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第十話 

かくして我々は異邦鏡を完成させた。


かの大鏡からベネテラに召喚された者を勇者と名付け、七災魔との戦いへ誘う(いざな)。世紀の実験の舞台となったのは帝国の首都——アルカディア。


ベネテラ歴742年。最初にこの世界に呼び出されたのは、わずか十歳の少年だった。


名前は「  」。彼は当初、終始混乱しきった様子であり、しまいには暴れ始めたため、止む無く帝国の衛兵に拘束させた。


隷属の魔偽をかけ、従順になったところで早速、捕縛していた七災魔の眷属と戦わせてみる。


だが、なんということだろうか。異界の少年は我々の期待を大きく裏切り、あっけなく敗北した。


それはとても戦いと呼べたものではない。一方的な殺戮であったといえよう。


七災魔の眷属は殺すだけでは飽き足らなかったのか、少年の死肉を貪り始めた。


すぐさま衛兵が止めに入るも遅い。残ったのは、かつて異界の少年だったもの。


帝国の人間、もとい皇帝はひどく幻滅した。異なる理に属す異界の者であれば、超常の存在である七災魔にも対抗する力を持っていると考えていたからだ。


実験の主力を担っていた私もまた、この結果にはひどく落胆した。


早晩(そうばん)、計画は打ち止めになるに違いない。誰もがそう考えた時のことだ。


四大賢人の一人、イドリス•エルダルが言った。


『異邦人の遺骸。このまま捨て置くのは、あまりにも惜しい。なれば、例の試作品に使用してみるのはいかがか?』


例の、と彼は言った。それは三年前、我々が初めに着手した、とある計画のことを指す。


太古よりベネテラに住まう幻獣、それら神秘の力を持つ生き物から、七災魔に対抗するための武器を生み出せないか、という発想から始まった実験。


しかし、計画は難航した。いくつか強力な幻獣を殺し、彼らの持つ特別な力を持った武器を生み出すことには成功したのだが、肝心の担い手がいない。


いや、これでは語弊がある。正確には、生み出された武器には、幻獣たちの怨念が宿っていたのだ。


被験者となった兵士の全てが、その幻獣の怨嗟の声に耐え切れず、よくて廃人化、最悪の場合、自死に至った。


         〈中略〉


ベネテラにおける死生観について、もはや記すことはない。されど、ここでもう一度、私はそれについて論じる必要がある。


我々は、死者が出た時に埋葬を行う。それは死体が場所を取るだとか、異臭を放ち疫病を発生させるのを防ぐためだ。


しかし、埋葬を行う真の目的はそこではない。


死者を弔うことなく、肉体が地上に残り続けた場合、知っての通りだが、亡き者の魂は永劫にベネテラの大地に彷徨うことになる。


埋葬された死者は、命の源泉たる大樹「エリオスの心臓」に還るのに対し、残された者の魂は、地上に留まり続けるのだ。


そのベネテラの原理は当然ながら、武器の素材となった幻獣たちにも当てはまった。無論、無残な死肉と成り果てた勇者にも……。


そこで、四大賢人のイドリスは幻獣から出来た武器、その核となる部分に、勇者の死体を用いることを提案した。


幻獣の怨念を鎮めるため、そして制御下におくため、隷属たる勇者の魂でそれを封じ込めたのだ。


そうして完成したのが「霊魂器」。


幻獣と勇者を融合した狂気の産物にして、現状、七災魔を討つための唯一の武器。


これを知った他の種族は、我ら帝国を非難した。


とりわけ因縁の深いエルフたちは、憤慨するどころか、七災魔との抗戦よりも、帝国との戦いに注力しかけたのである。


確かに、我らの行いは決して容認されるべきものではない。それはこの禁忌の実験に関わった者全てが感じていることだろう。


しかし、だ。


それがどうしたというのか。


我らは七災魔、そして他の種族との生存競争を勝ち抜くために、この研究に行きついただけのこと。


そしりを受けようが構うものか。この世界では力なき者から滅びる定めにあるのだから。


故に、私たちはこの実験を継続した。その努力が実を結んだのは二年後のこと。


計画が一つの完成形を迎えたのは、四代目の勇者たちが召喚された時のことだった。


                 四大賢者——カダン・セルスタルの手記より


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