試作
チハたんの後継車ですが。
「またダメか」
「前回よりはいい。閉鎖機を小さくしすぎて耐えられなかったからな」
「そうだな。今回、閉鎖機は耐えられたが、駐退機が負けた」
「駐退機は小型にしたいからな」
「砲塔をデカくすれば良いだろ」
「あまりデカいと車体に積めん。第一、小さくて軽いと反動に負けるぞ」
「車体もデカく重くするしか無いか」
「輸送の問題が有って大きく出来いないからな」
「上に投げよう。デカくして良いかを」
「さて、新型戦車だが「大きく重く出来ないか」という上申が上がってきた」
「小さいから威力の有る砲が積めないのは判るが」
「砲戦車なら可能だそうだ」
「砲戦車だと砲塔が無いやつだな。正面しか撃てんのは、ちょっと」
「どの位なら可能なのだ」
「30トンと言ってきている。このくらい無いと反動に耐えられないそうだ」
「反動か。砲戦車ならいいと言うことは、正面ならいいのだな」
「横向きで撃つと反動に負けて、どこに弾が行くか分からない戦車になりそうだと」
「そう言えば、海軍さんは絶対に重い台車に積むようにと言っていたな」
「三景艦という船で痛い思いをしたそうだ」
「しかし30トンも有るのでは、移動や輸送が出来ないぞ」
「橋は落ちるし、道路は凹む。鉄道貨車には従来の積み方では重くて積めない。港湾でもそれだけの重量を持ち上げるデリックが無い」
「やはり砲を小さいのにすべきか?」
「最新情報では、正面装甲50ミリは当たり前だそうだ。小さい砲では撃ち抜けない」
「やはり57ミリ以上が必要か」
「長期に渡って使うなら、それ以上だな」
「海軍さんの艦砲だからな。威力はある。陸軍ではこんな砲は作っていない」
「九八式八糎高角砲か」
「90式野砲か八八式野戦高射砲では」
「「どうせなら新型で威力の有る砲を」と言ったのは貴君だったな」
「そうだった」
「九九式八糎高射砲は重すぎてダメだし」
「50トン級になりそうだからな。作れないよ」
・・・
・・・・・・・・・・
・・・・
「上からの返事だ」
「軽量な砲戦車と重量級戦車の2本立てだと?」
「で~き~る~か~~~!!」
「でもやれと」
「金は有るのか」
「有るというか、工面すると言っていた」
「じゃあ三菱も巻き込んで良いのだな」
「製造は三菱だからな。企画設計から巻き込めば、良い物が出来るだろう」
「三菱重工車両設計部の松下です」
「よく来てくれました。参謀本部第三部調達課坂本少佐であります。で、こちらが」
「陸軍造兵廠中井少佐です」
「新型戦車の件だそうですが」
「ようやく搭載戦車砲の見込みが立ちましてな。それに合わせて車体設計を始めます」
「それでは遅いのでは?」
「なにしろ従来に無い強力な戦車砲ですので、確実性を求めておりました」
「強力ですか。57ミリ戦車砲では無いと」
「噂は聞いているでしょう。戦車関連の」
「戦車戦では通用しないとか」
「ですから将来展開を見て、思い切った砲を開発しました」
「凄そうですな」
「凄いんです」
「威力が凄いと言うことは、重くて反動もきついということでよろしいですか」
「そのとおりです。それで戦車と砲戦車の二形式を作ることになりました」
「…‥(勘弁してくれ)」
1941年8月4日。
「あー、ジメジメして暑くて嫌だな」
「そう言うな。試験だ試験。潮風は快適、でもないな」
「風が強くてジメジメして暑い」
「うるさいぞ」
「すまん」
伊良湖射場に新開発の砲戦車を持ち込み、本日は実車試験で有る。満州や北海道の方が広くて良いのだが、往復で時間が掛かりすぎる。
持ち込まれた砲戦車は、チハを土台に足回りを反動に負けないよう強化し、エンジンも機動性を高めるべく馬力を上げた車両だ。
ダメだった。反動を上手く吸収できない。さらに強化しなければ。機動力も海岸のきつい部分を上れない。車重が重くなっており、強化されたエンジンでも馬力が足りないようだ。三菱で新型が相次いで完成したと聞く。目処が付いただけ良しとしよう。
正式採用される砲戦車に搭載するのはエンジンは、統制型一〇〇式空冷V型12気筒で220馬力以上は出る。
今度は傾斜を上がれるだろう。
その頃にはヨーロッパでの戦いが耳に入ってくる。イギリスは地中海を守るべく必死のようだ。地中海を失えばイギリスは負ける。政治的な味方はいても、戦力的な味方はいない。アメリカは物資の供給はしても、戦争自体には参加しない。レンドリース法は対枢軸国戦争を行っている国向けの法だが、日本が中国と講和をし、ソビエトはドイツと戦っていないためにイギリスと自由フランス向けだった。正直イギリスの形勢は悪い。
アメリカでは変化が有った。
中国と日本が講和したことで、アメリカ合衆国の対日政策も変わってきた。満州へのアメリカ資本投下も簡便になるなど、日本側の譲歩も有る。さらに自主軍縮を実行中で有り、両用艦隊法が不成立となった。朝鮮半島への色気も見せているようだ。
対日強硬派であったルーズベルト大統領が三選不出馬を決め、ウィルキー大統領が誕生。
戦車の開発は滞っている。
エンジンの馬力が足りないのだ。400馬力近く必要とされるが、空冷の統制型ディーゼルでは力が無い。ギヤ比を下げれば悪条件でも、というが決定的に実使用時のトルクが足りなかった。これでは機動力など発揮も出来ない。
車体は出来ている。エンジンが無い。三菱に新型の開発をせかしている。自由にさせろと言ってきたので自由にさせたら、出来たらしい。三菱統制型二式空冷V型12気筒350馬力。開発は三菱だが、統制型に嵌めたぞ。馬力を表すかのように、ずいぶんデカい。
車体は、自力移動の時は走行する道を厳選し鉄道輸送を半ば諦め、港湾でも大型デリックの有るところしか使わない事にすればとなった。
戦車トランスポーターは?と言う声に。
日本で走行可能な道や橋がどれだけあるのか、と。
一式中戦車試案 試作1号車は1942年初頭完成予定
(既に二式になろうとしている)
車体幅 2.75メートル
車高 2.7メートル
全長 6.7メートル
自重 26トン
エンジン 三菱統制型二式空冷V型12気筒350馬力
最高速度 35km/h
主砲 一式76ミリ戦車砲1門
機関銃 一式車載機関銃2基
装甲
砲塔正面 75ミリ
砲塔側面 50ミリ
砲塔後面 50ミリ
車体前面 75ミリ
車体側面 30ミリ
車体後方 40ミリ
一式76ミリ戦車砲は、九八式八糎高角砲を戦車砲化。機関部を小型化すべく、薬莢の小型化をしている。砲弾60発搭載。
海軍開発の徹甲弾と榴弾をそのまま採用している。軍事監査課から海軍の弾薬でと注文が付いたからだ。榴弾は高角砲として開発されたので対空榴弾。徹甲弾は被帽徹甲弾で炸薬入り。
一式車載機関銃は八九式固定機関銃を車載用にした物。ベルトリンク式。一連100発のベルトを30本搭載。
三菱統制型二式空冷V型12気筒エンジンは400馬力以上を試作段階で出しており、出力の安定ができ次第積まれることになっている。
あの当時、日本で一番高性能な75ミリ級の砲はこれしか無いです。新開発よりは時間が稼げるはずですが。
三菱統制型二式空冷V型12気筒350馬力は400馬力以上に進化する予定です。