それでいい。アザミは内心で不敵に笑った。
先手を取らないことには、勝ち目のない相手だと悟っていた。
先ほどの凄まじい一撃。
あれを放った敵の仲間ということは、この部屋に侵入した敵もまた同等の実力を持っているにちがいない。
故にこそ、最も勝算のある可能性にかける必要があるのだ。
そしてアザミは再度、室内を睨み据えた。
暗闇の中に現れた不気味な瞳。それと目が合った。




