テレビって知っていますか?
『特番!深夜番組のお時間です!』
ジジッと壊れかけのテレビに明かりがつく。
ガビガビの画面には誰も写っておらず、無機質な女性の音声と白背景に黒文字だけ。
番組が始まると今まで、誰もいなかったスクラップ置き場にゴキブリのようにウジウジと薄汚い人間どもが集まってくる。
光はテレビ画面のみ。あたりは闇夜に包まれている。
テレビ画面を目玉が溢れそうなほど全員が見つめて、音声に耳を傾ける。
誰一人声をあげず、画面が変わるのを待っていた。
『エラーサイドの皆さん。極楽浄土に行きたいですか?それとも、きっっったないゴミ溜めでクソみたいな人生を歩みたいですか?』
ジジッと画面が変わると人々は一斉に騒ぐ。
──アァァァァァ……。
人間とは思えない、きったない嗚咽のような声。
『あらあら。流石エラーサイドの皆様。何言っているのかわかりませんね』
表情はわからないが、声色は呆れている。
会話ができていることに関しては誰も驚かない。ここでは普通。テレビと会話は普通。
反論するように人々は騒ぐ。
あ。の一言でも皆、個性的。訴えるように叫んでいる者。絶望している者。ただ叫んでいる者。
『まずは、こちらのコマーシャルから!』
女性の明るい声とは裏腹に、画面は真っ暗になる。
『新発売。大きな木。マイナスイオンあふれるこちらの普通の木。一人一ついかがですか?今なら右腕一本と交換します!』
不気味なコマーシャルから、今度は元気な男性の声。
先ほど、女性が話していた画面とは逆で黒背景に白文字。
誰一人声を上げることなく、画面を食い入るように見ていた。
『はぁ……。毎日、毎日同じ日々の繰り返し。あと三十年は続く。何も変わらない日常。狂いそうになる。思い当たる方は、この本を食べて。食欲の読書より販売中』
『大きくなった。小さくなった。人の心は変化する。変化に疲れた方は心臓摘出しましょう』
文字だけのコマーシャルが一通り流れ終わると、女性の声に切り替わる。
『お待たせしました!本日より極楽浄土の仲間入り。選ばれた方のご年齢とお名前を表示します』
後光さすエフェクトと天使のイラストと共に、ゆっくりと画面が切り替わっていく。
今まで無表情だった人々の瞳に光が宿る。
九十歳……立野まず。
八十八歳……此処裏まこ。
八十二歳……笹崎きき。
七十三歳……架作けれ。
六十六歳……世久保ぞりか。
『以上の方おめでとうございます!すぐにお迎えに上がりますのでもうしばらくお待ちください』
発表者された者はその場で蹲り、目から大粒の雫を垂らす。
そして、名前がなかった者はスクラップ広場全域に響き渡る声で叫んでいた。あ。のみの叫び声は緊急サイレンのようだった。
『うるっせーな!』
画面から男性が吐き捨てるように話し出す。
『てめーらが悪いんだろ。テレビ見ねーから』
『まあまあ、仕方がないですよ』
女性は男性を宥め、付け加えるように話す。
『テレビよりも便利なものがありますから。我々は必要とされていませんよ。そうですよね?……人間の皆様』
画面は真っ赤に染まったのち、しばらくお待ちください。とのどかな湖畔が映し出される。
『失礼しました。後ほど石油……いえ。えーっと人間の食べ物……。雑草と水を落としますので上空に視線を向け、口を開けて待っていてくださいね』
テレビ画面にはウサギのキャラクターが目を輝かせて嬉しそうに口を開けている様子が映し出されている。
画面の向こうにいる人物(?)は人間という生物が何かわかっていないようだった。
わかっていることは、自分達とは違う生き物ということ。正常な自分達とは違い「テレビ離れした」エラーを起こしている者たちの集まりということだけ。
『次の放送は十年後です。それまで自然エネルギーを蓄えておいてくださいね。それではさようなら』
残された「テレビを見なくなった者たち」は一斉に騒ぐ。
──アァァァァ!
早く此処から出たい。
次の放送をしてくれ。
届かない声はエラーサイド中に響いた。
今日も、テレビに支配された世界で人間たちは煤だらけのスクラップ置き場を彷徨っている。